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どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲ビッグバトル場所
5/47

二ッ!

 ウォォォォォォ──


 入場口の左右からスモークが吹き出す俗な演出に、表情をより険しくした横綱・超能侍を、観客達の叫び声が出迎えた。


 ここ両国ビッグバトルドームの収容人数は30万人、それが満員御礼である。これだけの人数が横綱へ寄せる期待は、熱気の圧となって轟き押し寄せた!


 だが──


「はよ死ね黴臭(カビクサ)クソ野郎ーッ!」

「ぬぁーにが正統派相撲だァータァコゴッルァーッ! 死ねッ!」

「おもんねェーんだよ老害カス力士ーッ! 死ねッ!」

「死ねッ!」「死ねッ!」「死ねッ死ねッ死ねッ!」


 なんということだろう! その中身はブーイング!

 横綱ともあろう者にブーイング!

 横綱が期待されるものとは健闘ではなく──よりによって、死!


 かつての相撲では考えられない光景……ッ!


 常人ならば心萎えるであろう満場の悪意を、しかし超能侍はものともせずに、土俵へ向かい力強く土を踏みしめた。


 両国ビッグバトルドームは、円形の闘技場を二階建て家屋ほどの高さの壁が取り囲み、その後ろに段状の観客席が配置された、古代ローマのコロッセオを思わせる造りとなっている。

 設備の大体は野球場か陸上競技場のような外観だが、広大なフィールドに敷き詰められているのは人工芝ではなく土だ。

 そして闘技場の中央に鎮座する土俵は、直径約三〇メートル。かつての伝統的な相撲のものより格段に大きい!


(なん)もかんも、変わっちまったのォ……」

 横綱の後について、巨大土俵へ続く数十メートルの花道を踏み出しながら、和厳親方が呟いた。

「まったくッス、横綱にこんな野次なんアイテッ!?」

 カァン、という音に続いて龍角が頭を押さえ、空き缶が転がった。強すぎるアルコール度数で知られる缶チューハイ、「ストロンゲストアブソリュートゼロ」だ。壁の更に上に立てられた金網フェンスの向こうでゲタゲタ笑う、ガラの悪そうな中年酔客グループの仕業だった。その蛮行を咎める係員は……そんなものは、この観客席には、いない!

「変わっちまったのォ……」

 忌々しげに再度吐き捨てる和厳親方の頭上を超え、二本目の缶が、今度は超能侍の後頭部へ飛んでいく! 酔客のくせにコントロールが良い!

 だが超能侍は振り向きもせず、それでいて正確に、空を裂く鋭い裏拳を缶に叩き込んだ!

 缶は一直線に飛ぶ弾丸と化し、鋼線のフェンスを突き破り、投げ込んだ犯人の顔面へ叩き込まれた!

 鼻血を吹き倒れて呻く酔客を、周りの客達が指差し手を叩きゲラゲラ笑い、酔客の仲間がキレて、乱闘騒ぎが始まった。それを更に周りの客達が笑い、そして──そんな蛮行を咎める係員など、この観客席にはいない!


 これが、現在の相撲なのだ……!


「お主は……変わらんのォ」

 愚かな騒ぎをよそに和厳親方が、齢三十を越えて衰えぬ、超能侍の鋭敏な感覚と精妙な技量、圧倒的な筋力を称えた。

「それが本当ならば困ります」

 超能侍は言葉に重みを乗せて口から押し出した。

「俺はあの時より──更に強くなっていなければならない……ッ!」

“あの時”──すなわち十二年前から、修業に明け暮れた日々の重みを。


 そして、その重みがあらばこそ、巨大土俵の上で待ち構える行司を、睨まずにはいられなかった。


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