第五話 『王子妃と結婚指輪Ⅶ』
数日後――
僕たちは城のパーティに招待されていた。
手術の成功を祝う会だ。
「ふあああ……眠い。てか今日のルリル様はいつにもまして美人ですね。ピカピカの宝石みたいですよ」
優雅なドレスで着飾ったルリルが、僕を見て呟く。
「あなたはまるで米粒ね、それも服にこびりついてカピカピになった」
「!?!?」
ご褒美罵倒あざっす。
下垂体腺腫の病態や手術内容は、ルリルを通して王様を始め王太子妃のご家族様にも、詳しくイメージ付で解説してもらっていた。
頭の中を切るなんて異世界では反対されそうなことだが、賢いルリルによる微に入り細を穿つインフォームドコンセントのおかげで、ご家族の同意もすんなり取れていたわけだ。
手術では出番がなかったけど、もちろんサーヤの過去視による診断補助も助かった。
もちろんセキア様に僕らを紹介したシキの手柄もある。
そこで、今日はパーティに四人で呼ばれてるわけだ。
セキア様も参加されている。
「皆さま、この度は本当にありがとうございました」
セキア様は僕たちに向かって上品にお辞儀をした。
術後の合併症もなく、すでに何事もなかったかのように日常を過ごしているらしい。
「(うんうん。術後良好っと)」
さらにこの先、王太子妃がご懐妊されたら勲功式が開かれるかもしれないそうだ。
周りの視線が熱い。
でも城のみんなが僕をほめたたえてくれるけど、どう考えても勲功をたてたのは僕よりルリル様だろう。
執刀は僕じゃなくても知識さえあればできるだろうけど、全てにおいてルリル様なしではありえなかった。
この世界の歴史を変えるのはルリル様だ。
間違いない。
もっといろいろ学んでもらおう。
僕の知ってる限りのことは伝えていきたい。
――その後、謁見の間へ呼ばれた僕とルリルの二人。
リスターキ国のイケメン王様が感謝を述べてくれる。
「琢磨殿、こたびの手術とやらで義娘を救ってくれたこと、誠に感謝する」
「いえ、ルリル様をはじめ、みんなが協力してくれたおかげです」
「して、そなたをリスターキの国家治癒術師と迎えたいと考えている。むろん生活は連れの者たちも含め、生涯保障する」
「え、国家治癒術師すか?」
「ああ。我ら専属の治癒術師として仕えてくれるならば、望むものならなんでも与えようぞ」
「え、病気だけみてれば何しててもいいんすか?」
「ああ。戦闘に参加せずともよいし、食べ物も嫁もなんでも与えよう」
「うほ」
するとルリルがズイっと僕の前に出てきた。
ちっちゃい頭が僕の胸の前あたりにくる。
「(やはり後ろから見ても天使だ)」
と、ルリル、両手を広げ僕を守る姿勢をとった。
「琢は私の物ですので」
「え?」
ルリルの言葉に動揺する僕。
「ちょっとルリル様、何を言って……」
「コホン……いえ、間違えました。グモール国の物ですので」
ルリル、咳ばらいをして言い直した。
「(モノ扱いですかい。しかし、気のせいかルリル様が僕を取られることに少しムッとしてたような……ちょっと嬉しいんですが)」
「ほう、そなたは確かグモールの」
「賢者ルリルと申します」
「ふむ。噂には聞いていたが、違わぬ美しい容姿だな。ということは、もしや……琢磨殿はそなたが召喚した勇者か」
「え、いや……僕は」
焦って目線をあっちこっち泳がせる僕。
「(やっべ、バレちまう。助けてくださいルリル様!)」
「おっしゃる通りです」
「って、ルリル様!?」
「やはりか」
あっさり認めたルリル。
「(まあ、王様に嘘ついたりしたらどうなるかわからんしな。よくわからん時のルリル様頼みだ。任せますよ)」
「そうか、ならこの国にとどめておく術はないだろう。惜しいが、魔王討伐の使命があるならば」
「はい。この者は必ずや魔王を倒し、この世界を救ってくれるでしょう」
「ちょっとルリル様! 僕はできればゆるーくハーレム生活したいなーなんて……」
ルリルが召喚した時のような蔑んだ目で、僕を見つめてくる。
「(まったく、そんなんだから周りから変態ロリコン野郎と呼ばれるのよ)」
「(え、呼ばれてるんすか!? サーヤとか連れてるから?? むしろ僕はルリル様みたいな美女がタイプなんですけど!!)」
っつっても、ルリル様でもじゅうぶんロリコンになるのかな?
あの知識量からいくと、精霊族だから実年齢より若く見えるだけなのかと思ってるんだけど。
一体いくつなんだろう。
でも本当に惹かれてるんだよな……僕はご主人様に。
「(来世に期待しなさい……バカ)」
と、ルリルがまた罵ってきたので、振られた僕はしょんぼりとしながら彼女を見ると、意外にも俯いて顔を真っ赤にしているルリル。
「(もしかして照れてます……? かわいい――うぶしぇ!!)」
グーパンが飛んできました……。
そしてルリルがつぶやく。
「(……ロリコン外科医、いい加減懲りろ)」
「(逆から読んでも……って、なにその上手い回文!)」
僕が突っ込むと、いつも無表情なルリルが「ふふ」と相好を崩した。
すぐまたクールな顔に戻るも、それは僕に見せてくれた初めての笑顔だったように思う。
こんな顔もするんだな。
「天使すぎ……」
ルリルに見惚れる僕。
召喚されて来た頃には絶対に見れなかった顔だ。
少しは仲良くなれているんだろうか。
「では私たちは魔王のもとへ向かわなければなりませんので、そろそろ」
「うむ、承知した。我が国も最大限の支援はさせてもらうとしよう」
「ありがとうございます。近くで魔王による被害などの報告はありませんか?」
「なに勝手に話すすめちゃってんすか!? ギュントス倒したら終わりって約束じゃなかったんすかあ……」
「そういえば東に浮かぶ島国のとある村が、まるごと呪われたとの報告があったな。魔王によるものかもしれないぞ」
「呪いですか」
「ああ。そのせいで我が国への穀物の流入が減っていてな。救ってくれるとありがたい」
「わかりました。なんとかしましょう」
「ちょっとルリル様! 僕の意見は!?」
「もちろん、はいかイエスで答えるのよ」
「はい……」
「よし」
罵倒天使、手ごわし。
まあでも、意味がないかもしれないことでもやってみよう。
でないと起こる奇跡も起こらないってルリルもゆってたしな。
それにまた、ルリルの笑顔が見たい。
罵倒もいいけど、彼女の笑顔は僕の原動力のひとつとなることに今気付かされたから。
これは恋か、それともペットとしてのご主人様への従順な本能なのか、定かではないんだけどね。
卵子の数は女性が生まれたときから決まっていて数限りあるのに、男性の精子はいくつになっても作られ続けるらしいですね!