繋話~全てが終わった後の話だ~
全て・・が終わってから、数週間が経った日のことだった。
カレンが買い物に行ったのを見届けた俺の元へ、一通の手紙が届いた。
決して豪華でもなく、何の装飾も無い手紙は、さらにかなりくしゃくしゃになっている。
なのに、俺の手に乗った重みだけは、しっかりと記憶に残っている―――
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手紙によって知った話だ。と、後に彼は愛しの人物に語ったそうだぜ。
あの時、あの瞬間、彼がいなくなった。
そのたった2時間程度の間に、何があったのかは正確にはわからない。
けれど、ただ1つを告げられるとするならば、あの時、カレンは確実に一度、堕ちている。
その事実を告げられた時、彼女の顔はどうだったのか?
それは、とても晴れ晴れとした顔をしていたそうだよ。
決して、それが嬉しい訳でも、喜ばしいことでも無い。
ただ、彼女は一言、こう告げたそうだよ。
「だって、今私が彼の隣で幸せでいられるなら、何の問題があるの?」
慣れない敬語も使わず、頑張って練習した敬語を使わず、心からそう思っているように、彼女はそう告げたそうだ。
分かるかい?
こんなに愛してくれる彼女を持って、彼は幸せだっただろうね。
彼は、立派な男だよ。
彼女が堕ちたのにも関わらず、その不治を救いだした。
堕ちたというのが分からないかい?
ならば、説明しようじゃないか。
堕ちる、というのは、簡単に説明するならば、光が闇に染まる現象のことだよ。
光輝く正義の心を持った者が、深く染まる闇になってしまうことだ。
この現象は、今まででもかなり確認されているはずだ。
君も、読んだことはないかい?
小説なんかで、主人公に辱められた人物が、闇に手を染めてしまうのを。
それを、堕ちた、と呼ぶんだよ。
此処から先は、俺にも詳しい話は分からねぇ。
なにしろ、俺は彼のことを知っているだけだからな。
何があったのか、何を成したのか、それを知るのは、その場に居合わせた者だけだ。
そうだ。彼について少しだけ話してやろう。
彼は、人を辞めたよ。まあ、知っているだろう?
これくらいは常識なのだから。でもね、まだ、この世界で人として生きている。
毎日、頑張って仕事をしてると思うよ。
なんたって、彼女が毎日幸せそうな顔をしていられるんだからな。
さあ、俺の話は此処までだ。
この先は、お前さんがその目で見て確かめてくれ。
世界を、時代を改変させる、たった数瞬の戦いを制した者の行く末を。
俺かって?俺は、また此処等で酒でも飲んで見守るさ。
彼が成した功績を、彼が成す功績を、その全てを目で捉え、肌で感じるんだ。
目の前に映る彼は、瞳に映る彼が成す全てが、世界を変えていく。
きっと、此処からは楽しい世界が始まるはずだよ。
戦いも始まるだろう。それでも、彼がなんとかするはずさ。
なんたって、彼は彼なんだから。
何?続きが聞きたいだと?
もう駄目だよ。お前さんが見てきな。そして、世界を知るんだ。
例え、簡単に終わる結末だとしても。確定したハッピーエンドだとしても。
その過程に生まれた感情を、お前さんは見逃しては駄目だ。
神と人間と、そして神の恋を辿るなんて、もうこの先も見れねえはずだぜ?
さあ、行くんだ。世界を、歴史を見に。
この物語のラストを飾る最高の言葉を、見極めてみろよ?
俺の名前は――――
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遥か古の、物語の中の話。その物語の最後を飾るのは、皇子による愛の囁きなはずだ。
永久の氷よりも固く閉ざされた、封印された花が、その目を咲かせようとしている。
同じ様に、それを支える一輪の輝く花にも、また、運命が迫る。
もう、この物語の終わりを告げる鐘が鳴るときは近い。
神々という言葉が、神々を縛る封印だというのを、人々はまだ知らない。
その”神”という概念によって、決して反することの出来ない呪縛を、人々は知らない。
ならば、知らしめてやろう。
神々とは、至高な使命を持った、人間だと。
雪が太陽によって溶けるように。
その暖かさに包まれた心は、新たな芽を育む。
The Last Story 「叶うなら。と君は言った」
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