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どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲幕間場所 ~悪の胎動でゴワシますわ~
32/47

七ッ!

 カーッカッカッカネッ!


 キンキンキンキンキンキン!


 カーッカッカッカネッ!


 キンキンキンキンキンキン!


 カーッカッカッキンキン! カーッカッカッキンキン!


 貴一郎の暗黒デスセレブ笑いの声にかぶさるように、ねばつくような黒い靄の中から、場違いに賑やかな音が発せられた。


 金属音? 拍子木? いや、これは──


「キーッキッキッキンキン! キーッキンキンキンキン!」


 人の声だ! 甲高い笑い声だ!


 ねばついた黒い空気の中に、鬼火のごとき暗黒デスオーラがボワッと燃え上がり、紫色に輝き、ゆらめいた。


 その紫色の輝きをかき消すように、オーラの内側がいっそうまばゆい金色にきらめいた。


 邪悪のオーラに包まれながら、ゆったりと貴一郎に歩み寄る人の姿。小柄な老人だ。西洋人であろうか。三つ揃いのスーツが黄金色に輝いている。スパンコールだ! 純金のスパンコールで高級スーツを飾り立てているのだ! 右手には背丈と同じくらいのステッキが、金色に輝いている。純金の杖だ! ニタリと笑った口元が金色! 歯が全部、純金の金歯なのだ! 頭部の上半分が輝いている! つるつるに禿げ上がっているのだ!


 全身が全体的に眩しく光り、成金感あふれる老人は、五里衛門の死体の傍に立ち止まり、驚愕に目を見開いたままの生首を、杖でつつきゴロリと転がした。


「おうおう、むごいことじゃキン」


「ゼナルドさんの御推薦で幹部入りした男でしたね。面子を潰す形となり申し訳ございません」


「弱けりゃ殺されても文句は言えん超☆実力社会が暗黒デス相撲協会じゃキン、それにこやつはいつ誰に殺されてもおかしくなかったド悪党。暗黒デスセレブが暗黒デス現金パワーを寡占するため流布したのが現金使用者ド低能説だと気付きもせずに、暗黒デスセレブに突っかかった死に様も、他人事として見ればオマヌケで笑えもしたからの。文句はありゃせんキーンキンキン」


 老人の名はゼナルド・キーンマン。旧時代より経済界の表に裏に君臨してきた世界的大富豪であり、暗黒デス相撲協会の設立を経済面で支えた暗黒デスタニマチ。暗黒デス相撲協会の古参大幹部である!


「じゃが人間はのう、社会に生きとる限り必ず銭と関わるものじゃキン。銭を使う者、銭に使われる者、いずれにせよ銭の世話にならずにはおれぬキンキキッキ。どんな者であれ、銭との関わりが経済活動、世を動かす力となる。それが死によって中断させられるのは少々もったいないものじゃキキキン」


「やはり御不満でしょうか」


「さっきも言うたが超☆実力社会の暗黒デス相撲協会のことじゃ、誰が誰を殺そうが勝手というものでキンキッキ。しかしじゃな、人を一人殺すということは、その分世界の経済活動をほんの少し鈍らせることなのじゃキン。経済活動とは、すなわち──面白いことの源泉じゃキンキン」


 ゼナルドは黄金の杖で生首をコロコロと弄びながら語った。


「昔のエライさんは、衣食足りて礼節を知るのだ、信心は徳の余りなのだ、などと言うたそうじゃが、実際に社会が進歩し衣食住の足りた者どもが、礼節を知り、悟りを得るなどレアケースぞなキンキキーン。大抵の者は食うや食わずの瀬戸際から解放され、生存の必死さから抜け出れば、生きる意味など見失う。知るのは礼節ではなく退屈なのじゃキキーン」


