Twilight of God⑨~ピクニックは亜竜討伐~
◆◇◆◇◆
「”霊槍・グングニル”!!!」
透き通った蒼い槍が、輝きを放ちながら心臓を貫いた。
剣を持ったソレは、そのまま光輝き、粒子となって霧散していく。
と、同時に後方から鋭い突きが放たれる。
「チィッ!!」
思わず舌打ちが零れながら、大きく身体を右に逸らす。
左肩のすぐ横を通り抜けたのは、今しがた放ったグングニルと酷似したモノであった。
「鏡の異形まで来たか!?」
そう叫びながら、すぐに身体を捻り、振り返った。
その先では、幾重もの魔法陣を展開した漆黒の者が立っている。
黒、という色は無く。まるでその空間が切り抜かれたように虚無に染まっている。
それが、光輝く槍を握っているのは、随分と変な光景だ。
「”刺丸”!!」
手に握られた細剣が、一瞬で前へと突き出され、ソレの心臓を抉った。
が、次の行動に移る前に、俺の目前に大剣が振り下ろされていた。
今この瞬間までいなかったその空間は、虚無の人間に象られている。
(神速の異形も居たのか!!)
「”偽腕”!!」
青白い腕が現れ、大剣を一瞬だけ止めた。
が、すぐに切り裂かれ、消滅する。
ただ、それで充分だ。速度も落ち、一瞬の猶予を俺に与えた大剣は、空を切った。
それを握る異形の心臓には、俺の手に握られた剣が突き刺さっている。
「”変形”」
俺の手に握られた剣が、一瞬で槍へとその姿を変える。
それが完成する前に、俺はその場でしゃがみ、大きく後ろに跳躍した。
その瞬間、俺に殺到する魔法の雨。いや、嵐。
「”神の防護”!!」
黄金の輝きが俺を包み、魔法を相殺していく。
次の瞬間、パリン!という音とともに黄金が消えた。
僅か1秒も持たなかったが、それも予想の範疇だ。
むしろ、1秒持ったら拍子抜けだ。
『数多なる奇跡の星よ』
『傲慢なる欲望の魂』
『焼き尽くす業火と迸る雷に飲み込まれ』
『刹那の痛みによって消え去れ』
その状態で、魔技をキープしておく。
俺の周りに集まった膨大な魔力に、警戒したようにソレは攻撃を止めた。
魔法に当たった身体が悲鳴を上げているが、それ処では無い。
未だに周囲に、俺を囲むように群がるソレを見て、俺は1つ、息を吐いた。
◆◇◆◇◆
「遅かったか・・・・・・・・・・・・・」
森の中の、大きく開けた場所に出て、俺はそう呟いた。
目前には、1つの小さな山と同じくらい巨大な竜が倒れ伏している。
始祖天竜。
白銀の身体と翼を持ち、黄金の瞳を輝かせるその竜は、まるで眠るように倒れていた。
その傍らに、泣き崩れた少女が座っている・・・・・・・・
一歩、少女に向けて歩き出す。
――その瞬間だった。
『そうか。貴方がいけないんだ・・・・・・・・・・・・!』
(!?)
ブワァッ、とした黒いオーラが撒き散らされ、周囲の温度を何度も下げたように感じられた。
瘴気の発しているポイントは、少女の身体からだ。
その黒い瘴気が形を成していく――
(世界の異形ワールド・エネミー・・・・・・・・・?)
それは、虚無を具現したような漆黒に包まれたナニか。
『いなくなれば良いのよ・・・・・・・・』
エコーの掛かったような声が、その場に響いた。
少女が、その腕を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろした。
――刹那。2つの驚愕が起こった。
「なッ!?」
一つ目は、俺の目前でソレが剣を振り被っていること。
二つ目は、ソレが大群となって、俺を囲うように出現したこと。
それらが相まって、次の一手が遅れた。
ザシュッ!!!
血飛沫が噴出し、俺の視界を真っ赤に染めた。
と、左肩が物凄い熱を帯びているのに気付いた。
それに目を向けた視界に入ったのは――
「え・・・・?」
先の無くなった、左腕だった。
左肩から先が、綺麗な断面を残して消えている。
いや、下に落ちているナニかの残骸が腕なのだろう。
赤い肉がぐちゃぐちゃと滴り、血が永遠と流れ落ちる。
だが、思考を停止している暇もなかった。
左腕が消えた痛みからか、本能が働いた。
「”瞬歩”!!」
咄嗟にそう叫び、大きく上に跳躍した。
1秒にも満たない時間で、俺は地上を視認出来ないほどの高度まで打ちあがった。
と、同時に、異常な光景が目に入った。
(何だコレ・・・・・・・・?)
地上から、鮮やかな球体が輝いて見える。
それは、次第にその数を増し、だんだんと大きくなって・・・・・・・
(魔法か!!!)
そこまで来て、俺はこの正体を知った。
視界一杯に広がる鮮やかな球体の輝きは、その全てが魔法なのだと。
「”神の防護”!!!」
そう叫ぶと同時に、俺は黄金の輝きに包まれた。
その輝きによって、魔法は俺に衝突すると同時に、破壊されていく。
――はずだった。
パリン!!
ガラスの砕け散るような、無慈悲な音が響いた。
同時に、黄金の輝きが霧散するように消え去っていく。
視界に映る魔法は、未だに残ったままだ。
(嘘だろ・・・・・・・・・・)
思わず現実を否定するように内心で呟いたが、景色が変わることは無かった。
直感的に、悟る。
(死ぬ・・・・・・・・・!!!)
そう悟ったと同時に、俺は覚悟を決めていた。
温存するべきではない。
この時に使わないと、俺自身の魂が危ない。
魂が吸い取られていくのを感じながら、俺は唱えた。
『”停止”』
たったそれだけ。その一言で、時が止まった。
攻め狂う魔法も、流れ落ちる血も、その全てが止まった。
『”逆再生”』
蒼い虚無が俺に集まり、その輝きが俺の左肩に集まった。
そして、元の腕へと一瞬で回帰する。
と、同時に、胸の奥からナニかが込み上げていくのを感じた。
(限界か・・・・・・・・・・・・)
それを悟って、次の一言を唱える。
『”復讐するは我に在り”』
________________________




