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world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
新時代
92/101

太陽の届かない心

この話が投稿されている頃には、この話を読んでくださる読者が増えることを祈るなかりです。

さて、今回ミュアの発言で「婚約者」という表現があり、それについて補足を。

この場合の婚約者は、「結婚の約束された者」という意味であり、まだ「結婚」していません。

ネタバレになってしまいますが、結婚のプロポーズは、この章の何処かで行おうと思っています。


また、3人の居なかった間の世界。3人の追憶編。そして、忘れられているリリナについても、今後触れていこうと思います。

ただ、前者の2つは進行的に「サイドストーリー」に掲載されると思いますので、ご注意を。





気絶している男性に止めをさして、俺達は屋敷の中へと踏み込んだ。



「時間は・・・・・・・・10分くらいかな」


「そうね。少し急ぎましょうか?」



俺が時間を計算すると、それに対してカレンはそう提案した。

そうしたほうが、実際良いだろう。

俺は頷くことで肯定して、廊下へと目を向けた。


今までは、土を固められただけの家が多かったが、この家は木材によって造られている。

廊下も、木で出来た廊下になっており、それだけ裕福だと示している。



(この屋敷の部屋が、恐らく17、それ全部を探してる時間は無いかな・・・・・・・)



家の大きさから、大体の部屋数を割り出して、俺はそう結論付けた。



「やっぱり、分かれる必要があるみたいだね。どうする?」



俺がそうカレン達に告げると、意外にもすぐに決まった。



「そうですね。なら、私とカレンさん、リュウとイリエさんのグループで探しましょう。幸いにも、敵はいないようですし」


「それで良いの?」



そう尋ねると、二人は頷き、イリエも肯定した。



「了解。それなら、俺達は東側を探索するから、ミュア達は西側を頼む」


「はい」


「分かったわ」



2人の返事を聞いて、俺達は二手に分かれた。

まずは、東側の1階からの探索だ。












西側へと向かったカレンとミュアは、手前の部屋から順に探索していた。



「・・・・・・・・・・・良かったんですか?」



不意に、ミュアはカレンにそう尋ねた。

何が――とはカレンも尋ねない。

聞かなくても、恐らくリュウと分かれたことだろう、ということはすぐに分かるからだ。


しかし、カレンは少し考えるように視線を虚空へと向けた。

そして、独り言のように、答える。



「そうね・・・・・・・・・私は、この500年以上で、何を得たのかな」



それは、答えとは大きく掛け離れていて。

だからこそ、ミュアには答える資格なんて無かった。

それを知ってか、それとも呟いているのに気付いていないのか。


カレンは、その瞳を何処か遠い場所へと向けた。



――ミュアには、それがどうしても不思議だった。



あれ程、カレンはリュウへと好意を向け、それを返されていた。

幸せだと思っていたし、事実カレンも幸せだと答えていた。


なら―――その答えは、カレンが告げた。



「私は、あまりにも弱いと分かったわ」



違う―――そんな言葉は、ミュアには言えなかった。

それは、正しくミュア自身も感じていたことだからだ。

此処が、限界なのだと。


カレンは、黙るミュアへと被せるように、言葉を繋いだ。



「私は、確かに数百年努力したかもしれないわ・・・・・・でも、それで得られた力は、あまりにも少ない」



実際、カレンが会得出来た技術は、その努力には決して届かないものだった。

レベルが限界に達するのは当然であり、そしてその上で、新しい何かを覚えられるだけの時間があった。



そして―――



「リュウにも、一生懸命鍛錬してもらった。リュウの練習時間を削って」



何よりも大事だったのは、それだ。


カレンは、リュウが自分のために努力してくれているのに、結果を出せなかった自分を悔やんでいる。

一体、自分は何をしたのだろうか、と。


そんなカレンを見て、ミュアも大体のことを把握していた。

その上で、投げかけられる言葉は―――無かった。


何故ならば



「私は、この数百年で多くを学びました」



ミュアは、静かにそう切り出した。

カレンは、ミュアの声に耳を傾け、そして一方で遠ざけていた。

そんなカレンへ、ミュアは言葉を繋ぐ。



「力を得ました。心を知りました。友達が出来ました。婚約者も出来ました。知識も増えました」



それは、カレンが、必死に望み、そして手に入らなかったもの。

でも、ミュアは告げる。



「私は、何も知りませんでした。だから、多くを得ることが出来ました。でも、カレンさんは、多くを知っていました」



言葉は、まるでカレンの頭へと滑り込むように流れてきた。

そして、紡がれる。



「カレンさんが望むものは、元からあったんじゃないですか?カレンさんが手に入れられなかったと悔やむソレは、もう手の中にあるんじゃないですか?」



これは、完全に自己満足で、お節介だと知りながらも、ミュアは止めなかった。

いずれ、いや、心の奥でカレン自身が気付いていた結果だからだろう。

恐らく、ミュアに指摘されたところで、あまり効果は無い。


そうミュアは思った。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かってるわよ」



小さく、ぽつりとカレンはそう零した。

その言葉に含まれる感情は、怒りか、悲しみか、悔しさか。

顔を上げたカレンを見て、ミュアは一瞬、思考を失った。



「・・・それでも・・・・・・・・・それでも!!私は、何かを得たかった!!何かを増やしたかった!!」



そこに浮かんでいたのは、空しさ。

分かっているのだ。カレンだって。

もう、限界で、修行する前からほとんどが完成されていたのだ、と。


これ以上手札を増やせば、結果的な自滅にもなりかねない。

多過ぎる選択肢に、死の場面で悩むことはあってはならないからだ。


そう分かっているのは、何よりもカレン。


その感情を今まで押し堪えていたのは、一体なんなのか。

大きく、感情を吐き出すように告げたカレンは、次第にその瞳に雫を浮かべた。


そして、前で佇むミュアの胸へと飛び込むように抱きついた。

それを、ミュアは優しく受け止める。



子供のような我侭だ。

無理な力を望むべきではない。


それでも、ミュアはカレンの言葉に動かされていた。



(後で、リュウに相談します・・・・・・・)



心の何処かで、カレンへとそう告げて、ミュアは優しく微笑んだ。

そして、自身の胸の中で嗚咽を漏らす友達の頭を、愛しむように撫でた。




ああ、きっと。

カレンがこんな感情を漏らしたのも、それは全て、此処に来たからだろう。

太陽の光が届かないこの場所は、空気の濁ったこの空間は―――





―――驚く程美しく、脆い花には耐えられないようだ。



(なるべく、リュウには頑張ってもらいましょう)



ちょっとだけ悪戯を思いついたように笑って、ミュアはそう考えた。

次回から、2日更新を4日更新へと引き伸ばします。

楽しみにしてくださる読者の方には申し訳ありませんが、ご了承ください。


それでは、今後もこの物語を、楽しんで頂ければ、幸いです。

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