Twilight of God⑬~ピクニックは亜竜討伐~
(・・・・・・・っと、これで2時間くらいかな?)
視界に緑が広がり、同時に深い魔力が感じられた。
恐らく、結界が破壊されたのだろう。
物凄い殺意が、俺へと集中して集められた。
(ただ、やっぱり弱くなってる・・・・・・・)
感じられる個々の魔力は先程に比べると遥かに小さく、そして弱い。
切り札も少しだけだが用意出来た。
込み上げるような本能と共に、俺は視線を木々の奥へと向けた。
木と木の間を通り抜けて、さらに、さらにその奥に。
そこに佇む、少女の瞳が交差した。
刹那。
「遅い・・・・・・!!」
俺は、先程立っていた場所の真後ろから、剣を振り下ろしていた。
剣を出す動作と、移動する動作。
合わせても1秒と満たない時間で、俺はそれを遂げた。
と、同時に俺の立っていた場所に現れた異形を、切り裂く。
(まずは、1・・・・・・)
恐らく、結界を張ったことで少女の生み出した異形がこれ以上増えることは無いだろう。
先程確認出来た魔力は、合計で41。
今1体倒したのだから、残りは40だ。
態と見せ付けるように、俺は鋭く木々を見据えて、告げた。
「来い。蹴散らしてやる」
――殺意に身を任せた、総攻撃が始まった。
右後ろから迫った鋭利に尖った細剣の先端に合わせるように左肩を後ろに捻った。
目前を通り過ぎた剣と、そして異形――
――刹那、その身体が切り裂かれた。
引き絞った剣を、異形へと突き刺し、そして横に切り払ったのだ。
だが、休む暇はやはり与えてくれない。
(やっぱり、数には勝てないかな・・・・・・・・)
数瞬の沈黙が降り立ち、そして全方向から命の危険を感じた。
思わず、目を見開いて剣を胸の前に構える。
濃密な殺意が、俺の気配察知を邪魔してくる。
(殺意が、邪魔・・・・・・・)
これぞ、本当の殺意の化身だとすら感じられる。
「邪、魔ッ!!」
横に大きく跳躍しながら、俺は横に剣を振った。
前方に現れた1体の異形を分けさせ、と同時に後方からの奇襲を受ける。
(危なッ!?)
一瞬にして、俺の真後ろから襲いかかった殺意と、そして命の危険――
頭の中に響く極大な警報に従って、俺は空中に身を躍らせた。
足を地面から離し、身体を地面に向ける。
空中で、縦に回転する。
俺の視界一杯に黒く鋭い剣が見える。
背中に薄っすらと汗が垂れるのを体感しながら、俺は回転を続けた。
(せーっの!!)
そのまま、右足、左足の順番で異形の身体を蹴り飛ばしていく。
大きく吹き飛ばされた異形は、そのまま勢いを衰えず、地面で何度かバウンドしながら転がった。
それを気配で感じながら、俺は立ち上がって剣を縦から振る。
バシュッ!!
目前に現れた異形の身体を、切り裂いた。
再び剣を胸の前で構えて、俺は周囲を見渡す。
戦闘中は分からなかった情報が、今は明瞭に見えてきた。
どうやら、俺は異形の攻撃を避けて反撃しながら、森の中へと進んでいたようだ。
そして、前方には大きく警報が鳴らされている。
(罠・・・・・・・?)
そちらへと視線を向けると、明らかに怪しい異形がポツリと佇んでいた。
その姿は今までの虚無を象ったような見た目から、大きく変わっている。
虚無が極限まで減り、そしてその身体は透明になっている。
濃密なまでの殺気が俺に感知出来なければ、気付かない可能性すらある。
だからこそ、俺はそこで立ち止まった。
(どういうことだ・・・・・・・?異形へのリソースは極限まで下げた。なのに、これに使われている魔力は明らかに異常・・・・・・・・)
先程まで相対していた異形に使われている魔力を1とする。
そうすると、この異形に使われている魔力は、およそ30だ。
だが、それを可能とする魔力が異形にある訳も無く、そして俺が何かした訳でもない。
ならば――
「”斬破”」
そう呟き、俺は剣を振るった。
重たいその一撃は、激しい風圧を纏って衝撃と化した。
それが、異形へと当たる。
――瞬間。
異形の姿が掻き消えた。
(なっ・・・・・・・!?)
驚きに目を見開くと同時に、俺は無意識に下へとしゃがんでいた。
いや、本能がしゃがませていた。
ヒュン!!!
異常なまでに発達している俺の耳が、一瞬の金きり音を捉えた。
位置は、俺の真上。
(危ないな・・・・・・・・・)
意識を集中させながら、俺は周囲へと魔力を溶け込ませていく。
(いた!)
そして、捉えた異形の姿に、俺は小さくガッツポーズを作った。
まずは、敵の把握が重要だ。
俺の周りを凄まじい速度で移動する異形を捉えたまま、俺はもう一度気配察知を行った。
そして、理解する。
(なるほど・・・・・罠か)
大きく、薄く、しかし確かに俺を囲うように魔力が練り込まれている。
恐らく、この場所で戦い続けるほど不利になるだろう。
(なら・・・・・!!)
「”刺爆”」
剣を魔力の壁へと突き立てて、俺はそう呟いた。
同時に、魔力が剣へと込められていく。
「”爆”」
その言葉を起句として、剣が輝いた。




