表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲ビッグバトル場所
17/47

十四ッ!

 花が──


 花が、咲いていた──


 三十万人を超える観衆が、どよめきすら忘れ静かに固まった。


 なぜならば──巨大ドームの観客席の、足元の無機質なコンクリート……そして、VIPルームの超高級絨毯……それらが、誰も気付かぬ一瞬の間に、色とりどりの春の花々咲き乱れ、穏やかな風にゆらめく、一面の草原と化していたのである!


 草原は見渡す限り広がり、観客席から闘技場へと続き、その中央の土俵をも覆い尽くしていた。そして──


 そこには、たおやかな横座りで草花に埋もれ、優しげに伸ばした手のひらに白い蝶を止まらせた、白いワンピース姿の清楚な美少女が、陽光に照らされ微笑んでいたのだ……!


 おかしい──


 草花が急に生え、美少女が急に現れるのもさることながら、観客席からそれが美少女だとわかるのもおかしいのだ。暗黒デス相撲において銃弾乱れ飛ぶくらいのことは日常茶飯事のため、一応の安全対策として観客席は最前列でも土俵から数十メートルは離れている……肉眼で美少女の様子がそんなにもありありとわかるはずがない!


 だが──ドーム内の人々は、確かに、なぜか、美少女の微笑む表情をはっきりと感じ取ったのだ!


「な……んが……」


 背後からエレガント山を刺し殺そうとしていた殺意之助が、呻きを漏らし動作を止めた。


 目の前にいた女装の巨漢がいつの間にか姿を消し、本物の美少女と化しているという怪奇! 常人ならば己の正気を疑う光景!


 それより何より──


 少女の佇まいは、美しく、優しく、たおやかにすぎる!


 目の前の、儚げで、花の香りを漂わせる可憐な少女を、背中から刺すなどという残虐! 殺意之助がいくら金に目が眩み人を殺そうとするゲスな悪党とはいえ、そこまでするのははばかられるものがあった!


「なんなんだ……なんなんだよ畜生……」


 妖刀毀命丸を握ったまま力なく震える殺意之助に、鈴の音色のごとき儚く清らかな声が答えた。


「おヌッシャ様……いくら名前が殺意之助だからって殺意が剥き出しすぎでゴワシましたわよ。なので少々解放させていただきましたの──」


 そこで美少女──エレガント山だったもの──が、すぅ、と立ち上がり、振り向いて殺意之助を真っ直ぐ見つめ、言い放った。


「エレガントを!」


「え……? エレガ……ん???」


 少女の眼光の美しさにたじろぎ頭が真っ白になった殺意之助が、間抜けに問い返そうとした。それが問いになっていないのを意に介さず、鈴のごとき声は応えた。


「古来よりこう言われるでゴワシます──立てば芍薬、座れば牡丹──つまり、己の内のエレガント力を高め、整えた所作で座れば、影形(かげかたち)は美少女となり、辺りは清らかな花畑と化す! すなわちエレガント相撲の基礎、影形美(えいけいび)清蹲踞(せいそんきょ)!」


「いや意味わかんねぇ!」


「わかる──わかったぞ!」


 首をひねる殺意之助をよそに、土俵下の和厳親方が叫んだ。


「歌舞伎には、たおやかな乙女の動作を再現することで男でも女に見せる技術──女形というものがある! それを極限まで高めることで、見る者の魂に美少女と認知させ、周りに花畑すら見せる──そういうことかァーッ!」


「グッド理解!」


 たおやかな美少女と化したエレガント山がたおやかに親指を立てた!


 そう──魂に映る光景であるから、実際の距離とは関係なく、遠い観客席からも美少女の姿をイメージとしてはっきりと感じられるのだ──そんな説明を聞かされて、しかし観客達はただ困惑していた。命を懸けた戦いを通じて己の魂を見つめた経験が豊富な元横綱なればこそ、和厳親方は魂にまつわる理論への理解度が高いのであり、そのような経験に乏しい一般人が呆然としてしまうのは無理もあるまい……!


「そうやって高濃度エレガント空間を発生させピュアな光景を見せれば、生半可な殺意など大抵は消し飛んでしまうものでゴワシますのよ──」


「そう、普通ならばギュイン!」


 ジャキン、と不吉な音が響いた。


「げえェェェーェェェッッッ!?!?!?」


 瞬時に蒼白となった殺意之助の視線の先、エレガント山の背後には、屈んだ体勢のまま両腕を前へ突き出したたヘルマシーン乃海! その機械の両腕からはマシンガンが飛び出し、銃口が狙う先には背後を見せるエレガント山──そして殺意之助も入っているッ!


「こんな見た目が効くかギガ」


 ニタリ──歪んだ笑みを浮かべたヘルマシーン乃海は一切の躊躇なく、清楚な美少女の背中に向けて至近距離から弾丸を発射した!


「女も殺す! 子供も殺す! 邪魔なら殺す隙あらば殺す! ブッ殺してベッ殺してボッ殺すッ! それが! 暗黒デス相撲だギガガガガァァァーッッッ!」


 哄笑と共に乱射乱射乱射! 飛び散る血飛沫、跳ねる肉片! 後には無惨な欠片が転がる!


 そうなる──はずだった!


「!?!?!?」


 だが、場内を包んだのは、更なる驚愕であった……ッ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