一ッ!
「ぐっへっへっへっボウ」
「ぐっへっへっへっソウッ」
「ぐっへっへっへっゾクー」
下卑た声の手本のようなものが、周囲の壁にこだました。
ここは暗黒デス東京都の暗黒デス港区。暗黒デス相撲協会が世界を掌握する前から選ばれしセレブ達が住まう土地として有名だった。かつて高級タワーマンションが立ち並んでいたこの区域は、今では暗黒デスセレブ達が暮らす暗黒デスタワーマンション街となり、禍々しい漆黒の高層ビルが林立する、異様な偉容を誇る暗黒デス地域と化していた。
それら暗黒デスマンションの合間に張り巡らされた、不気味なまでに閑静な路地のひとつが、数人の下卑た声とバイクのエンジン音によって、静寂を破られているのだ。
「ぐっへっへっへっ、誰か助けに来るとでも思うかボウ」
バイクを降りた長身の男が、歩道に立っている一人の少女の頭上を見下ろしながら、車道からにじり寄った。
「ここは治安のよろし~い暗黒デス高級マンション街だからなソウッ」
「だが、暗黒デスセレブの奴らは、壁の外の貧乏人がどうなろうが無感情無関心でゾックク」
歩道に乗り上げたバイクをアイドリングさせ、少女を挟み込む形で逃げ道を塞ぐ二人の男が、いやらしい口調で言い放った。
車道の方を向いて立つ少女は、前方から迫る長身の男、左右を塞ぐバイクの男達をキョトキョト見回した。少女の背後、歩道の端には、暗黒デスセレブタワーマンションへ貧乏人が侵入するのを防ぐための暗黒デス防護壁が、高さ数十メートル、幅は数キロメートルにもわたり、ダムのような巨大さと堅牢さを見せつけてそびえ立っている。常人がジャンプで飛び越せるようなものではない。完全に追い詰められた状態の少女は、「はぇー……」と困惑の声を洩らした。
「テメェの悲鳴が響きわたったところで、ここの連中はむしろ残虐な見世物として喜ぶだろうボウ、それが暗黒デスセレブだボウ」
長身の男は背をかがめて少女の顔を覗き込み、いかにも凶悪な面相をニタァーリと歪めた。
上半身は裸。下半身には黒光りした革のマワシ。ただのマワシではなく、銀色の円錐形のトゲがずらりと生えたパンクファッションマワシだ。そして頭頂部には赤いモヒカン。そのトサカの上に黒い円筒状のものを乗せている。チョンマゲの代用だ。
そう、この男は力士! いずれ暗黒デス相撲協会に悪の力を認められ正式な暗黒デス力士となるべく、力士の姿で悪事を重ね名を上げようとする不良、いわゆる暗黒デス野良取的と呼ばれる不良集団なのだ!
「ぐっへっへっソウッ」
「げっへっへっレロシャブ」
「ごっへっへっゾクー」
周囲の野良取的達も笑い声で威圧した。リーダー格の長身男の背後にも、バイクにまたがったモヒカンの男達がまだ数人控えており、ドドゥンドドゥンと腹に響くエンジン音を轟かせ、多勢に無勢感を駄目押ししている。他の男達も長身男と同様のパンク力士ファッションであり、彼らがまたがる漆黒の大型バイクにはやはり銀色のトゲトゲが生えた上、「怒崇姑威」「曼蚓怨霊」「殱醜羅狗」などといったおどろおどろしい文字の千社札があちこちにべたべたと貼られ、不気味な圧を放っている。常人ならばおしっこちびるしかあるまい!