 ゼナルドは杖をゴルフクラブのように握り直し、振りかぶった。


「ゆえに、豊かさを知った者どもが次に求めるのは──退屈を埋める、娯楽ッ!」


 ゼナルドがブンッと杖をスイングし、打たれた五里衛門の生首はゴロゴロと転がっていった。


「スポーツ、音楽、物語──本来は面白きことなどなき世に人は娯楽を追い求め、娯楽の消費者の中から生産者が生まれ、稼ぎをまた娯楽に消費する──その流れを形造るものが銭じゃキン。全ての人はその面白の循環の中にあるべきでキーン。そういう意味で人殺しとは、世界に出回る面白さの量を少し減らす、少々つまらない行為だとも考えられるのでキーンキン」


 ゼナルドは殺される人の無念を憐れんで殺人に反対しているのではない──経済システムの一部とみなしているだけなのだ! そのような、人命よりも金が第一の思想が高まることによって、「キン」──すなわち金を表す語尾が口をついて出るのだ! 古代の哲人が聴けば嘆くであろう! これが! 暗黒デスセレブなのだ!


「なのでな、奴──エレガント山は、当面暗殺などはせず、好き勝手に戦わせておくことになったキン」


 周囲の暗黒空間に、数十もの紫色の鬼火──暗黒デスオーラが一斉にボワッと灯った。黒い靄の中で静観していた暗黒デス相撲協会幹部たちのものだ。こういった場合の暗黒デスオーラ発動は、発言者への賛意を表すニュアンスなのだ。


「圧倒的多数──なるほど、根回しはお済みでしたかね。僕は来ても来なくてもよかったようだ」


「謙遜するな貴一郎。皆、お主なら賛成するだろうと踏んで、反対はハナから無駄だと悟ったのじゃキンキン。これぞジャパニーズ・ソンタックというものであろう。貴一郎よ、ナイス闇権力!」


「ナイスお気遣い!」


 ゼナルドはニタリと、貴一郎はニコリと笑い、ビッと親指を立て合った。


「無論、会長もハナから賛成じゃキキン」


 ゼナルドは視線を、広間の入り口から百数十メートルほどの暗がりに向けた。そこにも、紫色の鬼火のような、暗黒デスオーラがゆらめいている。


 しかし──


 尋常では、ない──


 周囲の空間に立ち上る暗黒デスオーラは、その大半が、せいぜい身長2~4メートルほどの、常識的な身長の人間を包んでいると思われるサイズだ。だが、その中にあって、暗黒デス相撲協会会長のオーラは、それらに比べて桁外れのサイズを誇っていた。まるで巨大な火柱のような暗黒デスオーラ、その内部に見える黒い影は、目算するならば、


 身長、およそ50メートル──ッ!


 これはどう見ても、まともな人間の身長ではない!


 だが! これが! 見るからに人智を越えた者が会長を務める異様こそが!


 暗黒デス相撲協会なのだ!


 その光景をもはや異様とも思わぬゼナルドが、話を続ける。


「暗黒デス相撲は、いうなれば邪悪の娯楽化でキーン。騙し、裏切り、殺し、何でもアリアリのド外道プレイが、娯楽に飢えた現代人のハートをガッチリ☆キャッチしてきたのでキンキキン。じゃが! 本来邪悪とは、傍らに秩序や善あってこそ、危険な魅力に輝くもの。邪悪もただの日常となっては、ただのルーチンと化すのではないかキン? 興業としての暗黒デス相撲は、そのようなマンネリ化の危機を孕んでいるのではないかと、最近危機感あったキキーン」


 ゼナルドは、純金ステッキでドン、と床を突いた。


「そこにあの反逆者! エレガント相撲とやらが現れたのじゃキン! 奴は力士が殺し合う暗黒デス相撲の日常に、正義だの人命救助だのを持ち込みよった! 悪党のお主らならば、甘いと思うたことじゃろうキキン! じゃが見たか、それがかえって客にはなかなかウケとったキン! 古くさい正義と愛が、この暗黒デス社会には一周回って新鮮なのじゃキキン! これをビジネスに利用せぬ手はあるまいキーン!」


 ゼナルドは興奮した様子で、宙をかき混ぜるようにステッキを振り回した。


「思えば我々は正義に勝ちすぎておったのじゃキン! 土俵の上に悪しかおらんからマンネリにもなる! やはり悪と正義が争ってこそ緊張感が生まれるというもの! 今後しばらくはその緊張感を求める観客どもによって暗黒デス相撲は盛り上がること必至! 無論、暗黒デス力士がエレガント相撲を破れば、その力士を抱えた幹部の名声は高まり世界を獲ったも同然! お主らにとっても決して悪い話ではないのでキキンキキーン!」


「ドスゥ──……コホォーイ──……」


 巨大な機械の駆動音のような振動が周囲を圧した。音の出所は──暗黒デス相撲協会会長!


