七ッ!
「ふンぬォォォォォォ………ッッッ!」
渾身の気合を込めて押し返す超能侍の筋力に、ヘルマシーン乃海は生身の方の目を見開いた。
重い! とんでもなく重い!
深く根を張った巨木のような──どころではない! 超合金の杭が地中何十kmにも渡り埋まっているかのような安定感!
一メートルも低い生身の身体ごときに、なぜこのような重量感が……と訝る間もなく、パワーと重量においてそこらの重機など凌駕する超合金サイボーグボディが、みるみるうちにズリズリと押し出されていく!
「なんぞこれギガッ!?」
「ヘルマシーン乃海よ──お前の身体はすごい」
全身の筋肉を怒張させた超能侍は、肉体の物質的な重量感を更に越える気迫の重みを言葉に込めて吐き出した。
「お前の太さは巨木! 重さは巨岩! 力は巨ヒグマ! だがッ! 俺はこの十二年間山奥で! 巨木など飽きるほど折り! 巨岩など飽きるほど転がし! 巨ヒグマなど飽きるほど投げ飛ばしてきたのだッ!」
「しッ──自然破壊ガガッ!」
「機械が言うなァァーッッ!」
超能侍が更に気迫を高めると、押し戻されるヘルマシーン乃海に加速が付き、土俵中央からの約十五メートルを滑り、土煙をけたて、一気に土俵際まで運ばれた!
「んガガッ──ピーガガガッッ!?」
俵に足をかけ、かろうじて耐えるヘルマシーン乃海は、押し出されないため踏ん張ることに精一杯で他の動作に移れない! そして、このままの体勢で力比べを続けては──いずれ負けるのはヘルマシーン乃海! その場にいた誰もがそう確信させられた!
なんというパワー! これが! これこそが! 十二年に及ぶ修行の成果なのだ!
が──
「のこったのこったァァ! のこったのこったァァ!」
あっという間に土俵際まで移動した超能侍の背中に、左手に軍配を持った殺意之助が走って追い付いた──
その瞬間であった!
「ぐはァァァッ!?」
突如目を見開き、のけぞった超能侍の背中に──
殺意之助が右手で構えた脇差が、深々と突き刺さっていた!
相撲の行事が腰に差す脇差は、“誤審があれば腹を切る”──それほどの覚悟を持って公正なジャッジを務める──という意志を示すものだといわれている。
だが! 暗黒デス相撲の暗黒デス行司が持つ暗黒デス脇差とは!
賄賂を差し出した者をエコヒイキするためのものなのだ!
「ヒャハハァッ! ご立派な修行に励んできたようだがァ──」
長年に及ぶ超能侍の修行の日々を、殺意之助が満面の嘲笑で踏みにじった。
「山奥じゃ卑怯者相手の特訓はできなかったようだなァァーァァッ!」
「なん……じゃと……」
「超能侍……さんッ!?」
「ウォォォォォォ──!」「いいぞ殺せェェェ──!」
嘲笑とともに脇差が引き抜かれ、パパッと血しぶきが飛ぶ様子が空中スクリーンに映し出されると、驚愕と絶望に凍りつく和厳親方と龍角の二人を、満場の大歓声が打ちすえた。
「妨害グッジョブ! ナイス卑怯ギガ!」
片手で殺意之助にメカ親指を立てつつ、ヘルマシーン乃海はもう片方の腕で、大ダメージを負い力の抜けた超能侍の胴をグワシと掴み、高々と掲げた。
「おの……れ………暗黒……デス相撲……ッッ……」
それでもなお眼に闘志を灯らせた超能侍を、ヘルマシーン乃海のサイボーグボディが蹂躙した……ッ!
「ジェットパイル張り手ッ!」
ズドムゥンッッ!
「ごぼァッッッ!」
ヘルマシーン乃海の巨木のような腕に収納されている、丸太のように太い超合金の杭が、掌から高速で打ち出され、新幹線が衝突したかのような衝撃を腹部に受けた超能侍は空中高く吹き飛んだ!
常人ならば十分に致命的な絶大ダメージ! だがそれだけでは終わらない!
ジャコン! 掌から長く伸びた杭が再び勢いよく腕の中に戻ると、次いで腕の装甲がガパッ! と割れ開き、ジャキィンッ! と機関砲がせり出した!
「ヘルマシーン・マシンガンッ! ガガガーッ!」
「ぐォわアァァァーッ!」
ギャガガガガガッ──けたたましい発砲音が響きわたり、照準はなすすべもなく宙に漂う超能侍を正確に捉え、非情な弾丸の雨が全身を舐め尽くした!
銃弾に吹き飛ばされたズタボロの超能侍が、土俵から何十メートルも離れた地点にドチャリと叩き付けられると、身体中から溢れた血が闘技場の土を濡らした──!
「決ッッッ! 着ゥゥゥゥーゥゥゥゥッッッ! ただ今の決まり手ェェェーェェェッッッ! あびせマシンガンッッッ! あびせマシンガンでェェェ────ヘルマシーン乃海ッッッ! 勝ッッッ利ィィィーィィィッッッ!」
自らも手を下しておきながら白々しくも殺意之助が叫ぶと、空中スクリーンに筆文字フォントで「あびせマシンガン」「勝者ヘルマシーン乃海」と表示され、凄惨な流血劇に酔いしれる観衆達の大歓声が広大なドーム一杯に響いた──!