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どすこいあそばせ! エレガント力士・エレガント山!  作者: 当年サトル
エレガント相撲ビッグバトル場所
15/47

十二ッ!

頑斗山(がんとやま)……ッッ!」


 頑斗山──


 それは、十二年前に史上最年少入幕と全勝優勝を果たし、直後に失踪した、伝説の天才力士の名であった……ッッ!


「おヌッシャ様は和厳親方でゴワシますわね、ごきげんよう。ええ、ワッタクシは元の四股名を頑斗山。しかして今は、エレガント山!」


 ヨーロッパ貴族の子女のごとき優雅なカーテシー、バレリーナのごとき流麗な回転、歌劇女優のごとき華麗なポーズ! 一連の華やかな動作とともに答えた頑斗山改めエレガント山に対し、訊きたいことがありすぎた和厳親方の思いは、ただ一言に集約された。


「一体何がどうしてそうなったのじゃ……!」


「あの日──優勝したワッタクシは思ったのでゴワシますの。ワッタクシの相撲は巷では豪快な取組などと称されてゴワシましたが、それは力で相手をねじ伏せる相撲だったということ。しかしながら力はいずれ衰える──力に頼る相撲では、力とともに滅び去る。ワッタクシの相撲を完全な形にするためには、力以外の何かを身に付ける必要がある──そしてたどり着いたでゴワシますの──」


 歌劇のような身振りとともに語ったエレガント山は、最後に高々と両手を天に掲げ、朗々と言い放った!


「“エレガント”にッ!」


「……つまり剛の相撲に柔の技を取り入れてそうなった……ということなのか……ッ!」


「グッド理解でゴワシますわ!」


 エレガント山はエレガントに親指を立てるとエレガントな語り口で続けた。


「ワッタクシは世界を渡り歩き、エレガント修行に励み、エレガントしぐさを身に付け、相撲とエレガントの融合──エレガント相撲の完成に心血を注いでゴワシましたわ。ですがそうしているうちに世の中では暗黒デス相撲が幅をお利かせあそばすようになってしまった──ゆえに! ワッタクシはエレガント相撲をもってして! 暗黒デス相撲に挑むと誓いゴワシましたの!」


 そこでバレリーナ回転! ヘルマシーン乃海に向き直り、凛々しく華麗にポーズを決め、エレガントに人差し指を突き付けた!


「そう──エレガントにッッ!」


「よくわからんがワシ様を倒そうということかギガ!」


「グッド理解でゴワシますわ!」


「ククク、いきりよるガシャン! よかろう、どすこウィーンガシャン! おい行司、準備はよいでギガ?」


 闖入者のキャラクターに、マイクパフォーマンスも忘れて呆然としていた殺意之助が、急に話を振られて素で慌てた。


「え、いや、ここで今から試合開始ってか? ってもこの会場使っていいか俺個人で決めることじゃないっつか……」


「我々が許可しよう!」


 空中スクリーンの映像がVIPルームに切り替わり、マフィアのボスが語り始めた!


「単刀直入に聞くが、マワシは締めているのかね?」


「ええ、この通り──お見苦しゅうことご容赦ゴワシませ」


 ボスに問われ、エレガント山が優雅にスカートをたくし上げると、エンタシスの柱のごとく、太くたくましくも気品ある太股の上に、深紅のマワシが巻かれている!


 そして、フワリと優雅にスカートを戻す所作に観客席がどよめいた。


 見た目は異様ですらある女装の巨漢なのに、動作に妙な艶がある──


 そのたおやかな仕草で、心も身体も許した恋人が相手であるかのように、惜しげもなく見せられたスカートの中身! 実際それはただのマワシ、力士ならば普通のことなのに、見る側に謎の背徳感がよぎってしまっている……!


「! フ、フフ……よかろう。マワシルールにより君を正式に挑戦者と認めよう」


 謎の背徳感に一瞬たじろいでしまったボスが、動揺を振り払い言葉に殺気を込めた。


「その意味──わかるな?」


「処刑──のおつもりでゴワシましょう?」


「ナイス理解! 死の運命!」


 ボスが親指を立て、手首を回しサムダウン! 死刑宣告である!


 暗黒デス相撲協会に歯向かった者たちに無理矢理マワシを締めさせ、力士ということにして、土俵に上げ、殺し、見せしめとする──そのためにマワシルールは制定されたのだ。そうやって暗黒デス相撲協会は権力を拡大してきたのだ……ッ!


「反抗を宣言されたからには、殺さないわけにはいかん。抹殺対象者が最初からマワシを締めてくれているのはナイス省力! さあ存分に脳髄やハラワタを披露し、場を盛り上げてくれたまえ!」


「ナイス殺害には豪華賞金アル!」


「血をオイルのように噴き出させてやれダラー!」


 中国の不動産王やアラブの石油王……いくつものスクリーンの映像が切り替わり、世界の大物財界人たちが両手に札束を持って次々と現れ、観客席が沸いた。彼らもまた、ドーム最上階に並ぶVIPルームで殺戮を楽しむ、暗黒デス相撲協会幹部なのだ……! まさに世界が敵! この威圧、常人ならばおしっこちびるほかあるまい!


 だが!


「殺す必要がゴワシますの?」


「土壇場で怖じ気づいて命乞いかね? まぁ今のうちならコミカルな土下座ショーで勘弁してやらなくも──」


「いえ、ワッタクシが賞金をいただくのに、ヘルマシーン乃海様のお命をいただく必要がおありなのかとお訊きしてゴワシますの」


 不敵! 勝利宣言である! 世界の暗黒権力者たちを前に揺るがぬエレガント胆力に、ボスは一瞬言葉を失った!


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