 火山の噴火のごとくほとばしる巨大な暗黒デスオーラをまとう巨体が、ズシン、ズシン、と地響きを立て、ゼナルドと貴一郎の方へ歩み寄る。黒い靄をかきわけ進むごとに、その異様な姿が徐々に判然としてくる。


 黒い! 全身が、黒い!


 アンコ型ボディの会長は、真っ黒な紋付き袴をまとっている。黒い羽織に白く染め抜かれた紋は、おなじみ暗黒デス相撲協会のシンボル、力士髑髏! 頭には戦国武将のような、黒く艶のある兜を被っている。(ひさし)の部分には「悪」の文字をかたどった金色の飾りが付けられ、悪党だということをわかりやすく示している! 顔には牙を剥いた鬼をかたどった仮面! 吊り上がった目に開いた穴の奥から、業火のごとく赤い輝きが漏れている!


 これだけならまだファッションが奇抜というだけで済む──


 だが──


 羽織から覗かせた腕──


 袴の裾から覗く素足──


 それらまでもが、黒いのだ──


 ただ黒いのではない。黒人の生まれであったり、日焼けだったりで、肌が黒い人間は珍しくなどない。


 が、会長はそのようなものではない。


 ブラックホールのごとき、黒──


 光を一切反射せぬ、黒──


 暗黒の概念そのものが具現したかのような、完璧な黒──


 異様なまでに黒すぎるのだ! どう見てもまともな人間の身体ではない!


 その異様な巨体が、


 ドスゥ── コホォーイ──


 重機の駆動音のような、威圧的な呼吸音を、異形の仮面の下から響かせているのだ! 常人ならばおしっこちびるしかあるまい! だが、この空間の中に、今さらその光景に正気を失う者はいない! それこそが、暗黒デス相撲協会の狂気なのだ!


「ゼナルドォ──」


 会長が巨大な足を止め、地獄の凶獣めいた重低音ボイスを響かせた。


「力士は相撲が強くてこそ力士でドスコイ──土俵の外での搦め手など、つまらぬゴワス──よって暗殺禁止──殺すなら、土俵の上、衆人環視、暗黒デス相撲の取組が望ましいドスコイ──」


『御意!』


 幹部達が唱和した。


「ゼナルドォ──」


 会長が巨大な暗黒親指を立てた。


「ナイス提案!」


「ナイス裁定!」


 ゼナルドも親指を立てた。貴一郎はニコニコ穏やかに笑いながら拍手した。


 が──


「異議はなし──ただ、反逆の刃のみあり──」


 不穏な言葉とともに、周囲に静かな殺気が走った。


 貴一郎の、ゼナルドの──全ての幹部達の背後に、黒いマワシ、黒い覆面の力士達が、日本刀を構え、いつの間にか立っていた。


「どういうつもりじゃキン、アサ田よ」


 ゼナルドは背後の気配に振り向きもせず、ゼナルドと会長の間に音もなく突然現れた黒ずくめの男に声をかけた。


「仕事だ」


 細身で長身、上半身は忍者装束のような和装と覆面、下半身には黒いマワシを巻いた出で立ちの男が、感情の一切こもらない声で、ゼナルドに背を向けたまま応えた。


「五里衛門から依頼を受けていた。自分を脅かしそうな者は殺せと」


 男の名はアサ田シン之助。暗殺者力士を多数抱える「アサシン部屋」の親方であり、自らも凄腕の暗殺者! 暗黒デス相撲協会幹部の一人である!


