プロローグ
※他人称視点
_______________________________
2000年。
私達人間は、700年ほど前から、地下世界と呼ばれるジ・アースで生活している。
歴史を振り返ると、その分岐点はおよそ1000年ほど前からだと分かる。
1000年前頃は、人々は魔物を討伐し、魔族と戦いながら生きていたという。
今から見れば、魔物と戦える人間なんて生活区分・最上級に位置する人、さらにその中でも極一部の人が雇えるくらいだ。
私達は、何時襲ってくるかも分からない魔物に、抵抗する手段すら持っていない。
1000年前は、魔物への戦いは、冒険者と呼ばれる人ならばほとんどの人が下位魔物、今では全てが災害指定だけれど、の魔物を倒すことが出来たらしい。
そうやって生活する中、その数年後に、稀代の少年が居たらしい。
名前はリュウ。登録して数日程度で冒険者の中でも角上な金級に成った人らしい。
そうやって、新しく、そして強い人が現れていく時代だった。
けど、それも続かなかった。
1270年かな。今から730年ほど前に、魔族達は魔物を束ねて人間へと総攻撃を始めた。
その時、人々が期待していたリュウという少年。
そして、その近しい人の数人が居なくなった。
人々は、彼等を責めなかった。
私だったら絶対に、全てをぶちまけるくらいに怒ると思う。
けど、人々は彼等をまったく恨まなかった。
その理由は、年月とともに忘れ去られたけど、私は知っている。
何故なら、本で読んだから。
今の時代、本を買うことすら一生掛かって出来るかどうかだけど、私の家は違った。
魔族達からの総攻撃を受けてから、降伏した家はその早さによって区別されている。
勿論、降伏しなかった人々は死んだ。
総攻撃が始まってから数日以内に降伏した家が200、それで<貴族>と呼ばれている。
次が、幾つかの都市が滅ぼされてから降伏した家。
その数が1200、上流階級と呼ばれている。
その下に、中級階級、下位階級、奴隷階級と続いているの。
その中でも、私の家は貴族に分類されている。
最も信頼していたリュウという少年が、去る寸前に祖先に何かを告げていったらしい。
その言葉に従い、私の家はすぐに降伏し、そのお陰で今も不自由は無い。
魔族には頭が上がらないが、魔族の中の階級で最も下の魔族よりは上だ。
だから、私の家は末端の魔族よりも権力が高い。
その事実が、私達の心に余裕を与えてくれている。
街を歩くと、様々な階級の人が見れる。
奴隷として這い蹲る奴隷階級。それを見て恐怖しながら密かに生きる下位階級。
不安で一杯の中級階級。
そして、上流と貴族の2つは余裕がかなりある。
だから、街並みを歩けば誰がどの階級に居るのかが大体―――
「きゃっ!」
「あ?」
そうやって思案していると、前を見ていなかった所為か誰かとぶつかった。
思わず声が出て、後ろに倒れそうになるのを必死に我慢して、顔を上げる。
サッ、と顔から血の気が引くのを感じた。
気付けば、周りにいる人々も、恐れるように非難している。
それもそうだろう。
何故なら、私がぶつかったのは――
「オいテメェ。俺ガ誰だカ知っテてやってルのカ?」
酷く、言葉を理解するのが大変で、私には片言で聞こえた。
――魔族階級で、上位に君臨する上級魔族。
「俺は魔族の中で上から2番目に位置するんだぞ?」
今度は、それがしっかりと耳に流れ込んできて。
「俺にぶつかったんだ。死刑なのは確定だぜ?」
私は死を宣告された。
馬鹿、馬鹿!!
今から後悔しても意味無いことだけれど、それでも自分を叱咤する。
嬲るのが趣味なこの魔族、グレイは口角を吊り上げる。
それと同時に右の腕も上がって――
「や、やめ・・・・・・・」
「ヒッヒィッ!!愉しませてくれよォ!!」
――その手が、私には視認出来ない速度で振り下ろされた。
分かったのは、その手があった位置から腕が消えていること。
次の瞬間。
私の意識は薄れるように身体が―――
ドオオォォォン!!!
―――激しい音が、私の耳を千切るように近くから聞こえた。
頭の中がビリビリと痛む。
けど、何故か安心するような影に守られているような気がして。
私は、顔を上に上げた。
――見えたのは、私よりも少し背の高い少年の背中だった。
「おっと、ごめんなさい。まさかこんなに弱いとは思わなかった」
「なッ!!」
何よりも驚きだったのは、その少年の手が、グレイの手をしっかりと止めていることで。
私は、思わずそれが夢だと思って、そして否定した。
・・・・・・・・・こんなにも、胸が高揚するのは何故だろうか。
まるで、私の中の何かがこの人を知っているように。
上級魔族の攻撃は、人々が誰一人として見れた者はいない。
それは単に、攻撃速度が速過ぎるからだ。
けれど、この少年はそれを止めてみせた。
「何者だ!!」
「さぁ?俺も・・・・・・・・・・・・・・・・・・て変わったからね。試さないと」
途中の言葉は聞こえなかった。
けれど、それを思い出そうとする前に、さらなる驚愕が身を包んだ。
ダァンッ!!!!!
そんな激しい音とともに、私の前から2人が消えた。
その音の衝撃に驚いて振り返ると、後ろには先程と同じ形で止まる2人の姿が。
どういうこと・・・・・・・・・・・?
理解することが出来ないのは私だけじゃなかったようで。
けれど、上級魔族は一気に警戒を高めて、告げた。
「お前に、俺の本気を見せてやる。人間にもこんな強者が居るとは予想外だ」




