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どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲幕間場所 ~悪の胎動でゴワシますわ~
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三ッ!

 ピクリ──


 エレガント山が重大な事実を二人に告げたちょうどその頃、一人の男がかすかに顔をしかめた。


 その男、明らかに只者ではない。平屋一戸建てくらいのサイズ感のある銭十字救急車──暗黒デス首都高を走行中である──その上で腕を組み、静かに胡座をかいているのだ! 見るからに只者ではない!


 黒く長い髪、そして浅黒い裸の上半身にまとった浅葱色のマントがはためく様子から、かなりの風圧を受けていることがわかる。にもかかわらず、体幹の揺らぎを微塵も感じさせない、泰然とした佇まいであった!


 ピクリ──


 しばらくして、救急車の上の男は、わずかに眉をひそめた。中東系の民族であろうか、口髭をたくわえた彫りの深い顔が斜め上空を向き、猛禽類めいた精悍な眼が遠くを見やった。


 ババババババババ──


 くぐもった音が少しずつ近付き、やがて鮮明な騒音となる。


 音の出どころは──輸送機オスプレイ!


 行く先々で災いをもたらし、死と凶事と戦乱を招く忌まわしき呪いの機体と巷間言い伝えられ、各地で激しい導入反対運動を引き起こした、伝説の不吉なマシーンである!


 夜空の中、ただならぬ威圧感を漂わせ迫りくるオスプレイは、絶望を表すかのような漆黒に塗られている──恐怖! まさに恐怖の象徴である!


 不吉! 凶兆! オスプレイ!


 その印象をまさに裏付けるかのような事態が、次いで発生する!


 シュバァァッ──


 オスプレイの開かれた後部ハッチから、影が七つ、勢いよく飛び出した! それらは鳥のように滑空し、空中で一列の編隊を組み、ぐるりと円を描いた──


 その影とは──


 力士だ! 大銀杏を結い、黒いガスマスクを装着し、黒いマワシを締めた力士だ! 力士が空を飛んでいるのだ!


 そして彼らの背中からは、蝙蝠──いや、悪魔を思わせる、巨大な黒い羽根が生えているのだ! もちろんただの人間ではありえない! 暗黒デス相撲協会の母体のひとつとなった悪の組織に伝えられてきた人体魔改造技術! その禁断の技によって強化された、悪の魔改造力士なのだ!


 引き返し遠ざかっていく黒塗りのオスプレイをよそに、救急車のはるか前方の上空で悠々と円を描いていた魔改造力士達は、やがて猛スピードで地上へ急降下を始める! V字型の編隊を組み、向かう先は──銭十字救急車!


 スゥッ──


 救急車の上で、マントの男が静かに立ち上がる。全身に分厚い筋肉をたくわえた身体は、マントの他には白い褌をまとうのみである。


 ──いや、これは褌ではない! マワシ! 純白のマワシだ!


 彼もまた力士なのだ!


 マントの力士は、斜め前方の空から迫りくる魔改造力士達を、猛禽の眼光で見据え──


 その時、不思議なことが起こった!


 マントの力士の姿が、一瞬にして、音もなく、救急車の上から消え去ったのだ!


 そして、数十秒後──


 救急車の上に、音もなく、マントの力士が着地した。浅い水たまりでもまたいだかのような何気なさで、高所からふわりと降りてきたのだ。力士は再び、何事もなかったかのように、胡座をかいて腕を組み、長髪とマントをはためかせた。救急車も、何事もなかったかのように走り去った。そして──


 ゼーニー、ゼーニー……


 ドップラー効果のかかった銭十字救急車のサイレンが遠ざかっていく中、七人の魔改造力士達が、ハイウェイの上、あるいは周囲のビルの屋上に、ピクピクと痙攣しながら転がっていた。


 彼らの身体には、赤い張り手の跡が、生々しく残されていた──!

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