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第三話 『奴隷幼女と闇手術Ⅴ』

「ふあああ……」

「やっと起きたのね」


 宿屋のベッドで目を覚ます僕。


「おお、目の前には天使……いやルリル様の顔。ああなんて幸せな目覚め……」


 するとルリルは僕を見て呟く。


「はあ、惰眠(だみん)(むさぼ)豚畜生(ぶたちくしょう)……一生目覚めなければ良かったのに」


 ため息とともに蔑んだ目で見つめるルリル。


「そんな低い声で呟かれたらゾクゾクしちゃいますね。たまらないです。できれば耳元でおなしゃす」


 どうやら丸一日寝ていたようだ。

 ふにゃあっと寝転がったまま背伸びをする僕。


「ほんとに気持ち悪いわね。毛先が開いてダメになった歯ブラシのような髪型で」

「まじっすか、なんて素敵な罵倒表現。うん、やはり幸せな目覚めでした」


 どっこいしょと身体を起こし、洗顔へ向かう。


「(この世界、歯ブラシがあるだけいいことだよね。虫歯と死亡率の関係も密接だし、また仕事が増えるとこだった)」


 歯を磨きながらそんなことを考える。


「(てか、ほんとの研修医だったらこんな悠長(ゆうちょう)に寝ることもできないんだろうけど。いい思いさせてもらっているよ。元の世界、どうなってるかなあ。帰ったら内定取り消されてるんだろうか。うう……)」