だが、小豆色のジャージ上下を着た少女は、「はぁ……」と暢気な困惑の声を上げるのみだった。
「ほほーん余裕だなボウ」
長身男がのけぞって、少女を見下ろしながら嘲笑に顔を歪めた。
「自分も特権階級だと思ってやがるレロシャブ」
長身男の後ろに立つ、青いモヒカンにサングラスの野良取的が続けた。
「その荷物はおそらく暗黒デスセレブ向けの商品だレロシャブ。お前は暗黒デスセレブ御用達の行商人でレロシャブ」
青モヒカンは威圧のため、禍々しいデザインの大型ナイフを舐めながら少女を見やった。
少女は自分の背丈ほどもありそうな、大きな唐草模様の風呂敷包みを背負っている。
「だがそんな商人なぞ暗黒デスセレブ連中にとってはいくらでも代えのきく暗黒デス社会の歯車にすぎんのでレロシャブ。…………レロシャブ。お前ごときをわざわざ助ける奴はおらんでレロシャブレロシャブ」
ただのナイフを舐めても味気ないのか、途中でチューブ入り赤味噌をナイフに付け、旨そうに舐めながら青モヒカンはせせら笑った。
「その荷物、暗黒デスセレブ向け商品をワシらによこす。あるいは荷物を売った代金をワシらによこす。はたまた、それを買い取りに暗黒デスセレブのしもべが来る取引所へワシらを案内する。命が惜しければ選択肢は三つだボウ」
長身男はニタァーリと悪人らしい歪んだスマイルを見せた。
この長身男、ただの粗野な不良ではない──商人にとって懐が痛まないのは三つ目の選択肢。だが、この悪党グループにとって一番利益が出るのは、やはり三つ目の選択肢──暗黒デスセレブの使者を捕らえ、あわよくば暗黒デス防護壁の向こうへ侵入するルートなのである。それを選ぶようそれとなく促しているのだ!
卑劣! 狡猾! 野良取的!
だが!
「四つ目が──ゴワシましてよ」
「なんだボウ!?」
「誰ロシャブ!?」
突如響きわたった渋みのある、それでいて優しげにエレガントな声。今度は野良取的達がキョトキョト周囲を見回した。
「ああッあそこソウッ!」
「ゲェェーッゾクーッ!?」
野良取的達は一点を指差し、見つめ、たまげて、裏返った声で叫んだ。
無理もない。
長身男から見て右手の数百メートル先。
そこから垂直に数十メートル──
そう。
常人なら飛び越えようもない暗黒デス防護壁の上に、人影が平然と佇んでいるのだ!
ならばそれは──常人ではない!
野良取的達はその事実に驚愕した!
そして!
なんと──なんということだろう!
奇妙なまでに柔らかく暖かいそよ風が不意に吹き抜け、野良取的たちを撫でていった、次の瞬間──
人影と野良取的との間に、突如として、直径は一○○メートルを超え、高さは超高層暗黒デスマンションを超え天空にも届こうかという、巨大な柱が出現したのだ!
いや、よくよく見れば、それは柱ではない──
花だ!
ゆるやかなつむじ風に乗り、ひらりひらり、くるりくるりと穏やかに舞う、無数の紅い薔薇の花びらが、片方は天へ昇り、片方は地へ降りる、二重螺旋を描いているのだ!
なんという──なんという、人智を超越したエレガント現象!
理解が追い付かず呆気に取られる野良取的が見上げた先で、壁の上の人影は天空高く跳躍! 壁から数十メートルは離れている薔薇の柱へ、難なく到達した! どう見てもまともな人間の身体能力ではない! さらに!
なんと──なんと幻想的な光景であろうか!
距離は離れているはずなのに、まるで間近で見ているように、野良取的たちの脳裏には鮮明なビジョンが直感的に浮かんだ──人影は、白いドレスを身にまとい、長い髪を風になびかせた美少女! その儚げでたおやかな肢体が、両腕を広げ上体を水平に倒し片脚を後ろへまっすぐ伸ばした、フィギュアスケートめいたポーズで、花の螺旋の上を音もなくすべり、地面に向かい優雅に降りてくる!
