Twilight of God③~ピクニックは亜竜討伐~
赤い竜が飛び立った方角をしっかりと覚えてから、俺は男達へと振り返った。
魔力は抑えたばかりだが、すぐにでも解放されそうな程煮え滾っている。
そのまま男達を見下すと、全員がビクッと身体を震わせた。
「おい」
「ヒィィッ!?」
ただ一声掛けただけでこの反応とは。
(よく竜種の捕獲なんかしたな)
怒りを通り越して呆れが少しだけ膨らんでくるのを感じながら、俺は周囲へと目を向けた。
どうやら、まだオークションの様なものは開催されていなかったようで、死んだ人は少ないようだ。
―死んだうちの何割かは、一般民だ。
そう考えると、また怒りが込み上げてきた。
その気持ちのまま、怒りをぶつけるように言い放つ。
「お前等、やってくれたな。折角平和だと機嫌が良かったんだが、興冷めだ」
(まあ、もういいかな。もう、我慢しないで)
既に、涙と怯えで顔をくしゃくしゃにしている男達を見据えながら、俺は笑みを浮かべた。
――それは、酷く妖艶としていて、破壊的な笑みだったそうだ。
「【死に晒せ】」
その言葉1つで、男達の身体の至る場所が膨れ上がり始めた。
同時に、肉の中を蠢くナニかの姿が盛り上がった皮膚から窺える。
「な、何だこれぇッ!?」
「た、助けてッ!!!」
何人かは喚く力が残っていたようだが、残りは既に言葉も出ない。
身体中を駆け回る激痛と、押し潰されそうな威圧感。
さらに、肉眼でハッキリと見える蟲の暴れまわる姿。
今この瞬間、肉が、骨が、全てが醜い蟲に喰い散らかされていく。
その姿を見て、俺は、神父のような笑みを浮かべて告げた。
「痛いだろう?それが、お前達の罪だ」
(苦しめよ?絶対に、魂にその恐怖を植え付けてやる)
さらに、さらに恐怖を高めるように、俺は笑みを深めた。
この男達に、一生のトラウマでは済まない程に。徹底的に潰す。
「【死ぬな、一生の痛みを、永遠の痛みを、魂へと】」
1節で殺すことも可能な言葉を、4節使えばどうなるだろうか?
簡単だ。
「ギャアアアアアア!!!!!!」
「イダイイイィィィィ!!!!!」
「ダズゲデエェェェェ!!!!!」
死ぬ寸前だった男も居ただろう。
だが、死ねない。痛覚が麻痺しないように、永遠の回復も掛けてある。
痛みを感じるように、魂にもだ。
一生、この男達は痛みの呪縛からは逃れられない。
「逃してたまるか・・・・・・・」
そう、小さく呟いた俺は、男達を無視して振り返った。
そこには、不安そうに集まる周囲の人々。
最初から見ていた人も居るのだろう。俺に敵意は1つも無い。
ただ、かなり恐怖を覚えた人も多いようだ。
(そうだな。じゃあ・・・・・・)
「【隠せ】」
男達の姿が、フッ、と見えなくなった。声も、姿も消えた。
「【直れ】」
そして、壊れた建物も、崩れた破片が意志を持つように動き出し、集合していく。
そのまま、互いに何故か接着されていき、元の建物へと戻った。
改めてみれば、もう此処には何も無いようにしか見えないだろう。
結果に満足した俺は、一度頷いてから、また人々を見た。
皆、驚いたように建物と俺を交互に見遣っている。
そこで、またもや神父のような笑みを浮かべて、俺は言った。
「迷惑をお掛けしました。お礼と言っては何ですが、皆様にはこれを差し上げます」
最近、頑張って練習した敬語を使って、そう説明した。
と、同時に指をパチン!と鳴らした。
瞬間、全員の左薬指に、1つの指輪が嵌められた。
小さな、それでいてどんな宝石よりも輝いてみえる、白い石が付いている。
「これは、私が創り出した指輪。これがあれば、皆様の命を、一度だけお助けしましょう。決して、手放さないように」
それだけ告げて、俺はもう一度、指を鳴らした。
刹那、駆け抜けた光と同時に、俺は道を大きく跳び越えて、幾つか先の路地へと降りた。
さすが、この身体のスペックは高い。
「凄い・・・・・・・」
(!?)
と、同時に聞こえた声に、俺は大きく前に跳躍しながら振り返った。
そこに居たのは、先ほどの少女だった。
(驚いたぁ~~!!!)
そう内心で叫んでから、俺はバッと顔を上げた。
可笑しい、そう気付いたのだ。
――その予感が正しいように、少女の姿は消えていた。
(!?・・・・・何処だ!?)
周囲へと索敵を広げるが、人の気配はまったくしない。
それ処か、先ほど少女が立っていた場所にすら、魔力は残っていなかった。
漠然としない気持ちを抱いたまま、俺は南側へと歩いて行く。
流石に、もう太陽が中天に差し掛かっているのだから。
――ありがとう。待ってるよ・・・・・・・
そんな声が、耳に遠く聞こえた気がした。
確認する術は無いが、それがどうしても幻聴ではないような気がしたのだった。




