Twilight of God⑤~ピクニックは亜竜討伐~
夜。
窓から月の光が差し込む中、俺は目を開けた。
「やっぱり来たね」
「やっぱりバレてた」
互いに当然のように頷き合い、視線を交差させる。
それと同時に、俺は微笑を浮かべて告げた。
「久しぶり・・・・・・いや、初めまして。イリエさん」
「そして――」と言おうとした俺に、目前に佇む少女は笑みを浮かべた。
心底、嬉しそうに。
「やっぱり、貴方に目を付けて正解だった・・・・・」
「そう・・・・・でも、何故君は此処に来た?」
分からない。
この少女が考えていることが、俺には予想すら出来ない。
何故、これほどに笑みを絶やさず喋ることが出来る?
俺に正体が看破された上で、何故・・・・・・・・
(何なんだ・・・・・・・・・?)
ブワッ、と風がカーテンを揺らした。
少女が立つ窓の後ろから捲れ上がったカーテンの奥に、輝く月が見える。
少女の、白銀に染まった髪が煌くように反射して、淡い光を放っている。
「Moon over people・・・・・・・・?」
思わず、ポツリと俺は言葉を零していた。
――しかし、まるでそれが正解のように。
少女は笑みを深めて、俺を見つめた。
(・・・・・・・・・!!そうかッ!!!)
「分かったかな・・・・・・・・?」
俺の顔から何かを掴んだのか、少女は俺にそう問うてきた。
今理解したばかりだが、ほぼ確定で間違いないだろう。
「君は、転生者だね・・・・・・・・・?」
「正解!」
そう答えた少女に、俺はやはり、と内心で呟く。
それなら、この少女の不可解さにも納得がいく。
だが、それと同時に疑問も浮かんでくる。
俺の顔から察したのだろう、少女は頷き、答えた。
「それは、また今度話すよ。今は、それよりも大事なことがある」
「どういう・・・・・・・・・」
一瞬で、真剣な雰囲気に切り替わった少女に飲まれながら、俺はそう告げた。
喉の奥からそれだけしか出なかったことが、俺の困惑を示しているだろう。
「始祖天竜様が、危ない」
「・・・え?・・・・・危ないって・・・・だって・・・・・・・・・・・・」
俺の問いはその通りなのだろう。
少女は頷いた。だが、同時に首を横にも振った。
「確かに。始祖天竜様は不死の設定・・がされている。でも、それじゃ足りないんだよ。それじゃ意味が無いんだよッ!」
言葉の最後の方は、微かに掠れた声になってきていた。
目元が潤み、必死に何かを我慢しているのが分かる。
(大事なんだろう、な・・・・・・・・・)
今すぐにでも、始祖天竜のところへ戻りたいのだろう。
この瞬間、始祖天竜の前にいないだけでも不安な何かがるのかもしれない。
それでも、俺に何かを伝えるために此処まで来た。
(凄いな・・・・・・・・)
この少女は、何も無かったんだろう。
俺のように、チートがある訳でも。特別な存在でも。
(それでも、此処まで昇ってきた)
俺の目前に立って、何かを必死に伝えようとする。
自慢では無いが、俺の存在はこの世界で最も上だ。
そんな俺の目前に立って、お願いしようとしている。
頑張ったんだろう。この顔を見ていれば分かる。
「今!この瞬間・・・・・・・・!!始祖天竜様は・・・・・・・封印される手前を生きています」
「!?・・・・・・・そうか・・・・・・・・・」
それと同時に、この用件の重大さも理解した。
まず、始祖天竜の役割を知っているだろうか?
始祖天竜は、彼の住む森を中心とした、超広範囲に渡る魔力を喰らい、魔力量の安定を果たす存在だ。
そのため、この世界は何時も同じ魔力量、同じくらいの魔物の強さを維持している。
だが、その始祖天竜がいなくなれば、魔力の減少に大きな欠損が生まれる。
そこから発生するのは・・・・・・・・・
「魔力崩壊・・・・・・か」
「はい」
俺の呟きに、しっかりと頷く少女。
「~~ッ!!~~~ッ!!~~」
押し殺そうとする涙が、より強調されて部屋に響き始めた。
少女の瞳に貯められた涙は、あまりにも脆く零れ落ちていく。
美しい肌が、朱に染まりかけながら、頬を伝わる涙が輝く。
(でも、これは俺だけの問題じゃない)
俺がどうこうすれば、全てが解決する訳では無い。
この少女と始祖天竜が、全てを決定する資格を持つのは、誰が見ても明らかだ。
(なら・・・・・・・・・・)
俺がすることは、1つだけだ。
「大丈夫・・・・・・・・絶対に、助けるから」
「ふぇ?・・・・・・・・・・・ぅ・・~~~~~!!!!!!!!!!!」
優しく、包みこむように抱きしめると、少女はついに号泣し始めた。
今まで耐えていたものが解放されていくように、留まることを知らない水となって流れていく。
「服が汚れる・・・・・・・」なんて事は言わないし、考え無いが、1つだけ訂正がある。
別に、この少女のことを異性として好きだとかはまったく思っていない。
ただ、これが一番の解決策だと思っただけだ。
「だから、今日はもう帰って寝よう。な?」
「・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・」
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イリエという少女の事を、「少女」と呼ぶことについて説明します。
これは、イリエという少女としての魂が、上書きされて別のものに変換されているためです。
つまり、イリエという少女の身体を持った、別の人物なのです。
そのため、イリエではなく、少女と呼ばせて頂いています。
ただ、会話の中ではイリエになると思います。
~ちょっとした付け足し~
ただ、これが一番の解決策だと思っただけだ。
だから、読者の皆様はこのことをカレンとミュアには内緒にしておいてほしい。
お願いだから。頼むから。




