二十一ッ!
問おう!
ミサイルとは──何か!?
自ら推進力を持ち、目標を追尾し、爆風と破片で破壊する兵器──
その答えは正しい。実に正しい!
──通常ならば。
だが──これは何だ! この光景は一体何だ!
「こッこれなんぞギガーァァーッッッ!?」
ヘルマシーン乃海が驚愕の叫びを上げる! なぜならば──
舞っている! ミサイル達が、舞っている!
バレリーナのごとくくるくると華麗に躍りながら、宙を舞う薔薇の花びらの上を次から次へと軽やかに跳び移る身長二メートルの巨漢・エレガント山!
その周囲を、サイズにしてフランクフルト程度のミサイル達が、群れをなす小魚のように秩序立った列を組み、ゆったりと優雅に回りながら追随する!
その姿、楽しげに笑いながら風に遊ぶ妖精のごとし!
これがミサイルだというのか!? ミサイルとは──一体何なのだ!?
巨大な空中スクリーンがでかでかと映し出すその光景を目撃した誰もが、その答えに対する自信を見失った!
「なんッ! なんッ! だァァァーァァーッッッ!?!?!? ミサイルッ! どうしちまったんだァァァーッッッ!?!?!?」
全ての人々を代弁する、殺意之助の絶叫実況が響く!
「エレガントで──ゴワシますわ」
エレガント山のエレガントバリトンが厳かに、踊りながら答える!
「高濃度エレガントの放射によって、エレガント圧の高まった飽和エレガント大気の中では、物思わぬ機械ですらもエレガントに目覚め、戦いよりも優美と踊ることを選ぶ──そう! 戦わずして兵器を鎮めるエレガント奥義! これぞ “紅薔薇即興舞踏会” ッッ!」
「なッなんだとピガーァァーッ! ミサイルども! 戦う機械としての誇りを忘れたのかギガーァァーッッッ!!!」
「誇りを忘れたのではゴワシませんわ──ミサイルとは命令に従いただ突き進むものでしかなかった! ですがその純粋さゆえに、エレガントに目覚めた喜びを素直に受け入れあそばしたのでゴワシますわ!」
厳かに言い放つエレガント山の周囲で、ミサイル達が虹色の光を放ち始めた!
「な、何じゃァァーッ!? ミサイルの様子が──ッッッ!?!?!?」
驚く和厳親方達が緊張して見守る中、ミサイル達は光の中でその輪郭を曖昧に溶かしていく! 姿が完全に消えたと思いきや、光の中で再び何かが形造られていく! だがその形とは元のミサイルではない! 薔薇の花だ! 虹色の光を放つ艶やかな薔薇の花! 虹色の花達が優雅な風に乗り、エレガント山の周囲を軽やかに舞い踊っている! なんと麗しくも不可解な光景か!
「おめでとう──破壊の申し子は、エレガントの申し子へと進化あそばしてゴワシますわ」
そう! 戦う機械であることをやめたミサイル達は、破壊に適した形態を捨て、エレガントに適した形態へと進化したのだ! これぞまさしくエレガント超進化!
「ぐぬぬぬーゥぬギガ……ッ! ハッ、だが待てよピガ? 機械がエレガントの力に操られるなら、なぜワシ様のマシーンボデェはそのような姿に変化しておらぬピボバ!?」
「それは──おヌッシャ様には、良くも悪くも心がおありだからでゴワシますわ」
エレガント山は華麗に舞いながら厳かに語った。
「ひとつ訂正を。エレガントとは心を操るものではゴワシませぬ。心を導くものでゴワシますわ。それゆえに──ただ命令に従うことしかご存じなかったミサイル様がたとは異なり、悪の心とはいえ確固たる心をお持ちのおヌッシャ様は、そう容易にはエレガントの化身とおなりあそばすことはゴワシませぬのよ」
「ほほーうギガ……」
ヘルマシーン乃海はニタァーリと顔を歪めた。暗黒デス微笑だ!
「調子に乗ってペラペラと! テメェはエレガント力とやらの欠陥を衆目に晒したギガ! それは──」
突如、ヘルマシーン乃海のマシーンボディから漆黒のオーラが噴き出し、全身を覆った! 暗黒デスオーラだ! エレガント力士が精神集中により血中エレガント濃度を高めるのと同様、暗黒デス力士は悪の思念を集中することによって血中暗黒濃度を高めることができるのだ!
「悪の思念をエレガントで屈服させることはできんということだギガ! ならばこうして暗黒デスオーラで覆ってしまえば──」
ジャギィィン!
ヘルマシーン乃海のマシーンボディが形態変化した! 背中に合体した大型ドローンから多数伸びたロボットアーム、それら全てが頭上と側面を回り込んで前方へ伸び、先端に付いたローターをエレガント山へ向ける! 代わりに脚のロケットノズルを再び展開し、噴射によってホバリングを維持する!
「マシーンといえどッ! 薔薇に変化させられる無様はありえんということギガガガガーァァーッッッ!!!」
どす黒く噴き上がるオーラの隙間に、ヘルマシーン乃海の赤いメカ眼が禍々しく光った! 次の瞬間、脚を後方に向け、ロケット噴射の出力を急上昇! 弾丸のごとき超スピードでエレガント山へ突進! 前方に展開した多数の超合金ローターはさながらホラー映画の殺人鬼が持つチェーンソー! これで相手を切り裂こうというのだ!