「下剋上の良い機会ということかキン」


「受け取った金を裏切ってよい稼業ではないということもある。金に込められた信用は大事だ、お主も知っているであろう」


「よい心がけでキン」


「ふンッ!」


 ゼナルドがニタリ笑うと同時に、アサ田は高く跳躍した。


 目標は──会長の、首!


 それを合図に、暗殺力士達が一斉に背後から幹部達を襲った!


 ゼナルドの首にも、刀が振り下ろされた。


 常人が反応できる速度ではなかった。


 が──


「!?!?!?」


 暗殺力士の、覆面の奥の目が、驚愕に見開かれ、絶望にグラグラと震えた。


 ゼナルドを斬ろうとした体勢のまま身体が固まり、一切身動きが取れなくなったのだ!


 ゼナルドが振り向きもせず、懐から暗黒デスドル札束を取り出しニタリと笑うと、デスドル札は物理法則に反して宙に飛び出し、一枚、また一枚と、空中に静止していった。


 あるものはまっすぐ伸びたまま、またあるものは丸まって、空中に並んでいき、やがて形作られたものは──


 人だ! 人の姿だ! 身長10メートルはあろうかという巨大な透明人間! その体表に紙幣が貼り付くことで、姿を浮かび上がらせているのだ! 透明な巨体がかがみ込み、暗殺者のさらに背後から、両手で鷲掴みにして、動きを無理矢理止めさせていたのだ!


「暗黒デスセレブが持つ銭を操る力──それによって銭が持つ霊力を引き出し、形を与えたもの──『銭人(ゼニンド)』じゃキンキン」


 ゼナルドは怯える暗殺者へ振り返り、ニタリ笑いを見せつけた。


「そして、我が『銭人(ゼニンド)』・マイダスの持つ暗黒デスセレブ能力、それは──」


「グォォォォー!?!?!?」


 断末魔を上げる暗殺者の全身が、一瞬、金色に光り輝いた! 真夏の太陽のごときまばゆい輝きがスゥッと消えると──


 苦悶の表情で身をよじる暗殺者をかたどった、純金の彫像が、後には残されていた──!


「物体の黄金化、じゃキン! キーッキッキッキンキン!」


 高笑いするゼナルドの側では、貴一郎もまた、背後の暗殺者に札束裏拳をノールックで叩き込み、生首をねじり飛ばし、噴き出た鮮血を「わぁ」と呑気な声で跳んで避けているところであった。


 周囲からもまた、剣同士が打ち合う音、拳銃の発砲音、謎の機械音、肉を割き骨を砕く咀嚼音、何によって発生しているのか全く正体が掴めない音、等々が響いている。


 暗黒デス相撲協会幹部達のカウンターアタックだ。彼等は強い。この奇襲で死んだ者などいないであろう。


 暗殺者の奇襲ごときで死ぬような者ならば、今までにとっくに命を落としていた。それが、暗黒デス相撲協会なのだ──!


 だが──


 それならば──


 暗黒デス相撲協会幹部クラスの者の襲撃ならば、どうであろうか?


 会長を襲った幹部、アサ田シン之助は──


 結論を言おう。


 奇襲は大成功であった!


 音速を越えた超跳躍により、咄嗟に叩き落とそうとした会長の張り手をすり抜け、アサ田は一瞬にして、まんまと会長の左肩に乗った。


 そして、アサ田に躊躇はなかった。


 肩の上に立つと同時に、巨大な首をめがけ、マワシに差していた刀で居合一閃!


 神速の刃をパキィィィン、と鋭く鞘に収めた瞬間、会長の首が前後にずれ、頭部がゴロリと前へ落ちた!


 勝利を確信したアサ田は、覆面の下で、フッ、とわずかに笑った。


 その笑いが恐怖に凍りついた。


 会長の巨大な左手が、左肩に乗ったアサ田を、ムンズと鷲掴みにしたのだ! 首を斬り落とされたにもかかわらずだ!


「アァ……ァ……!?!?!?」


 身動き取れずに必死でもがく目の前に、黒く巨大な鬼の面がせり上がってきて、アサ田は驚愕と恐怖に固まった。


 生首だ──会長の生首が、会長の右手に掴み取られ、持ち上げられているのだ!


