逃亡生活(3)
翌日、サバイバルの三日目だ。
予想では、今日の夕方か明日の夜までには騎士団が来ているはずだ。
ならば、それまで生き残るしかないだろう。
俺は、まずはリリナを連れて村の方に向かった。
村が見える最大の距離まで近づくと、やはり盗賊達はまだいた。
しかし、それ以上に驚きのことがあった。
村の中央には、数人の村人が拘束されているのだ。
それも、全裸で十字架に貼り付けられている。
その身体には幾つもの痣と火傷の痕が残っている。
ふいに身体に感じた感情は怒りだろう。
しかし、隣にいるリリナという存在がそれを否定する。
今はまだ、動くべきでは無いはずだ。
騎士団が何とかしてくれるはずだ。
それを待てば、それだけでどうにかなるはずだ。
_しかし、俺の願いは儚く散った。
村を見ていた俺の目が捉えたのは炎。
盗賊達は十字架に火を点けたのだ。
一瞬で燃え上がった火は、村人を焼いていく。
その姿を見ているこの場所まで、悲鳴が届きそうだった。
そして、その炎に照らされて俺は見つけた。
いや、見つけてしまった。
炎の隣には、大量の鎧と剣、そして男達が全裸で足と手を縛られている。
(まさかッ!?騎士団が!?)
その鎧と剣に刻まれるのは、間違いなくこの国の騎士に与えられる紋章だ。
つまり、騎士団は既に到着していて、そして捕まった。
その瞬間、俺の頭には最悪な光景が再生された。
恐らく、村人にも、騎士団にも、女性はいただろう。
なら、その女性はどうなる?
盗賊達は、ほぼ確実に弄び、そして殺してしまうだろう。
それか、奴隷として売り払うかもしれない。
(クソッ!!)
俺の頭の中では、二つの巨大な信念がぶつかっている。
最愛の妹の安全か、村人と騎士団の安全か。
いや、分かっている。助けに行ったところで役には立たないことも。
それでも、何かは出来るかもしれないッ!
俺は、頭の中で葛藤した。
どちらも絶対に救いたい大切なものだ。
しかし、それを可能にする力が無い。
その時、俺は右腕を引かれた。
そちらを見ると、リリナが此方を見ていた。
その瞳と視線が合わさると。
ニコッ、とリリナは笑顔を作った。
それは、きっと覚悟と決意が出来ている証なのだろう。
そして、何も言わないのだったら、きっと全て任せてくれるのだ。
ほぼ確実に敵わないはずだ。
なにせ、俺は近場の森にいた鹿に苦戦していたのだから。
そんな俺が、騎士団でも勝てなかった盗賊に勝てるとは思えない。
_でも、それでも我が儘を言えるなら。
「リリナ、悪いな。兄ちゃんは、ちょっとお人好し過ぎるみたいだ」
「知ってる♪」
「だから、ちょっとリリナの運命を兄ちゃんに託してくれないか?」
「うん!私の全てを、お兄ちゃんに今は預ける。存分に楽しんで来て」
その言葉は、最後まで俺のことを気遣っていた。
リリナの顔は、笑顔のままだ。
なら、俺も笑顔でいなくてはいけない。
「じゃ、ちょっと行ってくるね?」
「うん!」
最高の笑みと共に、リリナは送り出してくれた。
だから、俺は、リリナを抱きしめた。
「さようなら、は言わない。すぐに帰って来る!」
俺はすぐに離れて、村に向けて駆け出した。
五歳の子供が、こんなカッコつけるべきじゃないだろう。
でも、それでも俺は俺の意地を通す。
「”氷道”!!」
地面を凍らせて、俺は移動速度を上げた。
この程度の魔力は微々たるものだ。
村の手前まで氷の道を創り、そこを滑るようにして移動する。
最速で、全力で挑む。
負けることは俺が許さない。
全身全霊を以ってして、俺は戦ってやる。
守りたい者は、俺が全て守る!
_村へと続く道のりは、すぐに終わった。
此処から続くのは、一人の子供が紡ぐ物語だ。