次いで──
アスファルトが敷き詰められたコンクリートジャングルであるはずの辺り一面が、一瞬にして色とりどりの草花に覆われた! 花の螺旋を滑り降りた美少女は、春の野原のごとく変貌した地面の上を、両手を広げ軽やかに駆けてくる!
思わず見とれた野良取的たちとの距離は、呆然とする間に詰まり──
「なッなんじゃこりゃボウーッ! い、今まで見ていた美少女は──ッ!?!?!?」
野良取的の目の前でふわりと一回転した美少女は、一瞬にして、白いドレスの二メートル近い女装の巨漢美男へと変化した!
足元に広がる花畑もスウッと消え失せた!
「どすこいあそばせ!」
優雅にドレスの裾をつまんで挨拶した巨漢を指差し、野良取的の一人が叫んだ。
「あーッこいつ! こないだ両国バトルドームに乱入した──」
「ええ──ワッタクシ、エレガント山でゴワシますわ」
数日前、暗黒デス相撲場に乱入し、暗黒デス横綱・ヘルマシーン乃海を倒したエレガント力士・エレガント山──その強さとエレガントぶりは、暗黒デス相撲界に広く知れ渡るところとなっていた。その人智を超えた強者との突然の遭遇! 野良取的たちは戦慄した!
「なッ──なんでここにエレガントが!?」
「エレガントにはエレガントの用事がゴワシますわ──そして、エレガントも歩けば棒に当たる。悪に偶然遭遇したからには──」
エレガント山はくるくると回転し、優美なしぐさで野良取的のリーダーへ人差し指を突きつけた!
「エレガント☆遂☆行ッ!」
「くっ、者どもやっちまえボウーッ!」
素早くバイクにまたがったリーダーの合図でメンバーは我に返り、すぐさまバイクをスタートさせ、統率のとれた機動でエレガント山の周囲を回り始めた! ただの粗暴な烏合の衆ではない、訓練された悪党集団なのだ! 常人ならばものの一分でズタボロに殺されてしまうであろう!
「いかにエレガントが強いとてバイクの力を結集すればわりとどうにかなるはずでボウ! 力士、力士、百貫デブ! バイクに轢かれてペッチャンコ! 相撲だけにペッ “チャンコ”!」
「ヒャッハー血祭りだゾクー! 英語で言ったらブラッドフェスティバルだゾクー!」
「レロレロシャブゥ──ッ!!」
「こいつを殺せば暗黒デス相撲協会から感謝状と金一封がもらえると俺は予想するソウーッ! 金一封もらったら今夜は焼肉パーティーだソウーッ!」
エレガント山を包囲した野良取的たちが口々に殺意に満ちた残虐な言葉を叫ぶ! あるいは味噌まみれのナイフをしゃぶる!
だが──
「あら、お元気なことでゴワシますわね。ですが──」
エレガント山はくるりと優雅なターンを決め、女神像のように麗しくポーズを取って言い放った。
「勝つ気がおありなら、すぐにバイクをお降りゴワシあそばせ」
「あ? バイクは強いすごい機械、この力と数の有利をわざわざ捨てさせようなぞ──何ィーッ!?」
野良取的たちの顔が緊張に凍りついた。
エレガント山を逃がさず攻撃の隙を狙うためグルグルと周囲を回っていたバイクが、一台、また一台と包囲網から離れたのだ。
だが、リーダーはそんな合図を出してはいない。
それに、バイクに乗ったメンバーの判断でもない──!
「あ、雨にやられた覚えもないのにポンコツになっちまったのかゾクーッ!?」
「どうしたんだソウーッ!? いつものようにキマらないソウーッ!?」
「レロシャブゥ──ッ!?」
そう、バイクがコントロール不能になっているのだ! ハンドルも、アクセルも、ブレーキも!
「ど、どこへ行こうというのかボウーッ!?」
「天使たちの──園よ」
野良取的たちのバイクはエレガント山の横をすり抜け、ある一点へ向かっていた。
それは──先ほどエレガント山が降りてきた、二重螺旋型の薔薇の柱!
