第六話 『悪魔に呪われた村Ⅲ』
僕たち四人は、感染を危惧して宿屋でも食べ物には手をつけず、水魔法と火魔法で蒸留した飲料水だけを口にしていた。
翌朝、早速スミレクへ現地調査へ向かうため、武装して集合した四人。
「おなかすいたの……」
「ごめんねサーヤ、確認がとれるまでは我慢だ。それに本当ならもっと早く、船内でもこれぐらい気を使っとくべきだったぐらいなんだけど」
多くの人を助けたかったから、まずは医者を死なすなってやつだ。
「スミレク、乗り込みますか」
「はいなの!」
「それで大将が言ってた身体の変化、思い当たる病気はあったのかな?」
「うーん……昨日一晩ずっと考えてたんだけど。ごめん、まだわからない。ただ少なくとも黒死病ではなさそうだ。やっぱりこの目で見てみないと。本当に魔王の魔法とか呪いかもしれないし」
この世界にどんな魔法が存在するのかもまだまだ勉強不足だからな。
「ハイディングはまだ解かないほうが良さそうね」
「はい。申し訳ないです、負担かけるけどお願いします」
「大丈夫よ。あなただけ有料だけれど」
「なんでーさ!」
スミレクには馬車で行く。
王女様を治した報酬などで、割と懐は温かい。
なので運転手付きの馬車を借りたのだ。
「ご案内できるのは村の手前までですからね」
「承知してます、そこからは歩いて行きますので」
念のためリスターキのシキ父に手紙を出し、マスクや眼の保護ゴーグル、手袋などを特注している。
この世界にないものはだいたいのイメージを絵にかいて知らせた。
衛生の重要性に理解があるシキの父親のことだから、いいように探すか作るかして届けてくれるだろう。
届くまで数日はかかるだろうから、今回は簡易の調査目的でスミレクへ向かう。
ハイディングで乗り切るつもりだ。
――スミレクにはお昼ごろに着いた。
運転手が村のそばで馬車を止める。
「あそこがスミレクです」
と、運転手が指差す先には、四角錐状に半透明の膜で覆われた村が見えている。
「結界か。ルリル様、どうにかなります?」
「もちろんよ。任せて」
「じゃあ、運転手さん。行ってきますね。日が沈んでも戻って来なければ、先に帰ってくださってて大丈夫ですので」
「かしこまりました。その時は明日またここで待っておりますね」
「助かります」
「お気をつけて」
僕たち四人は馬車から降りて村の方へ歩き出した。
「で、どうやって結界の中に入るのかな?」
「ルリル様のことだから結界に穴を開ける魔法とかあるんでしょう?」
「そんなことしなくても手っ取り早い方法があるわ」
「どうするんすか?」
そんな話をしながら結界の手前までたどり着いた僕たち。
ルリルは早速、結界に手を当てて何かを確認している。
「ふむ。この程度の結界なら」
「まさか壊しちゃう感じですか? ヤバイんじゃ」
「解除してすぐに張り直せばいいの」
「えー!? こんな巨大な結界! ルリルっち、いったいどんだけ魔力高いんだい!」
「ふふん。任せて。それに穴を開けるより魔力の消費は少ないわ」
ルリルは杖を掲げ「ディスペル」と呟いた。
すると結界は一瞬にして散り散りに砕け、光の粒子となり空中へ拡散していく。
「すごいの!!」
僕とシキはぽかんと開いた口がふさがらない。
「さあ、中へ」
先程の位置から一歩ずつ踏み込む僕たち。
「セイントウォール!」
ルリルはまた杖を掲げ呟いた。
空を見上げると、巨大な三角形をした鏡のようなものが四枚出現。
雲が割れ、眩しい太陽に反射されてギラギラと輝くそれは、ぐるぐると回りながら四角錐となって村全体を囲んだ。
「……」
僕とシキはあっけにとられて無言になっていた。
「んっ、これでよし」
ルリルは何事もなかったかのように冷ややかな顔で歩き出す。
「って、そんな華奢な身体ですっごいことできるんだね!!」
「いやほんと……見直したよ」
「かっこいいのー!」
ルリルが頬を赤く染めながらうつむく。
「……何をしているの? さあ行くわよ」
「照れちゃって! かわいい……うぶしぇ!!!」
僕のみぞおちに杖をぶっ刺すルリル。
「うるさいわ……」