「空中でキャッチしたでゴワス──地面に落ちてはおらぬドスコイ──この相撲、まだオイドンの負けではゴワさぬ──」


「ヒェッッッ──」


 地獄凶獣の唸りのような声を間近で聞き、地獄の業火のような赤い輝きの目が間近で合い、アサ田は、巨大な手の中で、おしっこをちびった。


「ばっちいでゴワス──」


「ギェェェェェッッッ!!!!!!」


 アサ田を握る手により一層の力が込められ、バギ、ゴギ、グギギ、ブチァ、と、全身の骨が、折れ、砕け、内臓は潰れた。


 会長が左手を前方に伸ばし、無造作に手を開くと、もはや何も感じてはいない肉の塊が、50メートルの高さを落下し、ドチャッという濡れた音を立てた。


 会長はそれを全く意に介さない様子で、自らの生首を、元あった位置、斬られた傷口の真上に近付けた。


 この傷口は異様なものだった。常人ならば首を斬り落とされれば鮮血がほとばしるものだ。だが、会長の傷口からは、血の一滴すらこぼれておらず、代わりに黒い靄のような障気が、ゆったりと噴き出ているではないか! 異様さはそれに留まらない!


 黒い障気の向こう、斬られた胴体側の断面から、無数の触手がウネウネと伸び、頭部の断面にジュブジュブと次々刺さっていったのだ!


 触手は頭部を引っ張り、元通りにピッタリとくっつけると、合わせ目の線がグジュグジュ泡立ち、数秒後に泡が収まると、傷口もきれいさっぱり消えていた。


 どう見てもまともな人間の回復力ではない!


 背後の暗殺者を返り討ちにした幹部達も、その異様な様子を目の当たりにしながら、誰一人としてうろたえてはいない。


 この者達も、まともな人間ではない!


 繰り返す! これが! 暗黒デス相撲協会なのだ!


「暗殺は禁止──というか、無駄でしょうね、これは」


「あのエレガント山とやら、ワシらよりはるかに弱いなんてことはないじゃろうなキーン」


 周囲に転がり、様々な死に様を晒している暗殺力士達を見回し、貴一郎とゼナルドはうなずき合った。


「面白いことを企んだ、つもりだったんじゃろうな、五里衛門の奴はキーン」


 ゼナルドは口をへの字に曲げた。


「じゃが、こんな結果はつまらんわいキン。どうせなら金はもっと面白い娯楽のために使えばよいキッキン。死んではもう楽しむことができんキンキン」


 ゼナルドは自ら黄金に変え殺した暗殺者をポンポンと叩いた。


「ワシゃ本気で殺そうとしてきた相手を助けるほどお人好しではないが、こんなもったいないことをするのは、少々後味悪いキンキン。後で溶かして金貨にでもしてやるキン。面白くなき世を面白くするため、せめて経済面で役に立つがよいキッキン」


 その時。


 無数の黒い泡のようなものが、床から続々と這い上がってきて、黄金の暗殺者を覆い尽くしたため、ゼナルドは慌てて手を離した。


 黒い泡は黄金の塊を音もなくスルスルと通り抜け、通った跡の物体を消滅させ、小さな穴だらけにして、どんどん体積を奪っていく。周囲を見渡せば、他の暗殺者達の死骸も同様に、泡にたかられ、無残すぎる姿を晒している。


 掃除だ。


 物体を消滅させる謎の力を操り、反逆者達の死体を片付ける者──


 暗黒の巫女・魅禍虚の仕業だ。


 10メートルほど離れたところに、いつの間にか立っていた魅禍虚の背中を、ゼナルドは睨んだ。その視線を感じたのか、魅禍虚はギギィ、と肩越しにゼナルドへ振り返り、光のない視線をよこし、ニタァーリと笑いかけた。


 ゼナルドはニタリと笑い返す気になれず、への字に結んだ口を、さらにしかめて逆Vの字にした。

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