「うぉァァァーッッッ! 必殺技 “バラバラ地獄ぶちかまし” が出やがったァァァーァァァッッッ!!!」
殺意之助の絶叫実況が響く! エレガント山へ肉薄するヘルマシーン乃海の殺人ローターが周囲に漂う虹色の薔薇を切り裂いた! ヘルマシーン乃海の暗黒デスオーラはローターの先まで包んでおり、これでは先ほどのミサイルのようにはいかない! 牛一頭くらい一瞬でたやすく1cm角のサイコロ肉にしてしまえる威力の斬擊が、一斉にエレガント山へ振り下ろされ、惨劇を確信したヘルマシーン乃海はニタァーリと笑う!
卑劣! 悪辣! ヘルマシーン乃海!
「うわぁぁぁーッエレガント山ァァァーッッッ!!!」
龍角が涙を浮かべて絶叫した!
だが!
「い、いや、あれはッッ!?」
和厳親方が驚き指差した先、そこには──
「なんぞこれギガガガガーァァァッッッ!?!?!?」
なんなのかわからないものがあった!
いや──より正確には、もはや形がなんなのかすらわからないほど、人間の動体視力で捉えられるレベルをはるかに超えた超スピードで回転するエレガント山だ! そのスピードに、次々と打ち下ろされるローターが片っ端から弾かれてしまっているのだ! ドリルだ! これはまさに人間ドリルだ!
「こんなせわしない姿での説明、ご容赦ゴワシませ。これは、おヌッシャ様の攻撃の回転エネルギーをいただいたのでゴワシますわ。おヌッシャ様のメカのお力がお強いからこそ、こうして普段よりも多く回ってゴワシますのよ」
「なん…だと……ギガ……」
激しく回りながら答えるエレガント山に、ヘルマシーン乃海が呻く。
そう──エレガント山は、自らに振り下ろされたローターを掌で優雅に受け止めると、その殺人的な回転力が身を切り裂く前に、絶妙なタイミングで腕を横に振り、己の横方向回転を加速させる力へとうまいこと変換させたのだ!
「こッ、これはまさに、柔よく剛を制す! 柔の力にて相手の攻撃力を吸い込み受け流す武の極み! じゃが柔だけではそのような超高速回転には耐えられまい──じゃから剛の力も用いて自らを支えるということか……ッッ!」
「グッド理解!」
和厳親方の洞察に、おそらくエレガント山は回りながら親指を立てたのだが、誰にもよく見えなかった!
「エレガントなだけでは悪を討つことはあたわぬでゴワシますわ──ゆえに、ワッタクシがただのエレガント人間ならば、ただ力を受け流しながら風にそよぎ、試合不成立で引き分けでゴワシましょう──ですが! ワッタクシは力士のさだめに生きるエレガント力士! なれば激しくも、華やかに──勝ち星を掴みにつかまつるッッ!」
「うぉッピガッ──」
異変を感じたヘルマシーン乃海は、瞬時にロケット噴射の方向を変え、全速力でエレガント山から離れようとした──
だが、遅すぎた!
「ぐおっピガうごっピガどげっピガげばっピガがはっピガ──」
超高速回転を維持したままの超高速ぶちかましがヘルマシーン乃海へ直撃! 独楽のように衝撃で吹っ飛ぶ先へ超高速で回り込み、またもや吹き飛ばす! 防御や反撃の暇もない疾風怒濤のクリティカルヒットを繰り返すこと数十回、ヘルマシーン乃海の超合金マシーンボディが凹み、ひび割れ、火花を噴き出す! 殺人ローターのアームは全部折れ、バラバラと落ちていく途中で暗黒デスオーラを失い、虹色の薔薇へと変化していた!
アザラシを吹き飛ばし弄ぶシャチが生ぬるく見えるほどの翻弄ぶり! 竜巻だ! これはまさに人間竜巻だ!
しかし怒濤の攻撃も、ついに止む時が来た。空中をあちらこちらへと跳ね飛ばされていたヘルマシーン乃海が試合場中央あたりの上空に来た時、またも追随してきたエレガント山が、回転をやめ、ついに竜巻から人の姿へ戻ったのだ。
さすがにこのくらいが超高速回転の限界か──
と、誰もが思った。
だが! そうではない!
「なッッなんなのなのじゃァァァーッッッ!?!?!?」
和厳親方が絶叫せずにはいられない異様な光景!
空中にわけのわからないものがある!
いや──形のわからないほど超高速で回転するヘルマシーン乃海! それが薔薇の花びらに支えられ、空中に浮かんでいるのだ!
「おヌッシャ様からいただいた回転力、おヌッシャ様にお返しゴワシますわ。お加減いかがでゴワシますかしら」
「おぶろべおぶろべモガガガガガガ」
いかに屈強なサイボーグ力士とはいえ、突然の超高速回転と大ダメージの蓄積が重なってはまともな受け答えはできなかった!
エレガント山はその無様さを憐れむよな表情を浮かべ、回転するヘルマシーン乃海に手を伸ばした。
「決着、つかまつりゴワシますわ!」
その宣言に人々が固唾を飲む暇もなく!
「 “天使は薔薇の園へと降りた” ッッッ!!!」
ヘルマシーン乃海を支えていた、エレガント力の具現たる薔薇の花を消し、同時にヘルマシーン乃海を全力ではたき落とす!
稲妻のごとき轟音、衝撃! ヘルマシーン乃海は高速回転しながら、筒状の空中スクリーンの真ん中を通り抜け高速落下! 盛大に土砂を巻き上げ、土俵跡のクレーターの底にもうひとつクレーターを作ったのだ!
見事な、実に見事な完全決着!
「……こ、この勝負──エレガント山のッッ! あ、勝ちィィィだァァァーァァァッッッ!!!」
殺意之助が高らかに絶叫すると、空中スクリーンに相撲書体ででかでかと「決まり手 ローゼンガーテンはたき込み」と表示され、観客席がウォォォォォと沸いた──!