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生意気なあいつ

作者: あめのひ

 あいつは生意気だ。

 学校から家に帰るとすぐに自分の部屋に戻りカバンをベッドの上に投げ捨てる。そして右手で髪をまとめていたヘアゴムを外して、化粧台の鏡に映るゴムの跡が残った髪を睨みつけながら考える。

 私のほうが、一ヵ月も誕生日が早くて、身長だって私のほうがずっと高かったのに今年の身体測定で私より高くなってただなんて信じられない。


 私より前を歩こうとするあいつは生意気だ。

 髪に残っている跡をヘアアイロンで馴染ませようと入念に何度もかけながら考える。

 私のほうがしっかり者に決まっている。昔はどこへ行くにも後ろについてきていたあいつ。それなのに最近は先導しようとしてくるし、私が近道を見つけても絶対に止めてくる。たまに思った場所につかないこともあったけどそれは、そう冒険よ。新しものを探さないと面白くないのよ。


 昔からあいつは生意気だった。

 何回もかけなおしてやっと髪が真っ直ぐになったから、今度は着る服を決めるべくクローゼットを開きつつ考える。

 小学生のころは髪型がローポニーの若い先生に憧れていたことだって知ってるんだから。それなのになんで真っ直ぐの髪型っていいよなって言ってたのよ、体育のとき男子で集まって話してたのが私の方までしっかりと聞こえてたんだから。


 生意気なあいつは最近遊びに来なくなった。

 普段とは違う髪型に合わせた服が決まったから、穿いていた制服のスカートを脱ごうとファスナーを下ろしつつ考える。

 家が近いから昔からあいつとはよく遊んでたし、お母さんとあいつのおばさんも仲良しだった。それなのに最近は勉強が忙しいのを理由にしてうちに来ないなんて生意気よ、中学二年生になった今でもあいつに合計点で負けたことはないのよ、教えてほしいって頼みに来なさいよ!


 部活中のあいつはデレデレするから生意気だ。

 脱ぎ終わった制服のブレザーとスカートをそれぞれハンガーにかけながら考える。

 同じ部活に入ったのは、私がやってた習い事の発表会に来てくれるうちに良さがわかったからでしょ、少しは私に感謝してくれたっていいじゃない。それなのに新入部員の女子相手にデレデレしてるなんで信じられないわ、たしかにあの子は素直でかわいいけどあいつがデレデレするのは許せないわ。


 料理が上手くなってきたあいつは生意気だ。

 着替えを後回しにしたせいで再び乱れた髪を櫛で梳かしつつ考える。

 私だってちょっとは料理できるのに、お母さんはおばさんとご飯に食べに行くからってあいつに晩御飯を頼むのはどうしてなの?

 お父さんだって出張で今日帰ってこないってことはいいのよ、いつもお仕事頑張ってくれてありがとう。でもね、娘が一人で留守番するのは不安って言うのにあいつがくるってわかったら「それなら大丈夫だ」ってどういうことよ、私一人なら問題だっていうの!?

 あいつもなんで私よりも上手なのよ、バレンタインデーにチョコクッキーを作って渡したらホワイトデーにもっとおいしいクッキーを作って返してくるなんて生意気よ。


 いつも不真面目そうな顔をしているあいつは生意気だ。

 姿見の前で一周回って、おかしいところがないか確認しつつ考える。

 制服のまま買い物に行くのはダメだなんて、細かいところを気にしすぎなのよ。真剣な顔で注意してくるから、思わず頷いちゃったじゃないの!


 やっぱりあいつは生意気だ。

 いつチャイムが鳴ってもいいよう玄関の内側で、エコバッグと財布を持って待ち構えながら考える。

 私がどんな気持ちでいるのか、全然わかってくれない。なにが妹みたいなやつよ、私のほうがお姉ちゃんなんだから……って、そうじゃないの姉弟みたいだなんて思ったことなんて一度も無いんだから。


 「はやく来ないかな……」


 つい声に出てしまったけど、私を待たせるなんてやっぱりあいつは生意気だ。

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