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world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
創造神と神々、人々は未来へと――
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繋話~もう一度~

屋敷の部屋に戻ると、そこにカレンの姿は無かった。

置手紙に書かれた内容を、きっと読んだからだろう。

ミュア達には、悪いけど外で待ってもらっている。


「さて。俺も行かなくちゃな」


覚悟は出来ているはずだった。

ちゃんと、伝えて、分かってもらいたいんだ。

でも、それを言い出す勇気が、俺にあるのかが分からない。


空っぽの掌を見つめながら、何かを掴もうと握り締める。

でも、そこには何も無い。


「ははっ。これは辛いね。でも、俺が頑張らないと」


部屋の扉を開けて、そのまま中庭へと向かった。

玄関の扉を開き、右側へと進むと、懐かしい、俺の壊した中庭が未だに残っていた。

まだ残っているのだから、クルスさんがきっと残しているのだろう。


そして、その跡地の少し奥に、カレンは佇んでいた。


(やっぱり……か……)


その瞳の向く方角は、1つの巨木だった。

公爵家に元々あった広い中庭に、俺とカレンで植えた”桜の樹”だ。

この世界にもあったことに驚いたが、2人の思い出の場所である。


ふと、俺が来たことを感じ取ったように、カレンの顔が此方を向いた。


(!?……)


その顔を見て、俺は驚愕に目を見開いた。


「堕転……?」


美しく、そして可愛らしいカレンの顔。その額に、黒い紋章が浮かび上がっていた。

人が、闇に堕ちることを堕転と呼ぶのだ。


――思考が、最も愛しかった人物への攻撃性へと切り替わる。


「!?……ッ!!」


突如として背中に走った悪寒に、俺は言い知れぬ違和感と共に回避した。

そして、振り返る。


「!?」


そこには、カレンが剣を振り切った状態で立っていた。


「どういう……ッ!!」


口を開きかけた途端、またもや悪寒が走った。


「チィッ!!!」


(能力が底上げされてる!!!)


咄嗟に振り切った炎剣で防いだが、カレンとはまったく別物の重さがあった。

第一、神まで至った俺の力で押し返せないのだから、異常だ。


「たす…け……」


「!!カレ……ッ!!」


カレンの言葉に、思わず力を弱めてしまい、押し切られた。

大きく後ろに跳躍して直撃は避けたが、肩に深い切り込みを入れられた。

ただ、その代わりに1つだけ情報を得られた。


(カレンは、まだ生きてる……)


あの時の表情と声は、紛れも無いカレンだ。

それだけは、確信を持って言える。

黒く染まった剣を構え、此方へと走りこんで来るカレンを見据えて、俺は剣を構えた。


「”魂管理””適応””対処”」


今度は、俺がカレンを助ける番だ。


「魂の浄化癒えろ」





________________________






暗い……………

此処は……………?

私は誰………………?


怖い。怖い。怖い。怖い!!!


誰か、誰か、誰か誰か誰か誰か誰か誰か!!!!


「~~!!」


え………?

誰・・・・・・?


「~~!!」


誰なの・・・・・・?


「~ン!!」


助けて。助けて。助けて!!!!


「カレン!!!!」





_______________________________


「カレン!!!!」


光に包まれて薄れゆくカレンに、リュウは必死にそう呼びかけていた。

しかし、カレンの閉じられた瞳が開く様子は見られない。


「クソっ!!!」


思わず口から零れた悪態は、リュウの感情が込められている。

だからだろうか。

リュウが思わずソレを見つけたのは、本当に奇跡だっただろう。


(・・・・・・・・・・・魔力?)


リュウ自身の身体から、超微量に放たれる魔力が、カレンへと線を繋いでいるのを。

バッ!と顔を上げると、カレンの瞳から零れる涙が見えた。


だが――


「止まらないッ!?」


これでも、まだ治っていないというのだ。


(いや、でも・・・・・・あとは俺を強く認識させれば・・・・・・!!)


「行ける、のか?」


そう呟くリュウだが、答えは決まっている。

行ける、行けないではなく、行くしかないのだ。


ヒュン!!!


風を斬る音が響き、頬から一筋の血が流れ落ちた。

それでも尚、歩み寄るリュウに、カレンは一歩後退する。

本能からだろうか、リュウに恐怖しているようにも見える光景だ。


しかし、後ろに下がられるのも困る。

リュウは、”氷抵抗”で創り出した氷の壁で囲い、逃げ道を塞いだ。

走り寄ることは出来ない。


より強く、激しく認識させるには、少しずつ近付いて行くという方法が最もなのだ。

それでも、一歩ずつ、距離は近付いていく。


「ごめん、カレン」


歩み寄りながら、リュウはそう切り出した。

カレンには、何の変化も無い。


「俺は、カレンに何時も我慢させてた」


「・・・・・・」


「愛してるのに、気に掛けてあげられなかった」


僅かに、リュウですら見逃しそうな程で、カレンの身体が震えた。

無機質に、此方を向いているのかすら分からない瞳が、今はしっかりとリュウを見ているように感じられた。


「だから、ごめん、なんて言わない。許してほしい訳でも無い」


(伝わってほしいな・・・・・・・・・・・)


「ただ、やり直すチャンスが欲しい。カレンと毎日を戦い抜いていけるように」


カレンは、リュウが傷付くことを嫌がっていた。

だが、それよりも、リュウが傷付くのを見ているだけだった自分も許せなかった。

なら、その要因を覆せば良い。


「カレン・ルーティア。俺と、もう一度、初めから歩んでほしい」


もう、カレンは目の前に居た。

何時しか、攻撃はほとんど止んでいる。

ただ、リュウの身体に付けられた傷跡が、その壮絶さを物語っているのだが。


そんなことは気にせずに、リュウはカレンの顔を見つめた。

未だに瞳は閉じられたままだが、そこには人間としての感情が宿っているようにも感じられる。


「ぁッ!?」


そして、カレンが喋り出す寸前に――


「~~!!」


――キスをした。


その途端に、閉ざされていた瞳は大きく見開かれ、闇が霧散したのだった。



_____________________


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