表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
新時代
90/101

魔族の中でも上級




「お前は、何者だ?」



赤と黒のエネルギーを身体中から溢れさせ、黄色の球体を2つ浮遊させた俺に、魔族はそう呟いた。

会ってから10分ほど経つが、初めて喋った。

その事に、少しだけ驚きながら、俺は答えた。



「・・・・・・・古の伝承」



ぽつりと、俺はそう呟いた。

それに対して、魔族の男は答えなかった。

それだけで、充分だ、と。雰囲気が物語っていた。



「貴方は、自称上級魔族とは違いますね」



勿論、貶している訳では無い。

先程会った、すぐに死んでしまった魔族よりも、数倍この魔族の方が賢い。



(ただ・・・・・・)



1つだけ、愚かな部分があった。

それは――



「貴方なら、撤退する事も出来たでしょうに」



この姿に俺が成る前に、この男なら逃げれただろう。

魔術に対しての知識が無い俺と、直接的な戦闘力の高くないカレンでは追いかけることが出来ない。

ミュアに至っては、俺から離れるだけで危険が付き纏う。


なのに、逃げなかった。


答えるつもりは無いのか、魔族の男は黙ったままだった。

だが、明確な答えは行動で返ってきた。



タンッ!



そんな、軽快な音とともに俺の背後から殺気が襲いかかった。

まるで、元から其処に居たかのように、鋭く、明確な”死”という存在が迫ってくる。



(何時の間に・・・・・・・・・!!)



そう内心で叫びながら、俺は意識を迫ってくる脅威へと集中させた。

先程までとは違って、分かるのは明確なまでの死。

何が近付いて、何が起きているのかを確認するには時間が足りない。


使うのは、簡単でいて、最高の危険を纏った諸刃の剣。



(”龍技・反撃(カウンター)”)



命の危険が、完璧に消え去った時のみにこの技は威力を発揮する。

これはもう、賭けだ。


俺は、身体を右に傾けながら、右足を軸に、左足を回して、振り向く――



(当たったッ!!)



視界が開けると、魔族の男が見えた。

その手に握られた短剣は、俺の左胸目掛けて振り下ろされていた。

つまり、俺は反撃を成功させたということ。



「ハアァッ!!!」



気合いを込めた息を漏らしながら、俺は地面に着く寸前だった左足に力を込めて、前へと跳躍する。

反撃の効果によって、俺の動きがさらに加速する。


突き出した右手が、魔族の左胸を正確に貫通する―――










―――寸前で、魔族の身体が掻き消えた。



『甘いのう?』


(!!!)



そんな声が、俺の背後から聞こえた。

意識をそちらへと傾けると、そこには魔族の男がいる。

その手に握られた短剣は、先程と変わらずに俺の左胸へと振り下ろされようとしている。



(転移・・・・・・・・?いや、違う!!)



これは――



(”龍技・受身((分身)”!!)


「2人目か!!」



俺がそう叫ぶと同時に、背後から強烈な熱を感じた。

振り向くと、そこには溶岩のような液体、それが小さく凝縮されて浮遊している。

先程の魔族は――と探せば、カレンの方角から感じられる。



(不味い・・・・・・・・!!出し惜しみは無理だな)


「”龍技・咆哮”」



これは、正確な読み方が無い。

なにせ、この技は発動する際には咆えているからだ。



『ガアアアアアアッ!!』



耳を劈くような轟音が大気を振動させ、魔族の動きを止める。

振動によって霧散した球体の奥に、新たな魔族が佇んでいた。



(”龍技・翔爪(ドラゴン・クロー)”)



意識を両手へと傾けると、両手が瞬時に変化していく。

人の手から、龍の手へと。


勿論、巨大になる訳ではなく、龍の鱗が手を覆う感覚だ。

ただ、爪先には龍と同等に硬質な爪が生まれる。



「ハアアァァァァ!!!!」



裂帛の声とともに、俺は地を蹴った。

登場して早々だが、この魔族には退場してもらいたい。



『ほう。お主のような小僧がいるとはな。だが、わしは倒せんよ』



魔族の、老人だろうその人物は、俺を見てそう呟いた。

決して大きくない声が、俺に届くのはやはりそういう能力があるのだろう。



『”倒帝七武山”!!!』



そう、老人が叫ぶと同時に、気温が上昇した。

地が熱され、焼けるように熱い。


地面が、赤く、そして物凄い速度で盛り上がっていく。



(噴火か・・・・・!!)



恐らく、この老人が起こそうとしている現象は、擬似的な噴火だろう。

今にも溶岩の流れ出しそうな地面を一瞬だけ見、俺は走り続けた。



「”十字架”!!!」



そう叫ぶのと、地面が暴発するのは同時だった。

俺が叫んだ起句により、俺の身体は大きく前方へと弾き飛ばされるように加速し――



「フゥッ!!!」



腕の前でクロスした爪を、十字の形で切り開く。


背後で、物凄い衝撃が鳴った。

それと同時に、空気が振動し、俺はその勢いで吹き飛ばされる。


目前に迫った老人の、その横を爪で掠りながら通り過ぎ、着地した。

瞬時に背後を振り返ると、老人は煙に飲まれ、向こう側のカレン達はすでに見えない。

思わず、叱咤しかくなるのを我慢して、俺は煙の中を凝視した。



(”龍眼(ドラゴン・アイ)”)



居た!!

そう内心で呟くと同時に、俺は駆けだしていた。

恐らく、この煙の中でも魔族は見えるのだろう。


先程から、正確に溶岩を回避しながら進んでいるのが見える。

それに対して、カレンとミュアは視界の確保が未だに出来ていない状況だ。

さぞかし、魔族には美味しい獲物に見えるだろう。



(速く、速く――――!!!)



暗示をするように唱えながら、俺は疾駆する。



以前の時代での上級魔族。

それは、本当に厄介な者が多かった。

様々な能力は、個体個体に違う特殊能力があったりなど、一筋縄ではいかないのだ。


しかも、それぞれの力量は高く、常にハイリスクな戦いをさせられていた。

それだけ、魔族という種族が優れている証拠だろう。


大技を発動させたとしても、裏を掻いてくる魔族も少なくなかった。

そんな例からも分かるように、この2人は確実に以前での上級魔族だろう。


魔族に、寿命という概念は存在しない。

その身体の構造全てが、魔力で形成されているからだ。

この時代の上級魔族とは比較にもならない程、危険な戦いにされている。


現に今も、俺は失敗して窮地に追い込まれているだろう。

魔族との戦いに、確信は決して無い。

勝ったと思った瞬間が、負ける瞬間だといわれても納得してしまうだろう。


まさに、今戦っている魔族は、上級という称号を持つに相応しい。



「ハァッ!!!」



俺は、そう評価しながら煙の中、龍爪を突き出した。

その先端が、老人の魔族の心臓を、正確に貫いていく―――



戦いは、まだ終わらなそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