そして、そこへ向かうバイクに異変が生じていた──
普通、バイクの排気管からは排気ガスが噴き出すものだ。
だが! 野良取的のバイクからは、今! 虹色にきらめく光の粒子が噴出しているのだ!
「なッ何なんだこの異様にきれいな排気はーッッッ!?!?!?」
「エレガント──で、ゴワシますわ」
「ヒェェェェ──!!!」
ドゥン、ドゥッ、ドゥー、ドゥン、ドゥッ、ドゥー──
いつの間にか、バイクのエンジン音が、三拍子のリズムを刻んでいる! 豊かな文化を愛する心を育んできた者ならば、そのリズムに触発され、ワルツの旋律が脳裏に再生されるであろう──そう、たとえば、クラシックの名曲、「美しく青きドナウ」などが!
まるで意志を持ったかのように制御不能になり、そして優雅になったバイクは、しずしずと薔薇の螺旋へ進み入り、花びらの上をゆったり滑らかに流れつつ天へ昇り始めた!
このままでは超高層マンションよりも高い天空へと運ばれる──!
そんな高いところは──危ない! こわい!
野良取的たちは肝を凍りつかせ、やむなくバイクから飛び降りた。
「どういう──ことだボウ──」
走行中のバイクから飛び降りた衝撃による足のしびれに顔をしかめながら問うリーダーに、エレガント山は歌劇のごとく優雅なポーズを決めながら言い放った。
「少々気合を入れて血中エレガント濃度を高め、ワッタクシの周囲の空間エレガント量を上昇させたのでゴワシますの。それによって、物思わぬバイクとて──いえ、物思わぬバイクだからこそ、すんなりとエレガントに染まり、エレガント衝動に従って本能的に目指したのでゴワシますわ──そう、天上の楽園を! これぞエレガント奥義・《果てなき天上への回帰》! おわかりいただけゴワシますかしら?」
「なん──だと──ワシのバイクのくせに、エレガントだと──」
「おヌッシャ様がたもついでにエレガントにおなりあそばしてはいかが? 先ほど申し上げゴワシました、第四の選択肢──それは──」
エレガント山はリーダーを凛と見据えて指を突きつけた。
「エレガントゥッッ! で、ゴワシますわよ」
「ぐっ──ッ」
「いかがなさいゴワシます? おヌッシャ様がたも力士である以上、第五の選択肢──ストリート非公式相撲でワッタクシを実力で排除する道もよろしゅうゴワシましょう──」
「ぬ──う──ボウ──」
リーダーの顔面からとめどなく脂汗が溢れた。目の前のエレガント力士は、暗黒デス横綱相手にジャイアント・ドスコイ・キリング、すなわち普通に言えば金星を成し遂げたほどの超実力者! 常人よりも力自慢とはいえ、せいぜい街のゴロツキに剛毛が生えたレベルの野良取的が、バイクという武器なしで太刀打ちできるとは思えなかった!
ならば──彼らが選ぶべき道とは──!
「むぐっ、むぐっ、むぐっ……」
なんと──野良取的は一斉に、髷代わりの黒い円筒形の物体をモヒカンの上からむしり取り、無言で口に運んだ!
一斉に恵方を向いて頬張る、その物体とは──
海苔巻きだ! 野良取的たちは、海苔巻きをモヒカンの上に乗せ、髷代わりにしていたのだ! 材料費を安く抑え、いざという時には非常食にもなる生活の知恵! この男ども、ただ粗暴なだけの悪党ではないのだ!
