Twilight of God⑪~ピクニックは亜竜討伐~
鬱蒼とした木々の中を飛び回りながら、俺は考えた。
どうすれば、解決するのかを。
(まず、あの異形達は何で生まれた?)
そう考えると、不思議な点が幾つも浮かんでくる。
第一として、異形という生物が存在すること自体が変な話だ。
(世界の結界によって外敵はこの世界に侵入出来ないはず・・・・・・・・)
かつて、この世界はまったく別の世界から侵攻を受けていた。
それを見かねて、俺がこの世界に永続させた魔法が、世界の結界だ。
これは、俺以上の格を持った状態の生物が、自身の魂を使い切ることで破壊出来る。
そんな鬼畜仕様にした魔法であり、決して壊れたことのない結界だ。
それに――
(結界は正常に作動している。なら、何故現れた?)
結界の動きは、常に俺の中に流れ込んでくる。
それこそ、呼吸するのと同じくらい自然に分かるのだ。
問題は、さらにあった。
(それに、あの異形達の強さも可笑しい。幾ら神格化してない俺でも、この世界の中ではほぼ最強なはずだ。なのに、異形達は俺と渡り合っていた・・・・)
明らかに可笑しい。
だが、何故そうなっているのかの原因が掴めない。
(原因は、まああの少女だろうな・・・・・・・・・でも、何で発生したのかの理由には繋がらない)
あの少女が、急に狂乱状態になったのも。
瘴気を充満させたのも。
全て、異形が現れることには関係無いは――
(――そうか!!!)
そこまで考えて、俺は決定的な間違いに気付いた。
初めから間違っていたんだ。全て。
(月神か・・・・・・)
月と太陽の神は、1つの世界に対してではなく、全ての世界に対して1体だけ存在する。
互いに会うことは無く、常に反対に存在する。
そして――
(月神には、結界を解除する権限がある)
まさに、灯台下暮しだ。
探していたこと、考えていたことの根本から間違っていた。
月の神が、この一連の騒ぎを起こしたのだ。
(ただ、確証は無い・・・・・・・・・・そのためにも、確かめに行くしかないか)
まだ、必ずしも月神と決まった訳では無い。
だが、今考えうる可能性の中で最も正解に近い答えなはずだ。
(行くか・・・・・・・・・・)
遥か上空、今は真反対の空に輝く月を見据えながら、俺はそう呟いた。
(タイムリミットは、以って2時間くらいかな・・・・・・・少ないけど、充分だ)
俺がこの場を離れる以上、結界が解除されれば異形達は世界を破壊していくだろう。
それまでに全てを断つためには、2時間程度が好ましい。
『来たれ来たれ永久』
一言。言霊が謳われ、光が可視化される。
『汝の時を我へと与えたまえ』
二言。光が互いに主張を始め、軽やかに踊り出す。
『統べる者は亡く 労する者は生く』
三言。収縮していく光が、一本の線を月へと伸ばした。
『月の神へと その道を導け』
そして、俺の身体を包む。
『渡月橋』
◆◇◆◇◆
夜空を見上げて、白髪の少年は溜息を零した。
血生臭い匂いが鼻に入り込み、思わず目を見開く。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
凛と静まり還ったこの場所に、少年の咳だけが響いた。
反芻していく咳の音を耳から遮断して、少年はもう一度、夜空を見上げた。
黒く壮大な空の彼方に、蒼い星が幾つも見える。
視界一杯に広がったその光景に、少年はまた、溜息を吐いた。
「何か無いのかな?」
――暇だー!!
そんな声が聞こえてきそうなくらい、つまらなそうな声だった。
何時も、何時も見てきたこの景色。
変わること無く廻り巡るこの光景。
「・・・・・・・・今日は、何かあるかな?」
零れた言葉が、泡となって空気へと消えた。
それは、まるで少年の願いを叶えるように淡く輝き、空を照らしていた――
◆◇◆◇◆
双葉慎吾<フタバ・シンゴ>は転生者だ。
今はもう記憶に無い世界で産まれ、そして死んだ。
思い返せば、別に大したことの無い人生だった、と言えるだろう。
学歴というモノも、下位でも上位でも無く位置し、友人関係も安定していた。
幸せとは感じなかったかもしれないが、充分に充実した毎日だったはずだ。
「?神の気配・・・・・・?僕の楽園には入れさせないよ」
そして、転生した彼を、人はこう呼んだ。
『我の名は月神 汝の名を以って この名を越す者』
どんなリソースによって月の神へと至ったのかは覚えていない。
ただ、覚えているのは自分が月を”支配”する神であること。
『護り 統治し 支配し 破壊する者』
元は黒かった髪と目も、今では月の様に金に輝いている。
ゆらゆらと風に髪が揺れ、その神々しさが増していく。
『我を敬え 我を見上げよ 我に服従せよ』
だからこそ、彼は知らない。
その名は――
『我の名は月神』
――――創造神への服従の証だと。
「このまま、あの世界も支配してあげる・・・・・・!」




