Twilight of God⑫~ピクニックは亜竜討伐~
「神の結界?やっぱり、月の神が関わってるのか」
月の目前に辿り着いた俺は、不可視の壁に激突した。
身体的なダメージはほとんど無いが、やはり魔力の消費が激しい。
人の身で宇宙を移動するのは、膨大な魔力が消費されてしまう。
「急ぐかな・・・・・・・・」
遥か後方に見える星を見て、俺はそう呟いた。
時間は、まだ1時間と40分ほど残っている。
ただ、あまり余裕が無いのも確かだ。
(魔力が無い状態で挑んでも、負け確定だからな・・・・・・・・・・)
『神の権限』
素早く、そう呟いた。
パリン!!
瞬間、ガラスが砕ける音とともに俺の眼には破壊された結界が見えた。
やはり、月の神の仕業のようだ。
壁が無くなった道は、再び俺を動かし始めた。
同時に、俺はまた光に包まれていく。
目指すは、月に。
(待ってなよ・・・・・・?今潰すから)
◆◇◆◇◆
「・・・・・・やた。面白そうな現場発見♪」
少年は、その瞳に映した光景に、自然と笑みを零した。
1人の人間が、月の神が張った結界を破壊する瞬間。
あの人間が、ただの人間では無いことは少年にも理解出来ている。
「それにしても、誰だろう?今行動してるのはミュア先輩だけだった気がするけど・・・・・」
同じく神に属し、先輩でもある女性を思い浮かべながら、少年はそう呟いた。
「それにしても、ミュア先輩って可愛いよなぁ」
そう呟いた瞬間。
少年は凄まじい悪寒を感じた。
まるで、今の発言に激怒したような敵意を肌で感じた。
本能の命令するままに、少年はすぐにその妄想を止めた。
妄想、といってもただ先輩を考えていただけなのだが。
それすらも許されないのならば、少年は詰みだ。
「まったく・・・・・・・ホントにミュア先輩は愛されてるなぁ」
そう呟けば、嬉しそうな感情が届いてくる。
神である少年に直で感情が届くということは、同じ神であるということ。
そして、今自我がある神は数人。
「ってことは、ミュア先輩には聞こえてるってことかぁ」
嬉しそうな感情、先程の呟き。
考えられるのはそういうことだろう。
少年は思わず苦笑いしながら、先程の人間へと眼を移した。
どうやら、面白いことが始まりそうだからだ。
「しょうがない。僕は僕の役目を果たしますよ」
そしてまた、少年は面白そうに笑った――
◆◇◆◇◆
「久しぶり、いや、初めまして、同郷」
俺は、視界が解放されたと同時にそう言った。
ついでに、俺の右手が目前に迫った剣をしっかりと防ぐ。
月の魔力が込められた剣・・・・・・・・
「月剣か」
「!?」
そう呟くと同時に、剣を持った少年は大きく後退した。
いや、後退しようとした。
「逃げないでよ・・・・・・・・・?」
「え・・?」
少年とまったく同じ速度で俺も前方へと跳躍していた。
勿論、剣は掴んだままだ。
驚愕に染められたその顔を見ながら、俺は少年の身体へと魔力を融けさせた。
――瞬間。
「え・・・・・・・・・・・?」
先程よりも、深い驚愕を浮かべたまま、少年は倒れた。
そんな少年を見ながら、俺は告げる。
「慎吾。君は役目をしっかりと果たしている。ただ、それは君だけの力じゃない」
ピクッ、と少年の身体が震えた気がした。
「この月を、君だけの力だ統治出来たときは、再び俺に挑んできな」
――「それじゃ」
そう告げて、俺は光に飲まれていった。
しなくちゃいけない布石は打った。
あとは、少女をどうにかするだけだ。
「さ、早く片付けないと」
そう呟いたその声は、闇へと消えていった。
再び、視界が光転する――
先程したのは、俺の魔力を慎吾の中に侵入させただけだ。
しかし、月の神となり、俺へと服従する慎吾。
そして、創造神として純魔力を保有する俺の魔力が適合した結果、慎吾の身体に不可視の”糸”が巻き付けられたのだ。
そして、その糸の主導権を握るのは俺。
慎吾の体内魔力を好きなように動かすことも可能であり、また、慎吾自身を動かすことも可能だ。
これによって、俺は1つの魔法を発動させた。
――【完全なる月の要塞】
慎吾自身で生成した魔力を、月の張る結界リソースに変換する魔法。
神である慎吾は、常時膨大な魔力を生成し、その魂に貯蔵出来る。
その際に発生する、膨大な過剰魔力を月の結界へと転換するのだ。
これによって、異空間からの供給の断たれた異形達は、大幅に戦闘力が下がる。
そう見越して、この魔法を発動させたのだった。
――しかし。
物語はまだ終わらない。夜に輝く月が、その煌きを増大させて。
草木を揺らす風がその勢いを強調していく。
妖艶な月明かりに照らされた森の中で、その影はゆっくりと動き出していた。
全てを終わらせるために。
そして、全てを始めるために。