しかし、ここでそれを食べてしまうということは──
「うわーしまった、うっかりTPOをわきまえず季節外れの恵方巻きの儀式をやっちまったでボウ」
「これでは髷を失い、力士ではないことになってしまうでソウ」
「食後には味噌ナイフがうめぇレロシャブ」
「力士でなければ相撲で勝負するわけにはいかねぇでゾク」
「くぅっ、というわけでここは一旦退くでボウ! 一応覚えてやがれでボウーッ!」
妙に棒読みがかった言葉をまくし立て、野良取的たちはドテタドテタと歩道を走り去っていった。第六の選択肢──逃走である! プライドよりも生存を優先させる咄嗟の決断! 迅速かつスムーズにその選択ができるあたり、冷徹な曲者であるといえるだろう! いえないかもしれないだろう!
ともあれ──
「エレガントに欠ける走りでゴワシますこと。もっと草原を駈ける小鹿のような気品がほしいところでゴワシますわね──そんなことより──これでひとまず大丈夫でゴワシますわ。おヌッシャ様、お怪我はゴワシませんこと?」
エレガント山は、襲われていた少女へ優雅に一礼した。
「ほぇー、ありがとうございますチャ」
ジャージの少女はぺこりと頭を下げた。
「良いお辞儀でゴワシますわね。グッド角度」
「めんどうそうな人たち追い払ってくれたがやし、お礼はちゃんとせんにゃならんチャ」
親指を立てたエレガント山に、少女は丸い眼鏡の下の目をニヘッと細め、癖のある髪をぽりぽり掻きながら、訛りの強い言葉を返した。
「ならね、ホレ」
少女が背中の包みを地面にドンと置き、大きな風呂敷をシュルッとほどくと、直径二メートル近い竹籠が現れ、中には様々な野菜と果物が詰まっていた。
「こん中から好きなもん持ってっていいですチャ」
「それは少々気が引けるでゴワシますわね。こんなご時世でゴワシますもの」
エレガント山は、自らエレガント力で生み出した薔薇の柱のそびえる先、はるか天空を見上げた。柱の先はうっすらと黒い靄に覆われ、途中で見えなくなっている。暗黒デス大気汚染のせいだ。日本は暗黒デス相撲協会に征服され暗黒デス日本国となって以来、各地で進む強引な開発のためか、暗黒デススモッグの発生が増えたのだ。中でも首都圏は特に汚染がひどく、暗黒デス東京都は日照不足が常態化しており、今は朝日もとっくに昇りきったはずの午前中だというのに、夕暮れのように薄暗い。
そのような時代であるから、まだ日照時間が充分足りている地方で育ったたくましい作物は、首都圏では高値で取引されるのだ。
「こんなご時世だから、ああいうめんどうな人たちから助けてくれようとした気持ちっチャ、ありがたいもんながですチャ」
「エレガントな心意気でゴワシますわね。固辞すれば失礼というもの──ならばこれをいただくわ」
エレガント山は籠の中から林檎をひとつ取り出した。
「へへっ、まいど。次からはお代は頂戴すっけど、うまかったらまたお声でもかけてくだはれですチャ」
少女は籠を風呂敷でシュルシュルと包み、ひょいと担いでニヘッと笑った。
「その時はまたこんな状況でないことを願うでゴワシますわね。ああいう輩は──『こわい』ものでゴワシますのよ。普通『めんどう』で済むものではなく」
「ほぇぁー……まぁ、ウチ、そういう性格なもんで。気ぃつけますチャ」
「ふふ、そのままでいられるに越したことはないでゴワシますわね。それでは、ワッタクシは本来の用事へ向かわねば──ごきげんよう」
優雅に一礼し、薔薇の柱まで麗しく駆けていき、螺旋状の花びらの上を妖精のように軽やかなスキップで昇り、防護壁の上へ飛び乗ると金髪をなびかせ、春の草原に遊ぶ小鹿のように華やかに走り去るエレガント山。その背中に、農作物売りの少女は手を振り続けた。エレガント山の姿が見えなくなると、しばらくして薔薇の柱もスゥッと消え失せてしまった。
「なるほどエレガントやチャ──あれは強いチャね」
作物売りのジャージ少女は、今さら思い出したように冷や汗を流し、大きく息をついた。