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どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲幕間場所 ~悪の胎動でゴワシますわ~
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四ッ!

 暗黒デス首都高を暗黒デス新宿から暗黒デス板橋方面へと向かっていた黒塗りの高級車が、本線の頭上を横切る立体交差に入り、暗黒デス赤羽への支線に乗った。


 いよいよか──


 後部座席の若い男は生唾を飲んだ。


 ほどなくして暗黒デス首都高の高架は、高さにして100メートルはあろうかという巨大な黒い壁に阻まれた。ゆるやかなカーブを描いた壁は左右どちらを向いても遠くまで延々と続いている。広大な範囲を円形に囲っているのだ。その壁に真正面から突き刺さるように道路は途切れているが、突き当たりの部分には、道路を底辺とする四角形の切れ目が入っている。許可を得た者を中に通すためのシャッターが設置されているのだ。高級車は壁から十分な距離を保った位置に停車する。


 男の顔に冷汗が浮かび、鼓動は早くなり、無意識に呼吸は荒く小刻みになっていた。


 無理もなかろう。


 高級車の車内には天井からアームでモニターが吊り下げられ、車載カメラが捉えた車外の様子が映し出されている。


 そこに、異様な光景が現れている──


 夜の暗がりの中、壁の上端から周囲を舐め回すサーチライトの向こうに、巨大な異形のものが二体、壁の向こうの道路を左右から挟むように立ち、高級車を見下ろし睨み付けているのだ。


 鳥のような嘴、牛のような角、蝙蝠のような翼を生やした人型の怪物、すなわち悪魔の石像──西洋の古い建築物に取り付けられた魔除けの彫刻・「ガーゴイル」を約200メートルもの巨体にしたものだ。


 だが、それらはただのガーゴイルではない! 壁の向こうから覗かせた体、腕、首は異様にたくましく、どっしりと太い! そして、尖った大きな耳と額の角に囲まれた髪は、大銀杏を結っている!


 そう、これは力士──ガーゴイルならぬ、ドスコイ・ガーゴイル──縮めて悪魔力士像(ドスゴイル)なのだ!


 グゴゴ──


 二体の悪魔力士像(ドスゴイル)が首を回し顔をうつむかせ、正確に高級車の方を向いた。一見して石像のような質感に仕上げられているが、よく観察すれば関節部にアクションフィギュアのような切れ目が入っている。人と同じような動作ができるように造られた、巨大な人型ロボットなのだ!


 吊り上がった両眼の瞳の部分には穴が開いており、その空洞の黒さに男は息を呑む。


 悪魔力士像(ドスゴイル)の両眼は高出力ビームの発射孔──資格なきものが壁を越えようとすれば、牛5000頭は瞬時に蒸発させると噂される殺人ビームが、跡形もなく消し飛ばしてしまうのだ!


 運転手と高級車が発信器やパスワードによるセキュリティチェックを受け、後部座席の男も車内カメラでスキャンされた網膜パターンを照会される──それらに要した実時間は数十秒程度だったが、男にはギロチンの刃の下で数十分を過ごしているかのように感じられ、胃から黒いモヤが涌いて出る気分を味わった。


 グゴゴゴ──


 しかし、二体の悪魔力士像(ドスゴイル)が片腕を挙げた。通行許可のサインだ! 壁の切れ目──巨大なシャッターがゆっくりとせり上がり進路を開いた。


「ンフッ──ムフヘ、ヌハッハハッ──」


 安堵の笑いを洩らしながら大量の汗をかく男を乗せ、高級車は壁の奥へと進む──


 暗黒の魔都・暗黒デス西赤羽へと──


 ──


 シャッターの先はまたシャッターに阻まれていた。車の後方で一旦シャッターが閉まり、改めて前方のシャッターが開くとまたもシャッター。それを繰り返し、五枚目がようやく壁の出口となっており──


 現れた光景に後部座席の男は何度目かの生唾を飲んだ。


 黒い──何もかもが黒い!


 巨大な円形の壁に囲われた広大な土地──その内部は緑地などなく、全てが人造の床に覆われ、大小様々のビルが整然と幾何学的に配置された無機質な空間と化している。


 その床が、建造物が、何もかも──黒いのだ!


 夜の暗さのせいではない。照明なのであろうか、壁の内側には、赤や紫、青の光の筋が、地面や壁、至るところに幾何学模様を描いて張り巡らされている。それらの光に照らされた建造物の何もかもが、暗闇を固めて造られたかのように、黒い!


 黒い積み木を並べたような、生活の臭いを全く感じさせない模型じみた光景の中に、時々小さなものたちがうごめいている。上半身に軍服、下半身にマワシを着用した力士軍人だ。これら漆黒の建造物では、非人道的な兵器の開発や、非人道的な人体実験など、非人道的な悪の活動が行われているのだと、男は聞かされている。


 そして、それら悪の建造物の合間にはところどころ、悪魔力士像(ドスゴイル)が立ち、赤青紫の不気味な光に照らされて、壁の外を睨んでいる。その数、合計108体!


 この絶大な戦力が守るのは、円形の土地の中央にそびえ立つ、ひときわ巨大な建造物──


 高さ9000メートルにも達する超絶巨大ビル・《†暗黒デス西赤羽バベルタワー†》なのだ!


 この、不気味に光る赤青紫の幾何学的な線に覆われた漆黒の超絶巨大ビルこそ、世界の支配者・暗黒デス相撲協会の本拠地なのだ──!


 †暗黒デス西赤羽バベルタワー†に招待されることは、後部座席の男にとって名誉であると同時に、不安でもあった。


 かつて西赤羽であった土地一帯を、暗黒デス相撲協会が本拠地の建設予定地と定めた時、大規模な立ち退き計画に住民達は反対し、地域外の者も日照権を求めて抗議した。


 だが、そうやって暗黒デス相撲協会に逆らう者達は、見せしめとして荒川を流れゆく屍へと変えられたのだった──ッ!


 外道! 非人道! 暗黒デス相撲協会!


 そのような悪どい連中の幹部として、男は迎え入れられようとしているのだ──!


 常人(シャバ)レベルの感覚でいたのでは、この先生きのこることはできないであろう──


「慣れてしまわなきゃな。こんな風景にも」


 男は大きく息を吐き出すと、つとめて不敵な、いかにも悪どくいやらしい表情を作った。


 その表情が驚愕に凍った。


 高級車が、突如青白く激しい光に照らされ、バリバリビリビリという大気の震えを叩きつけられたのだ。


 雷か? いや──


 窓の外を見やると、悪魔力士像(ドスゴイル)の一体が空に顔を向け、その目から伸びた白い光の筋がみるみる細くなり、やがて消えていくところだった。


 ビームだ──空に向けてビームを撃ったのだ!


「……祝砲……ってやつか」


 男は冷汗にこわばった顔を、ニタァーリといやらしい笑いに作り変えていった。


「ありがてぇこったぜ──」


 †暗黒デス西赤羽バベルタワー†内部へと直通する暗黒デス首都高高架の上で、男──音織部五里衛門(ねおりべごりえもん)は、ククク、と笑ってみせた。

 

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