 元の世界のことを思い出すと、だんだん憂鬱(ゆううつ)になっていくぞ……。


「さあ、早く出るわよ」

「あ、はい。待ってください」


 ルリルにせかされ、慌てて顔を()き、身支度する。

 ルドルフさんのお店へと伺うのだ。

 サーヤの術後管理のため。




 ――カランコロン。

 僕らはルドルフさんの店を訪れた。

 出迎えてくれるルドルフさん。


「やあ琢磨さん。元気になりましたかい」

「ルドルフさん、こんちは。差し入れまでくださってたみたいで。なんかすみません」


 宿屋にはフルーツがたくさんあった。

 ルドルフさんが持ってきてくれたのだと女将さんが教えてくれた。


「とんでもない。うちの奴隷にあんな施しまでしてくださって。ほんと足を向けて寝れませんでしたよ」

「そんなそんな。で、その後サーヤの具合はいかがですか?」

「ええ、ごらんのとおり」


 ルドルフが手を向けた先には、サーヤがペットらしき猫とじゃれあっていた。

 サーヤも猫っぽい顔をしているので、もう同類にしか見えない。


「鎖は付けたまんまなんですね」

「ええ、奴隷ですから。あくまでうちの商品です」

「そうですか……」


 まだこの倫理観は受け入れがたいな……


 するとサーヤが僕らに気づいたようで、にぱあと笑顔を向けてくる。

 サーヤのもとへ近づく僕ら。


「こんにちはサーヤ。もう動いて大丈夫なのかい?」

「うん……なの。苦しくないの!」

「おお、可愛い。じゃなかった、元気になったか。良かった良かった!」


 サーヤの頭をよしよしと撫でる。


「(こんな回復、普通の手術じゃありえないな。ヒールがあるから回復速度を速めることができ、術後すぐにでも動けるわけか)」


 あらためてその回復度合いに驚きながら、サーヤを見つめる僕。


 ルリルもサーヤの頭をそっと撫でる。

 ルリルに抱きつくサーヤ。


「(ふふ、こうやって見てるとまるでサーヤが、僕とルリル様の子供かのように――)」


 するとルリルがテレパシーを送ってくる。


「(ごめんなさい。あなたとは無理、生理的に)」

「ぐふっ」


 顔面を殴られたかのようにその場に崩れる僕。

 きっついなあ。

 でも知ってるんだな僕は。

 今朝起きたら綺麗にたたんであった僕の服。

 ルリルが洗浄しておいてくれたらしい。

 手術でかなり汗かいたしな。

 助かる。

 良いコンビになれそう。

 公私ともに仲良くなれたらいいな。


 そこへルドルフさんが声をかけてくる。


「それで琢磨さんよ、相談なんですが」

「はい?」

「サーヤを貰ってやってはくれませんかの?」

「え、奴隷としてですか?」

「はい。主従契約を結んで頂ければ、お気になされている鎖もご自由に外してくださって結構ですよ」

「いやしかし、幼女を連れて討伐に出かけるわけには……」

「討伐……? もしや魔王討伐ですか!?」

「いや、配下ね。魔王の配下その1だけだから」

「それはなんとご立派な! 他の冒険者とはオーラが違うとは思ってましたが、まさかそこまで考えてらっしゃっるとは!」

「あんまり騒ぎにしないでくださいねー、別に乗り気なわけじゃないんですよ」


 周りを気にしながら、シーっというポーズをとる僕。


「いや! それならサーヤをぜひお連れください!」

「幼女はどう考えても足手まといだと思うんですが……」

「彼女は特殊なスキルを持っているんですよ」

「そういや前にそんなこと言ってましたね。……アナライズしていいですか?」

「もちろんですとも! ほらサーヤ、スキル開示してアナライズしてもらいなさい」


 ルドルフはサーヤに声をかけた。


「うん……なの」


 サーヤ、少し不安そうな顔で僕を見つめてくる。

 病気を見てもらうときとは違い、自分が雇用してもらえるかどうかをみられると思っているのだろうか。


「そうか、なんだかんだ身体の中は見たけど、サーヤ本人をアナライズしてなかったな」


 さっそくサーヤをターゲティングし、アナライズと念じる。


 ――ブオンッ。


 名前:サーヤ・ミナヅキ

 種族:人間族

 職業:奴隷

 レベル:5

 HP:300

 MP:1,800

 一般スキル:ターゲティング、採集の心得、料理の心得

 職業スキル:なし

 固有スキル:過去視



「ミナヅキ……?」


 ステータスウィンドウの名前欄に引っかかり、顎に手を当てる僕。

 やけに日本風な名前だな。

 黒髪だし。

 この異世界にも東洋ちっくな国が存在するのだろうか。

 てか、レベル自体は僕より上なんだけど……

 そして固有スキルの『過去視』。

 名前通りならかなりのレアスキルではないだろうか。


「見ていただけましたか?」

「ふむ、この『過去視』ってやつですか、特殊なスキルは」

「そうなんです。ターゲットから過去の情報を読み取ることができるレアスキルです」


「ふむむ……それは確かにすごいな。サイコメトリーみたいなものか。魔王軍から捕虜をとれば、敵の弱点や基地の内部情報まで知ることができるわけだ。そんな貴重なスキル持ち……いいんですか?」

「ええ、むしろ変な輩に利用されたくないですし、僭越(せんえつ)ながら貴方だからこそ任せられると判断したんですよ。これは我々夫婦、そしてサーヤ自身の希望です」

「サーヤ本人が?」

「ええ。彼女なりにとても感謝しているようで。まあ何せ本来ならやんちゃざかりのお年頃、自由に動き回れる身体にしてもらえたことが幸せなんでしょう」

「そうですか。幸せを感じてくれているなら僕もうれしいです」


 なんだか心があったかい気持ちになり、口元が緩む僕。


「この子はね、もともと海を渡った島国の出身でしてね」

「やはり違う国の生まれでしたか」

「ええ、とはいえ船で一晩ぐらいの近くにある国でして。その中にあるサーヤの故郷は五年前、復活した魔王によって一番に壊滅(かいめつ)させられた村なんです」

「壊滅……ですか。何か恨みでも買ったんでしょうか」

「実は、魔王を封印した英雄である異世界の勇者様が作った村なんです」

「え、勇者ですか!?」

「百年も前の話ですけどね。だからその勇者様の末裔(まつえい)が住んでいる村ということで、魔王に(うら)みを込められて襲われたのかと」

「なるほど……つまりその血を引いているサーヤは、異世界人の血が混じっているということだよな。僕とも遠い親戚なのかもしれない」


 サーヤの黒髪を見て親近感を感じる僕。


「なんとか生き残ったサーヤの家族が、サーヤを奴隷船に乗せ、逃がしたそうなんです」

「サーヤの家族が今どこにいるかはわからないんですか?」

「ええ、サーヤの過去視でいつか家族を探し出してやれればと思ってはいたんですが。なかなかわしらじゃ危険すぎるし、任せられるような買い手様とも巡り合えず」

「そうだったんですか……」


 険しい顔をしながらルドルフさんの話を聞く。


 てか、前の勇者さん、村作って永住(えいじゅう)しちゃってる……

 ってことは元の世界に帰れなかったんじゃないのさ……

 それショックなんですけど。

 しかも末代(まつだい)まで魔王に狙われてるし。

 やべーな僕も。


 冷や汗が出てくる。


「で、琢磨さんいかがでしょうか。わがままかもしれませんが、サーヤの幸せを考えると貴方しかいないのです」

「そうですね……とにかく本人の希望でもあるなら、サーヤを引き取らせてもらいたいとは思いますが。みんなが幸せになればそれが一番。……いいですかね? ルリル様」

「もちろんよ」


 ルリルはめずらしく口角を上げながらそう返答した。


「よし、サーヤ。仲間になろう!」


 サーヤに目線を合わせてしゃがみ、握手を求める。


「……はい!」


 サーヤはその小さい手で僕の手を握り返した。


「幸せを掴むだけじゃなくて、幸せを感じながら生きてくんだよ」


 病弱な体で壮絶な道を歩んできた幼いサーヤ、これからの人生に(さち)多くあらんことを……

最近は手術支援ロボットで、開胸しなくても心臓手術ができるようになってきたそうですね!科学が魔法を超えますかね!

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