3人の狼~追憶の日々①~
「銀~起きた~?」
「ん~、今朝?」
「もう、とっくにお昼前だよ!」
太陽が中天へと差し掛かる、喉かな時間。
木々が点々と生える草原で、2つの影が戯れていた。
片方は、白銀に煌く毛を持つ狼。
もう片方は、黄金に輝く毛を持つ狼。
2人は、まるで何時ものことのように、互いの身体へと突進した。
その美しい毛が少し散ることも気にせずに、笑いながら転げまわった。
「はははっ!銀はやっぱり寝起きは不機嫌なんだ~?」
「うるさいなぁ~!!何時も僕の邪魔はしないで、って言ってるでしょうが!!」
少女の声に、少年は反発するように吼えた。
「はははっ!なら、私を捕まえてみなよ~?」
「このッ!!」
それでも尚、からかってくる金の狼に、銀の狼はグルゥ!と鳴いて飛び掛かった。
それを、金の狼は楽しそうに尻尾を振りながら回避する。
獲物を失った銀の狼は、そのまま前に出した足で地面へと着地して、素早く身体を後ろに向ける。
視界には、背中を向けて走り抜けていく金の狼の姿が。
「待て~!!」
「嫌だ~!」
互いに反発し合うように吼え、そして鬼ごっこが始まる。
小さな木の回りをクルクルと回り、草原を一直線に駆け抜けていく。
太陽の光が2人の顔を照らし、それは酷く羨ましいくらいに、綺麗だった。
2人が体力の限界となって草原に転がると、風がその肌を撫でる。
「ふああぁぁぁ!やっぱり風って最高ね!」
「うん!気持ち良いもんね」
2人は、先程の言い合いが嘘のように無邪気な笑みを浮かべたまま笑いあっていた。
そこへ、1つの影が落ちる。
「うわああぁぁぁっ!?」
「え、ちょっとー!?」
物理的に、空から降ってきた影に対して、銀の狼は驚いたように飛び退る。
銀の狼が寝転がっていた場所には、新たな乱入者が寝転がっていた。
大きく地面が抉れ、煙が巻き上がるが、その身体には傷の1つも無い。
現れたその存在に、2人は溜息を吐いて近付いた。
そして、顔を見て一言。
「貴方。また失敗したの?」
「危ないよ無!」
「痛てて・・・・悪かったって」
無、と呼ばれた狼は、そう言いながら起き上がった。
そして、煙によって金の色が少し汚れた少女を見て、笑う。
「はははっはっ!!どうしたんだよソレっ!!!」
その笑い声は、草原に掻き消えるように霧散していく。
が、即座に銀の狼は察知した。
そして、静かに、しかし明確に金の狼から距離を取るように後ろへと下がった。
――が。
「ねぇ銀?貴方は私の友達なんだから、手伝ってくれるわよね?」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・」
金の狼の、稀に見せる凄まじく怖い笑顔が、銀の狼の前にはあった。
よく見れば、金の狼の尻尾が銀の狼の背中へと回り、逃がさないとでも示すように揺れている。
逃げ道が無く、そして金の狼に勝てる訳でも無い銀の狼に取れる行動は1つ。
「て、手伝わせて頂きます・・・・・・・・・・・・・」
「宜しい♪」
銀の狼の返答に満足したように金の狼は頷いた。
その顔が嬉しそうに笑みを浮かべているのに、銀の狼は気付かない。
そんな2人を見て、若干機嫌を悪くする無の狼。
「俺を置いて何2人でイチャつオワァッ!?」
ぼやくように2人へ呟く無の狼。
しかしその言葉の途中で、彼の目前へと鋭利なナニかが振り下ろされた。
咄嗟に後ろへと跳躍して回避した無の狼は、振り下ろされたソレを見た。
「って氷獄山刺は無いだろぉうッ!?」
「五月蝿い!」
さらに無の狼目掛けて、数十の氷が降り注いだ。
その威力を表すのに的確な言葉がある。
空が割れる。
事実として、金の狼が放った氷の刃が、雲を断ち、亀裂を生んだことがある。
それを知る無の狼は、恐怖でいったら無知の比ではないだろう。
銀の狼は、回避に専念する無の狼へと苦笑を向けた。
そこへ、悪魔の言葉が降り注ぐ。
「ほら、貴方も使いなさいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・不知火・焔銃伝華」
その笑みで言われると逃げ道は無い。
銀の狼は、そう呟いてから、内心で無の狼へと誤った。
その直後、人が豆粒ほどに見える大きさの炎の球体が現れる。
それが、次第に小さく、そして広範囲へと広がっていく。
その光景を、無の狼は震えながら見ていた。
やがて、その小さな炎が視界一杯に広がった頃。
そのうちの1つが爆発した。
そこから始まるのは、誘爆に次ぐ誘爆が巻き起こり、爆音と煙が視界を埋め尽くす。
辺り一面からそんな騒動が発生するのを、銀の狼は苦笑しながら見ていた。
隣に居る金の狼は、随分と満足したような笑みを浮かべているが。
そんなこんなで、今日も1日が始まっていった。
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これは、古の時代に生きた3人の狼。
その別れを綴った物語。
結局、後世へと名を残すのは銀と金の狼のみであり、無の狼は歴史の中に埋もれていった。
しかし、忘れてはならない。
この物語で、最も灰に塗れ、最も悪に走り、最も英雄であったのは、間違いなく無の狼だと。
まだ、生命がこの世界で活動を活発にする、その少し前に紡がれた、小さな物語。
1人の少年と少女、そして、もう1人の少年によって巻き起こった、名も無い戦い。
けれどそれは、世界を変えていた。




