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第二話 『異世界の衛生事情Ⅴ』

 ガラの悪い男と決闘することになった僕は、冒険者ギルド横の路地へと入った。


「(アナライズ)」


 (から)んでくる(やから)をターゲットに、とりあえずアナライズしてみる。



 名前:ダイス・キエロドーガ

 種族:人間族

 職業:冒険者

 レベル:19

 HP:1,280

 MP:720



「大好きエロ動画!? 素敵なお名前だな……まあ絡んでくるだけあって雑魚モンスターなんかよりずいぶん強い。僕らとは比べ物にならないけれど」


 なんだか肩の力が抜けたな。

 ふう、眠たい。


「坊ちゃんよ。せっかく稽古つけてやんだから、一発入れてみろよ」

「……はあ」

「もし一発も入れられなかったら、稽古代として有り金全部――」


 その瞬間、輩は飛んで行った。

 まあ、僕が飛ばしたわけだが。


「ありゃりゃ……ちょっとグーパン食らわせただけなんだけど。力加減が難しいなあ」


 僕は右手の(こぶし)をさすさすしながらそう呟いた。


「て、てめえ、ダイスになにしやがった!」


 残りの輩が僕を取り囲んでくる。


「(すんませーん、ルリル様聞こえてますかあ?)」


 僕は心の中でルリルに問いかけてみた。

 するとルリルからテレパシーがかえってくる。


「(聞こえてないわ)」

「(いやそれ聞こえてますやん)」


 古典的ギャグをやっている間に、輩たちは今にも襲い掛かってきそうな状態。


「(さっきのハイディングって魔法、僕にもかけてくれません?)」

「(……仕方ないわね。あとでお金もらうから)」


 そうテレパシーが聞こえた後、僕の体は一瞬黒い影に包まれた。

 ルリルがハイディングをかけてくれた模様。


「(ありがとうございます、ルリル様! すぐに倒せるんだろうけど、ちょっと試してみたいことがあるんすよ)」


「オラァ!!」


 ――スカッ。


 案の定、輩たちは僕に襲い掛かるも、触れることすらできない。


「なるほど、こんな感じか」


 傷一つつかない自分の身体をあらためて見回す僕。


「(ねえルリル様、これは例えば、ある対象からの攻撃だけを避けるようにとか設定できないんすかね?)」

「(それは無理ね、生命体からのインパクトとみなされるものは全てを避けてしまうから。それが飛び道具であっても、回復魔法であっても)」

「(そうかあ、それじゃあ使い方が難しいですね。攻撃を自動でかわせるなら、細菌感染をも防げるワクチンのような状態にできないかと思ったんですけど。すべてを避けてしまうとなると一時しのぎ的な使い方しかできないか……)」


 そもそもハイディングを使えて、さらに常人じゃないほどのMPがある人じゃないと出来ないわけだし。

 治療として考えるのは無理があるな。

 ワクチンや血清をどうにかする目標への道のりはまだまだ遠そうだ。


 そんなことを考えながら、残った輩も瞬殺。

 もちろん、グーパン食らわせただけで殺しちゃいない。


 こてんぱんにされ、のびている輩たち。

 その光景を見て、ざわつく野次馬。


「おいおい、あのダイスを一発でのしちまったぞ」

「あいつ誰だよ、お前知ってるか?」

「わかんねえ、取り巻きも全員蹴散らしちまったし、なんか強化系の魔法でも持ってるんじゃねーか」


 ひそひそ話が聞こえ、僕は周りを見渡す。


「(ただのグーパンなんだけどな。この人たちもみんな冒険者か。老若男女いろいろだ)」


「(さあ、とっとと冒険者登録を済ませてしまいなさい)」


 そうルリルの声がテレパシーで聞こえたので、ギルドの建物内に戻る僕。


「いらっしゃいませ。お強いんですね!」


 受付の女性がカウンター越しに目を輝かせながら話しかけてきた。

 どうやら先ほどのやり取りをみていたようだ。


「いやあ、そんなたいしたこと……」

「あの人たち、新人冒険者を狙っては言いがかかりをつけて暴れていたので、助かりました! ほんとありがとうございます!」


 美人受付嬢は僕の手を握りながら感謝を述べた。


「いやあ、うへ、うへへへへ」


 女の子に手を握られたのなんて、いつぐらいぶりだろうか。

 だらしなく口元が緩む僕。


「(いつも通りの気持ち悪さね)」

「(ルリル様は相変わらずの毒舌ですね!)」


 ルリルの視線は背筋が凍り付くよ……


「で、冒険者登録をしたいんですけど、どうすればいいのかな?」

「はい! 少々お待ちください」


 受付嬢はカウンター下から一枚のカードを取り出した。


「こちらに血判(けっぱん)を押していただければすぐに登録できます! 登録料は銀貨1枚です」


 そう言って受付嬢は僕に小刀(こがたな)を渡してきた。


「(まさか……これで指を突いて血判を押せということかな)」


 小刀と受付嬢の間で目を泳がせる僕。


「これ、使いまわしですか?」

「ええ、でもちゃんと拭いてありますよ!」


「……ちなみに冒険者さんで、皮膚や白目が黄色くなってきたとか、お腹に水が溜まって膨らんでる人とかいませんか……?」

「あー、沢山おられますよ! どのモンスターの仕業かまだ判明していないので気を付けてくださいね!」


 それを聞き、僕は小刀をあわててカウンターに置く。


「(いやいやそれ、肝炎(かんえん)に感染しとるがな。だめだめ、こんな使いまわし絶対だめ。ルリル様、なんとかしたほうがいいですよこのシステム)」

「(それも細菌とやらの仕業なの?)」

「(や、ウィルスって言って、細菌よりもっと小さく、抗生物質が効かない病原体なんすけど)」


 例えば元の世界で流行していた麻疹(はしか)もウィルスだ。

 風邪もウィルス、つまり抗生物質を飲んでも意味がないどころか、無駄に耐性菌ができてしまう可能性がある。

 だから風邪で抗生物質を安易に処方しない病院には報酬が出るような仕組みも2018年4月の診療報酬改定に盛り込まれた。

 細菌、真菌、ウィルスの違いも話せば長くなるが……


 僕はテレパシーで菌やウィルスのイメージをルリルにざっくり共有してもらった。


「(ほむ。なんとなく理解したわ)」

「(はやっ!)」

「(この町にも公衆衛生のセミナーを早く開催してもらえるよう、お城に連絡しておきます)」

「(さすが賢者さまさま。ルリル様は賢いなあ)」


 ルリルの頭を撫でようとする僕……の手はパシっと振り払われる。


「あ、大丈夫です、そうゆうの」

「しょぼーん」


 肩を落っことす僕。


「(騎士団長さんには嬉しそうに撫でられてたくせに……)」


 ルリルが懐いてくれるまでの道のりもまだまだ遠そうだ。

次話から医療パートに入ります!

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