第六話 『悪魔に呪われた村Ⅴ』
屋敷内大広間には、多数の病人が床に伏している。
部屋を見渡し、状況判断に努める僕とシキ。
「ルリル様、応援が必要です。きてください」
魔族たちに敵意がないことを確認し、テレパシーを通じてルリルとサーヤを呼ぶ。
大広間に駆け付ける二人。
「これはいったい……」
「うん、やはり呪いではなく病気のようなんだ。サーヤの過去視で何があったか知りたいところだけど、まだ感染の危険性も拭えないからハイディングを解くわけにいかない」
「そうね。ハイディングは生物全てを避けてしまうから、村人に触ることができないし」
「むうー」
「とにかく! 何があったのか説明してくれるかな!」
シキが腰を抜かしている魔族の男に、剣の切っ先を突きつけ問い質した。
「完全に脅迫だな……」
「しかし、魔族と人間が共存……というのか、仲良くしているなんて光景、驚きだわ」
「いったいどうなってるのかな!」
「いやそれが……俺たちもこんなはずじゃなかったんだ! でもうちの隊長がさ……」
魔族の男が、寝込んでいる別の女魔族を指差して話しだした。
隊長と呼ばれる女魔族も腹こそ膨らんでいないが、やつれた様子で人間に看病してもらっていたのだった。
魔族の話によるとこうだ。
1ヵ月ほど前のある日、やはりこの村を占拠しようと、ワイバーンに乗って魔族たちはやってきたらしい。
上空からスミレクの村を見下ろす複数の魔族。
隊長らしき女魔族が部下に言い放つ。
赤い瞳をした冷血そうな美女隊長。
「魔王様の命により、妾たちはこの街を占拠する。人間どもに豊富な食料を献上させ、支配するのじゃ」
「はっ!」
こうして魔族たちは、村の中心部に降り立ったそうな。
「な、なんだ!?」
「魔族よ! 魔族が来たわ!!」
逃げ惑う村人たち。
「なんだ、戦う意志ももてぬ愚か者共め。見せしめに一人殺してやろうかのう」
「隊長、あの屋敷に隠れているようです。全部つぶしちまいましょうぜ!」
「ならん。人間どもを奴隷として働かせずに、誰が作物を育てるというのだ」
女隊長は意気込む魔族の男を制止した。
「そっすね……箸より重いものを持ったことのない隊長に、畑仕事なんてできるわけないっすもんね」
「……なんじゃと?」
ぎろりと睨む女隊長。
「いえ、なんでもありません! では適当に攫ってきます!」
魔族の男は屋敷の中へ入っていった。
しかし、しばらくして手ぶらで戻ってきた魔族の男。
「どうしたのじゃ?」
女隊長、首をかしげながら尋ねる。
「隊長、それがおかしいんす! 中の奴ら、みんな死んだような目をしてて。俺にビビるどころか、助けを求めてきやがったんすよ! しかも腹に子がいるような奴らも結構いるんす!」
「男はおらんのか?」
「いや、男も妊娠してるんすよ!」
「……冗談は顔だけにしろ」
ジト目で魔族の男を見つめる女隊長。
「マジなんすよー! なんなら見てきてくださいよ!」
「ふむ……」
女隊長、眉間にしわを寄せながら少し考える仕草をし、自ら屋敷へと入っていったのだった。
屋敷内で魔族の女隊長が目にしたのは、病気でやつれた村人たちの姿だった。
「なんじゃこれは……なにがあったのじゃ?」
女隊長、看病に当たる村人に問いかけた。
「私たちはもう終わりです……次々と倒れていく……」
「じゃから、何があったと聞いておろうが」
女隊長の鋭い睨みにも反応しない村人。
まさに生きる気力をなくしているといった感じだ。
「わかりません……あなたがた魔族の仕業じゃないんですか……?」
「たわけ。どうして妾がそのようなこと」
「す、すみません……もうどうすればいいのやら……神でも悪魔でもいい……どうか我々をお助けください」
「チッ、このような状態では作物どころではないではないか。このままでは魔王様に顔向けできん。妾がこれから支配しようという村を、こんな目に合わせた奴は誰じゃ」
その時、外が一瞬明るく光り、屋敷内を明るく照らした。
「雷か?」
そこへ魔族の男かやってきた。
「隊長、大変っす! なんかこの村、まるごと結界張られたみたいっすー!」
「なんじゃと? 誰の仕業じゃ?」
「人間どもっすよ! なんか爺さん婆さんの魔法使いが、四方囲んで結界張りやがったっす! 俺らを閉じ込めるつもりっすよ!」
「はあ? ここにまだ村人もおるのにか? 仲間ではないのか?」
「そ……そんな……」
話を聞いた村人は泣き出した。
「貴様ら、まさか見捨てられたのか……」
「きっと魔族討伐の名目で、奇病ごと村から消し去るつもりだわっ……」
落胆し慰め合う村人たち。
「おい、結界は壊せんのか?」
「それが、俺らと特に相性の悪い聖魔法なんすよ! やられたっす!! このままでは諸共全滅っすよー!」
それを聞き、怒りに震える女隊長。
「ゆ……許さんぞ……必ずやここから出て、妾を閉じ込めた人間どもを殲滅してやろうぞ……」
「しかしこのままでは我々も飢えて死んでしまいますぜ! この人間ども食えますかねー?」
魔族の男、村人を見ながら舌なめずりをした。
「ひっ……」
「たわけ」
女隊長は魔族の男の頭をこついた。
「こやつらは裏切られたんじゃぞ。すでに我らは、憎き敵を倒す同士ではないか。義理も人情もないような悪い奴らを、ともに倒そうぞ」
「や、魔族にも人情とかないと思うんすけど……」
「黙れ阿呆。わかったらとっとと畑を耕して来るんじゃ」
「…………え?」
「じゃから、畑を耕し、稲を刈って来いと。妾もこやつらも、食うもんがないじゃろ」
「……………………うそでしょ!?」
――という感じで魔族たちも、この村に幽閉されてしまったらしい。