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どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲ビッグバトル場所
20/47

十七ッ!

「うぉ……う……」


 観客達の理解力は限界を迎えていた。撮影用ドローンが空中スクリーンに映し出した光景に、彼らはもはや唸るしかない。なぜならば──


 止めている!


 エレガント山とは全くの別方向へ向けて投げられた超合金の杭を!


 次の瞬間、エレガント山が元いた位置から10メートル以上は離れた土俵際で! 両脇に抱える形で、エレガント山が止めている!


「こ……これは瞬間移動ッ!? 確かにエレガントとエスパーは『エ』が共通しておるが……ッ!」


 土俵下で、反射的に跳びのこうとしていた和厳親方が呻いた。その回避行動は寄る年波のためワンテンポ遅れており、エレガント山が止めていなければ杭に貫かれていただろう!


「エレガントの賜物でゴワシますわ。清い心、正しい姿勢、美しい身のこなし、その全てを揃えたエレガントな所作はいわば運動の模範解答! ゆえに人体のポテンシャルを最大限に引き出し、歩行速度が音速を越えることすら可能! これ即ちエレガント体術の基礎にして極意ッ!」


「なるほどわかった! まこと恐るべしはエレガントじゃなッ!」


「で、でもようエレガント山(ぜき)……」


 杭に反応できず棒立ちだった龍角が、心細い声とともにエレガント山を指差した。


「腕が……ッ!」


 そうなのだ──


 杭は先ほどエレガント山がクルクルとねじ切ったものだ。そのねじれはドリルのような形となって、両脇に抱えて止めたエレガント山の腕と胴をえぐったのだ! 今しがた飛び散った赤いものとは、エレガント山の、血ッ!


「フフッ、これしきの負傷などエレガント人命救助には付きもの──苦ではゴワシませんわ」


「エレガント……人命救助……」


 暴言を吐いて煽ったり、片方の力士を攻撃したりといった暗黒デス行司の仕事を忘れ、土俵上で呆然と呟く殺意之助。


「あぁーんガピッ?」


 ヘルマシーン乃海は腑に落ちない表情をしていた。それは投げた杭を止められたことに対してではない──!


「高速移動はエレガントギガ、しかしジェットパイル張り手を受け止め折ったのもエレガントギガ──その時は傷一つ負わずに止めてみせた貴様が、なぜ今度は負傷したピゴ? 同じくエレガント力を発揮したのにポピ──?」


 その問いに美しい眉をひそめるエレガント山──


 ヘルマシーン乃海がニタァリと笑う!


「ハハァーンさては! 無傷でジェットパイルを受けるパワー! ジェットパイル投げに一瞬で追い付くスピード! その両方を同時に発揮することができんのだなガガガーッ!」


「ご明察でゴワシますわね。そう、エレガント量保存の法則──パワーとスピード、どちらか片方を全開にすればもう片方はおろそかになる。エレガント体術の限界がそこにゴワシますの」


「グヒヒヒそうかそうかギガ! エレガント相撲、弱点見つけたりガガーッ!」


 ヘルマシーン乃海の顔面が邪悪に歪む! 邪悪な者とはこうして他人の欠点を見抜く勘に鋭く、また欠点を暴き立てることに喜びを覚えるものなのだ! 卑劣! 悪辣! ヘルマシーン乃海!


 そして、悪党の喜びはもうひとつ──


「弱点がわかったということは! 貴様を殺せるということだギガーッッ!!!」


 ヘルマシーン乃海のメカ眼が赤く不気味に明滅する!


 すると会場を飛び回っていた撮影用ドローン達が一斉に軌道を変え、高度を落とし、ヘルマシーン乃海の数メートル頭上に集結! 整然と陣形を組んだ! およそ三十機はあろうか!


「な、何をする気じゃアーッッ!?」


「こうだギガッ!」


 ドローンの一機が編隊を離れ、猛スピードで低空飛行し、龍角の横をかすめた!


「……ヒェッ!?」


 ワンテンポ遅れて龍角は驚き尻餅をついた!


 傍らに置かれていた木桶が──鋭利な切り口で真っ二つに割られている!


 さらにドローンは縦横無尽に複雑な軌道を描いてから、ヘルマシーン乃海が突き出した拳の上にホバリングした。


「見ての通り、これらドローンの羽は超合金カッターになっておるギガ! 撮影用ドローンとは仮の姿──本来の用途は殺人用ドローン! ワシ様のマシーンボデェはいざとなればこいつらをコントロールできるのだギガ!」


「フッ、後で使用料はたんまり払ってもらうがな」


 VIPルームで暗黒デス相撲協会幹部のマフィアボスが、搾取のチャンスにニヤリと笑った。ヘルマシーン乃海にとって、これは赤字覚悟の切り札なのだ!


 そして!


「行けェーいドローンどもォーッ! ガガガーッ!」


 ドローン達は一斉に散開! 土俵下の和厳親方と龍角を、前後左右と頭上から取り囲み、猛然と襲いかかる!


 だが!


「ふんッ!」


 ドローン達の編隊は、ほんのわずかな瞬間、エレガント山から見て二本の曲線状に並ぶという隙を見せたのだ──!


 その機を逃さずエレガント山は両脇の杭を投擲! 力強く回転しながら弧を描く杭は、数十機ものドローンを巻き込み、叩き潰した!


 しかし──!


「うッわァーァッッ!?!?」


 殺意之助の悲鳴だ! ドローンのうち一機が、なぜか殺意之助に向かっているのだ!


 背を向け逃げる殺意之助に追いすがるドローン! その狙いは正確に、殺意之助の首筋! 数瞬のちには触れる速度!


 彼の位置はエレガント山から離れており──


 助けるには、高速移動するしかない!


 なので、エレガント山は、迷わず高速移動で追い付き、ドローンを手刀で叩き落とす!


「──そうすると思ったギガ」


 ヘルマシーン乃海は両手の指を伸ばし、彼らの方へと向けていた。十本のメカ指の先端には──穴が開いている!


「フィンガー・ショット・張り手ッ! ガガガーッ!」


 なんということだ──全ては計算だったのだ。


 杭二本を投げれば撃墜できるようにわざとドローンを並べ、飛び道具を無くさせる。その上で殺意之助を襲わせれば、高速移動で駆けつける。


 窮地に陥る人命があれば救おうとする、エレガント山のエレガントな正義感を利用した罠! 全ては邪悪な計算!


 そうして、スピードを選び、パワーを捨て、防御力の下がったエレガント山の背中に──


 ヘルマシーン乃海の指先から、十発の小型ミサイルが放たれた!


 狙いは正確! エレガント山の背中に、後頭部に、全弾着弾!


 人ひとり──などと生易しいものではない──牛六頭は殺すのに十分な爆発が起こった──


 赤いものが、今度は、大量に、飛び散った──!


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