Twilight of God⑦〜ピクニックは亜竜討伐〜
翌日に持ち越しになると思っていたが、事情を聞いた2人の答えは同じだつた。
「今すぐ行きましょう」
「2人が良いなら良いけど………」
何故?と内心で考える俺に気付いたのか、カレンが微笑んで答えた。
「だって、その子は大切な人のために頑張ってるんでしょ?それなら、理解してあげれる私達がなんとかしてあげないと、ね?」
凄いなぁ、と。
そう考えられるカレンに感心しながら、俺は頷いた。
2人ともが納得するなら、俺に異論なんて無い。
「じゃあ、行こう」
「ええ」
「はい♪」
2人が頷いたのを確認して、俺は森の中へと入って行った。
刹那――
ゾワァッと、背中が毛立つような悪寒に見舞われた。
まるで、何かからの殺意を持った監視をされているような……
(これは、思ったよりも深刻そうだな………)
そんなことを内心で呟いてから、俺は進み始めた。
森の中に入ってから数十分が経過した。
今、俺達は一番魔力の大きい場所に向けて、森の中を進んでいる。
そのため、場所とかはほとんど分からない。
「キィッ!!!」
「”斬破”!!」
奇襲の多いこの森では、対処と適応を何時でも発動していないと危ない。
切り捨てた猿に似た魔物を放置して、さらに進む。
魔物を放置すれば、その場に魔物が集まるが、逆に言えばその分他の場所が空くということだ。
(不味いな・・・・・・・)
それでも、だんだんと俺達は苦戦を強いられてきている。
魔力の残量と、魔物の数が主な原因だ。
それと、夕方になりかけていることも焦りに拍車を掛けている。
「大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ」
カレンとミュアの問いにそう答えて、俺は何とも無いように先に進む。
ただ、2人には分かっているだろう。
明らかに俺が無理をしているのは。
それでも、2人は俺を信じてくれている。
何も言わずに、任せてくれている。
(なら・・・・・・・・)
「キキィッ!!!」
(頑張らないと・・・・)
大きく剣を振り被って。
(な!!)
「”斬破”!!」
「ギギャッ!!!」
切り裂いた。
既に、索敵範囲内には大量の魔物が俺達に気付いている。
それでも、襲って来ないのは、賢いのか、馬鹿なのか。
前者なら、俺の魂に感化されているということ。
後者なら、弱ったところを狙っているのだろう。
(ほら来た・・・・・・・・馬鹿だな)
後者である、猿の上位版のような魔物が、木々の上から強襲してきた。
振り下ろされた拳に垂直に刀を添えて、首を待つ。
一瞬で移動した俺に驚く猿だが、もう遅い。
剣の隣に猿の首が通る、その途中を。
「”斬破”」
切り裂いた。
たった一瞬の攻防で命を失った猿は、尚も困惑したような顔で、地面へと落ちた。
「速く行こうか」
「ええ。流石にこんなのの隣には居たくないわ」
「同意します」
首から先が綺麗に斬られた猿に、顔を顰めて2人は言った。
「ははは・・・・・・・・・・・ごめん。じゃあ、進もうか」
進み出すと、数分毎に魔物が襲ってくるが、まだ対処は余裕を以って出来る。
どれも、単体で単調な攻撃しかしてこない馬鹿だからだ。
(それにしても・・・・・・)
と、そう考える。
(明らかにこの森は可笑しい。何だ・・・・・?)
この、魔力の異常な濃さが、それを証明している。
昨日、少女は始祖天竜はまだ封印される前だと言っていた。
そして、それは今も尚変わっていない。
ならば、一体何がこんなにもこの森を汚しているのだろうか。
ふと、目に留まったのは、1つの光景だった。
(そうか・・・・・・・・・!!)
それは、魔物から吐き出される煙だった。
毒素・・・・・・・・・そう呼ばれる物質は、この世界ではありふれている。
何故なら、この世界を象る魔力に含まれている物質の1つが、毒素なのだ。
魔力を扱う場合は、この毒素を多少なりとも生成している。
そして、この森の魔物達。
これは、ほとんど魔力と一体化・・・・・・している。
つまり、日常的な生活。つまり呼吸ですら毒素が生成されるようになっているのだ。
これから導かれる答えは――
(厳しい、か・・・・・・・・・?)
バッ、と顔を上げた俺が感知したのは、酷く強大な魔力と、酷く弱々しい命だった。
始祖天竜の魔力と、その寿命。
「ごめん。ちょっと急ぐよ」
「大丈夫よ」
「分かりました」
頷いた2人を見てから、俺はすぐに駆け出す。
森の中を、ピクニックなんて忘れて、ただただ駆け抜ける。
(急げ!!)
カレンとミュアは、2人居ればほぼ最強だ。
俺でも、勝てるかどうか分からない程の力を持っている。
なら、俺がするのは信じて先に進むことだ。
そう言い聞かせると、少しだけ体が軽くなった気がした。
(ありがとう、ミュア・・・・・・・・・・)
勿論、俺の認識で軽くなったわけではない。
これは、ミュアの行使出来る神の力の1つで、味方と認識した者全てに速度上昇を付与する力だ。
いわば、神力という魔力適正に付属する魔法。
本の、特典のようなモノと考えれば楽だろう。
さらに速度が上がったと同時に、周囲の変化も明確に分かった。
(此処からは、竜の森の所以が見れる訳か)
遥か昔から、強大な魔物の跋扈するこの森。
その、最も戦力の集まる中央付近の円形に侵入したということだ。
『来たれ疾風』
ブワッ、と風が吹きぬけた。
瞬間、時間を越えて、世界を駆け抜けていく。
景色が、色が、その全てが認識の限界を突破して放置されていく。
神の魂でさえも認識出来ない速度。
(間に合え!!)
風圧で、通った道には大きな惨状が残されていく。
それでも、この状況にはまだ足りない。
今この瞬間にも、着々と減少を始める、始祖天竜には。




