繋話~再誕~
戦いは、最大にして最短で終わった。
斜めの構えで突撃した俺に対して、少女は先程の剣を握って迎えうった。
俺と少女が激突するのに、1秒すら掛からず。
そして、剣と刀がそれぞれ振り切られるまでに1秒も掛からなかった。
ラ――――
ファンファーレのように爽快で、それでいて激しい音を纏った俺の刀。
対する少女の剣は、どす黒い紅の瘴気を纏っていた。
少女の剣と、俺の刀が衝突した瞬間―――爆風が巻き上がった。
砂埃が巻き上がり、中規模の竜巻が外側へと駆け抜ける。
俺の刀と衝突した剣は、その中腹から2つに分かれ、空中を彷徨っている。
そして、俺の刀は。
「ケホッ」
赤黒い、ドロっとした液体が、少女の口から零れ落ちた。
汚い――そんな言葉は、微塵も言う気は無かった。
右半身を切り裂かれた少女。
しかし、それでも尚その瞳に戦意は残っていた。
恐らく、心の奥にあった自我はもう残っていないのだろう。
――その瞳は、静かに、ゆっくりと垂れていった。
『逝くな』
だから、俺はしっかりとそう告げた。
それを世界が認識し、言霊となって魔法を発動させる。
少女の身体は光に包まれ、今この瞬間に消えかけていた憎しみの輝きが灯る。
しかし、それと同じ様に戸惑いの感情も芽生えていた。
そんな少女に、俺は告げた。
『君が支えてきた始祖天竜を、君がいなくなったら誰が支えるっていうの?確かに、始祖天竜は死んだ。でも、それはこの世界ではただの”肉体の死”だ。俺が生き返らせる。だから、君ももう一度歩むんだ』
その言葉に、少女は殺意を霧散させて反応した。
憎しみと戸惑い、そして僅かな期待の混じった表情だ。
俺は、さらに告げる。
きっと、これは俺の仕事だから。
『俺の事を殺したいと思って良い。憎んで良い。でもね、この世界を恨むことだけはしちゃ駄目だ。それは、始祖天竜が、その一生を賭して成そうとしたことだから』
今度こそ、少女の身体から発せられる敵意も霧散した。
残っているのは、純粋な俺への憎しみと、期待。
そんな少女に苦笑を浮かべて、俺は少女の奥に見える始祖天竜を見た。
激しい戦闘を行った後でも、その身体に傷は1つも付いていなかった。
それは、彼女が守り抜いたことと、始祖天竜の堅牢さと言えるだろう。
そんな始祖天竜の亡骸に手を向けて――
『癒えよ 回帰せよ 我が名は創造神 この名において そなたを始祖天竜として育まん』
そう唱えると、輝かしい煌きが始祖天竜を包んだ。
次の瞬間。
激しい風が始祖天竜の身体を包み、その鱗を切り裂いていく。
その光景に、少女が激しく反応するが、強引にその動きを封じる。
俺へと再度射殺すような瞳を向けてくる少女に、俺は無言で始祖天竜の亡骸を見るように促した。
その頃には、風の刃によって始祖天竜の身体のほとんどが切り裂かれるところだった。
肉片が転がり、血飛沫が噴水のように溢れ出す―――そう少女は予感していたのだろう。
しかし、そんなことは無かった。
切り裂かれた鱗は灰となり、肉は輝きに包まれていく。
血は全てが一箇所へと集合していき、まるで結晶のように小さく固まっていく。
その光景は、酷く幻想的で、時の流れを忘れてしまうようだった。
紅く煌く液体が空中を縦横無尽に流れ、輝きが粒子となって浮遊していく。
そんな、ある意味でファンタジーな光景で、突如眩い光が生まれた。
(来た・・・・・・)
俺は内心でそう小さく呟き、その瞬間を待った。
始祖天竜の亡骸、そのほとんどが消えた灰の中から、輝きが漏れ出している。
まるで、卵が割られる時のように灰に亀裂が入っていき―――
「あっ・・・・・・・・・」
そんな声が、少女の口から零れていた。
灰の中から出した顔は、それは先程まで死に絶えていた始祖天竜そのもの。
灰に被れて少し埃っぽい雰囲気があるが、それでも尚その圧倒さは消え去らない。
新たな始祖天竜。
その再誕を祝福するかのように、森の各地から咆哮が轟く。
竜が、その忠実さを示す動作だと考えられている。
始祖天竜が、その白銀の翼を広げ、一度、羽ばたいた。
(うわ・・・・・・・・・・・)
その瞬間、強烈な風が俺にぶつかり、思わず腕で防ぐ。
始祖天竜は、そのまま何度か翼を動かし、上へ上へと昇っていた。
その姿が、太陽と重なる、その瞬間。
『グルゥワアアアァァァァ!!!!!!!!!!!』
肌を焦がすような強大な咆哮が響いた。
空気が振動して、直に世界が震えて見える。
(これが、始祖竜の咆哮・・・・・・・・・・・)
思っていたよりも、遥かに壮大だ。
太陽に重なり、後ろからの輝きを一身に浴びる始祖天竜を見ながら、俺はそう思った。
◆◇◆◇◆
「失敗か・・・・・・・・」
そう呟き、男はその場から姿を消した。
呟いた言葉は、誰に聞こえるでも無く自然の中へと消え去り、その跡を失くす。
「また、数百年後に、お前は生きていられるか?」
そう言葉を残して、さらに移動を始めた。
告げた言葉が消える頃には、男の姿は何処にも無かった。
残っていたのは、不気味な笑い声だけだ。
「くっくっく・・・・・・・・・!愉しみだなぁ!?」
今日も、世界は狂っている。
次回、この章の最後です。




