太陽の届かない心
この話が投稿されている頃には、この話を読んでくださる読者が増えることを祈るなかりです。
さて、今回ミュアの発言で「婚約者」という表現があり、それについて補足を。
この場合の婚約者は、「結婚の約束された者」という意味であり、まだ「結婚」していません。
ネタバレになってしまいますが、結婚のプロポーズは、この章の何処かで行おうと思っています。
また、3人の居なかった間の世界。3人の追憶編。そして、忘れられているリリナについても、今後触れていこうと思います。
ただ、前者の2つは進行的に「サイドストーリー」に掲載されると思いますので、ご注意を。
気絶している男性に止めをさして、俺達は屋敷の中へと踏み込んだ。
「時間は・・・・・・・・10分くらいかな」
「そうね。少し急ぎましょうか?」
俺が時間を計算すると、それに対してカレンはそう提案した。
そうしたほうが、実際良いだろう。
俺は頷くことで肯定して、廊下へと目を向けた。
今までは、土を固められただけの家が多かったが、この家は木材によって造られている。
廊下も、木で出来た廊下になっており、それだけ裕福だと示している。
(この屋敷の部屋が、恐らく17、それ全部を探してる時間は無いかな・・・・・・・)
家の大きさから、大体の部屋数を割り出して、俺はそう結論付けた。
「やっぱり、分かれる必要があるみたいだね。どうする?」
俺がそうカレン達に告げると、意外にもすぐに決まった。
「そうですね。なら、私とカレンさん、リュウとイリエさんのグループで探しましょう。幸いにも、敵はいないようですし」
「それで良いの?」
そう尋ねると、二人は頷き、イリエも肯定した。
「了解。それなら、俺達は東側を探索するから、ミュア達は西側を頼む」
「はい」
「分かったわ」
2人の返事を聞いて、俺達は二手に分かれた。
まずは、東側の1階からの探索だ。
西側へと向かったカレンとミュアは、手前の部屋から順に探索していた。
「・・・・・・・・・・・良かったんですか?」
不意に、ミュアはカレンにそう尋ねた。
何が――とはカレンも尋ねない。
聞かなくても、恐らくリュウと分かれたことだろう、ということはすぐに分かるからだ。
しかし、カレンは少し考えるように視線を虚空へと向けた。
そして、独り言のように、答える。
「そうね・・・・・・・・・私は、この500年以上で、何を得たのかな」
それは、答えとは大きく掛け離れていて。
だからこそ、ミュアには答える資格なんて無かった。
それを知ってか、それとも呟いているのに気付いていないのか。
カレンは、その瞳を何処か遠い場所へと向けた。
――ミュアには、それがどうしても不思議だった。
あれ程、カレンはリュウへと好意を向け、それを返されていた。
幸せだと思っていたし、事実カレンも幸せだと答えていた。
なら―――その答えは、カレンが告げた。
「私は、あまりにも弱いと分かったわ」
違う―――そんな言葉は、ミュアには言えなかった。
それは、正しくミュア自身も感じていたことだからだ。
此処が、限界なのだと。
カレンは、黙るミュアへと被せるように、言葉を繋いだ。
「私は、確かに数百年努力したかもしれないわ・・・・・・でも、それで得られた力は、あまりにも少ない」
実際、カレンが会得出来た技術は、その努力には決して届かないものだった。
レベルが限界に達するのは当然であり、そしてその上で、新しい何かを覚えられるだけの時間があった。
そして―――
「リュウにも、一生懸命鍛錬してもらった。リュウの練習時間を削って」
何よりも大事だったのは、それだ。
カレンは、リュウが自分のために努力してくれているのに、結果を出せなかった自分を悔やんでいる。
一体、自分は何をしたのだろうか、と。
そんなカレンを見て、ミュアも大体のことを把握していた。
その上で、投げかけられる言葉は―――無かった。
何故ならば
「私は、この数百年で多くを学びました」
ミュアは、静かにそう切り出した。
カレンは、ミュアの声に耳を傾け、そして一方で遠ざけていた。
そんなカレンへ、ミュアは言葉を繋ぐ。
「力を得ました。心を知りました。友達が出来ました。婚約者も出来ました。知識も増えました」
それは、カレンが、必死に望み、そして手に入らなかったもの。
でも、ミュアは告げる。
「私は、何も知りませんでした。だから、多くを得ることが出来ました。でも、カレンさんは、多くを知っていました」
言葉は、まるでカレンの頭へと滑り込むように流れてきた。
そして、紡がれる。
「カレンさんが望むものは、元からあったんじゃないですか?カレンさんが手に入れられなかったと悔やむソレは、もう手の中にあるんじゃないですか?」
これは、完全に自己満足で、お節介だと知りながらも、ミュアは止めなかった。
いずれ、いや、心の奥でカレン自身が気付いていた結果だからだろう。
恐らく、ミュアに指摘されたところで、あまり効果は無い。
そうミュアは思った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かってるわよ」
小さく、ぽつりとカレンはそう零した。
その言葉に含まれる感情は、怒りか、悲しみか、悔しさか。
顔を上げたカレンを見て、ミュアは一瞬、思考を失った。
「・・・それでも・・・・・・・・・それでも!!私は、何かを得たかった!!何かを増やしたかった!!」
そこに浮かんでいたのは、空しさ。
分かっているのだ。カレンだって。
もう、限界で、修行する前からほとんどが完成されていたのだ、と。
これ以上手札を増やせば、結果的な自滅にもなりかねない。
多過ぎる選択肢に、死の場面で悩むことはあってはならないからだ。
そう分かっているのは、何よりもカレン。
その感情を今まで押し堪えていたのは、一体なんなのか。
大きく、感情を吐き出すように告げたカレンは、次第にその瞳に雫を浮かべた。
そして、前で佇むミュアの胸へと飛び込むように抱きついた。
それを、ミュアは優しく受け止める。
子供のような我侭だ。
無理な力を望むべきではない。
それでも、ミュアはカレンの言葉に動かされていた。
(後で、リュウに相談します・・・・・・・)
心の何処かで、カレンへとそう告げて、ミュアは優しく微笑んだ。
そして、自身の胸の中で嗚咽を漏らす友達の頭を、愛しむように撫でた。
ああ、きっと。
カレンがこんな感情を漏らしたのも、それは全て、此処に来たからだろう。
太陽の光が届かないこの場所は、空気の濁ったこの空間は―――
―――驚く程美しく、脆い花には耐えられないようだ。
(なるべく、リュウには頑張ってもらいましょう)
ちょっとだけ悪戯を思いついたように笑って、ミュアはそう考えた。
次回から、2日更新を4日更新へと引き伸ばします。
楽しみにしてくださる読者の方には申し訳ありませんが、ご了承ください。
それでは、今後もこの物語を、楽しんで頂ければ、幸いです。




