逃亡生活(4)
村にはすぐに到着した。
魔力の消費は少なく、全体では本当に微々たるものだ。
この調子なら、少しの間なら全力で戦えるだろう。
俺は、俺の戦場を創るために魔力を塗りつぶしていった。
たった少しだけの空間の魔力を塗りつぶせば、残りは自動で広がっていく。
その範囲は、村全てを覆うほどだ。
◆◇◆◇◆◇◆
魔力で村を覆い終わると同時に、俺は村の中に駆け出した。
十字架に張り付けられていた村人は、既に死んでいるようだ。
突然侵入してきた子供を見て、盗賊達は一瞬だけ動揺している。
その隙を逃さず、俺は騎士団の拘束を外した。
こうゆう場合に”保管庫”はとても有効だ。
手錠事全てを収納することが出来る。
拘束道具が取れた騎士の男達は、すぐに剣と盾を拾った。
驚愕している。突然の自体に、着いていけてない。
それでも、彼等は騎士だ。その誇りに掛けて、動揺を押し殺す。
防具も無く、服も着ていない。
しかし、騎士としての誇りと技術はあるのだ。
その迫力はかなりのものだった。
騎士達は、大声で威圧しながら剣を手に突き進む。
突然の出来事に、盗賊達は動揺し、次いで行動を移す。
――そんな暇もなく、呆気なく首を刈り取られた。
そんな光景が、あちこちで見えた。
一気に形勢が引き分けた俺は、少し安堵した。
しかし、まだ女性達が解放出来ていない。
ならば、此処で終了することなんて不可能だ。
俺は、一瞬で魔法を構築した。
「”氷の狙撃手”!!」
母さんが最も得意としていた魔法だ。
氷の弾丸を、超高速で相手に向けて発射する魔法だ。
それだけで、盗賊の四人が死んだ。
高速で飛来した氷の礫は、その脳を正確に貫いたことによって、勢いの衰えが減ったからだ。
その攻撃に、騎士達は湧き、盗賊は動揺した。
そこを突いて、俺はさらに畳み掛ける。
「”雷と炎の巨腕”」
俺の背後に、雷を纏った腕と、炎を纏った腕の二つが現れた。
その大きさは大人よりも大きく、そして放たれる魔力はかなりのものだ。
魔力を操作して、腕を無造作に振り回す。
その一振りで、数人の盗賊を殺していく。
不思議と、不快感は無かった。
「少年に続け!!騎士の誇りを見せ付けろ!!」
一人の騎士が叫ぶと、周りの騎士も呼応したように叫び声を上げた。
そして、全体で盗賊に向けて突撃していく。
次々と起こることに混乱状態だった盗賊達は、その攻撃の波に飲み込まれていった。
その間、俺は村の中を走り回っていた。
何処かに、女性達がいるはずなのだ。
その時、俺の耳に声が聞こえた。
「・・・・け・・・て・・・・・・・・・・・けて・・・・・」
「こっちか!?」
その声を聞き、俺はその方角に駆け出した。
まだ争いは続いた中だが、その戦火は広がっていた。
この村の中では無く、隣村への途中に防火壕があるのだ。
恐らく、そこに女性達はいるだろう。
俺は、全力で地面を蹴った。
その頭の中では、女性達とリリナの安全を祈っている。
◆◇◆◇◆◇◆
全力で走った俺が到着したのは、一つの家の前だ。
此処の魔力を塗りつぶして分かったのは、この家の中には盗賊らしき者が一人しかいないことだ。
これは、魔力で塗りつぶした時に反射した魔力を察知して分かったのだ。
つまり、かなり正確にわかる。
一人しかいないということは、それ程強いのか、それとも偶然か。
悩む暇は無く、俺は家の中に足を踏み入れた。
「まさか、俺の盗賊団を壊滅させた相手がこんな子供だとはな?」
「!?」
入った瞬間に聞こえた声に、俺は後ろに飛びずさった。
鋭い視線で家の中を睨むと、そこから一人の男が出て来た。
そこまで筋肉が多いわけでは無いため、武術のみということは無いだろう。
警戒をしていると、男はフッと笑った。
「貴様、妙な術を使うな。まあ、良い。俺は貴様を殺す」
そう告げた男は、俺に向けて突進してきた。
鹿と同等の速さで走ってくる男からは、殺気が漏れている。
そして、その程度の速度なら対応が可能だ。
「”氷盾”からのッ”電斬”!!」
鹿の時同様に雷で刃を創り、それで切りかかった。
男の刃に合わせるように氷盾を置き、次いで雷の刃を横から動かす。
男は、氷盾に突進を防がれて動揺している。
「シッ!!」
「なっ!?」
下から切り上げると、男の左腕が宙を舞った。
鮮血が溢れ出すのと同時に、俺は返す剣で男の首を切り裂いた。
その攻撃は抵抗も無く男の首を切り裂いた。
「えっ?」
その呆気なさに、俺は単純に驚いた。
もしかしたら罠の可能性もあったが、幾ら待っても変化が無い。
つまり、あの男はあの喋り方で此処まで弱かったということか。
なんだか腑に落ちない気分を抱きながら、俺は家の中の部屋を回って行った。
ほとんどの部屋にいた女性は意識が虚ろで、虚空を眺めていた。
もう、人間としては生きていないだろう。
その事実に悔しい気持ちになるが、どうしようも無い。
最後の部屋に希望を託して入ると、そこには一人の少女が拘束されていた。
全裸ではあるが清潔で、此方を見て顔を赤くしているのを見ると、純情のままなのだろう。
そのことに安堵するが、何故こんな所にこんあ少女がいるのかが気になる。
そうやって少女を眺めていたのが悪かった。
「あ、あの!そんなに見ないでください!」
「え?あ、ああ、ごめんなさい!」
―セクハラで訴えられたら勝ち目なんか無いのだ。素直に謝るに限る。