EX 屋敷で、再びの決意を(3)
「う………?」
小さく呻き声を上げて、俺は目を開けた。
光が目に差し込んで、眩しいと感じると同時に、先ほどまでの記憶が蘇ってくる。
バッ!!
と咄嗟に起き上がり、俺は横に目を向けた。
(……良かった…)
そこでは、カレンが柔らかな寝息を立てて、俺の眠るベッドに頭を預けるように寝ていた。
気持ち良さそうな、幸せそうな寝顔を見て、深く安堵の気持ちが心の中に広がるのを感じる。
でも――
「誤魔化すのは、無理なんだよな…………?」
自分に問うように呟き、答えるように頷いた。
もう、後戻りはしたくない。
ゆっくりと身体をベッドから降ろし、眠るカレンの隣を通り過ぎた。
近くにあった紙に言葉を書き残し、俺は部屋を後にする。
すぐには起きないだろう。
それまでに、俺は俺に対する精算を済ませるべきだ。
今まで、カレンは俺が無理をする度に苦しんできた。
ならば、もう今後、そんなことが起きないように。
身体の奥底から、黒い正気が俺に纏われるように広がり、俺の心臓へとその刃を向けてきた。
(邪魔)
強引に力を放出し、複製にてその力を奪い取る。
【複製により、スキル<闇影の姿>を獲得しました】
「”闇影の姿”」
輪郭が黒に包まれ、空間自体が隔離されたように染まる。
そのまま、俺の姿は壁の中へと消えていった。
向かうのは、全ての原点。
魔法が、世界が、人々が、理を統べる者達の住まう理想郷。
人の身では向かうことは出来ず、人の身から外れることは縛られる。
矛盾を超越した者のみが集うその世界の扉を、俺が改変させてやる。
_矛盾?人の身?知らない。
__歯向かう者全てを滅ぼせば良いだけだ。
「”超越”」
【人外機能スキルを確認しました。エラーを感知、対象を排除モードへ移行します】
身体から、闇と光が迸り、肉を抉り、骨を砕こうと暴れもがく。
痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
並べられる言葉は、その全てが痛いに変換されるようにも感じる。
「……………全て、打ち払う!!!」
声を一声出すだけで、ほとんどの体力を持っていかれた。
でも、生きてる。
「生きてるんだッ!!」
―肉体は?
「ある!!」
ー身体は?
「まだ動く!!」
―動けるのか?
「動かせるだろ!!」
―諦めたらどうだ?
「ハッ!!身体がある!!動かせる!!痛いのは弱いから!!……なら!!!諦めるには遥かに遠い」
恋人のために、こんな犠牲を払う必要なんて無い、そう言われるかもしれない。
そんな些細なことで。そう思われるかもしれない。
でも、もうこの世界で誰かを失うのは嫌だ。
俺を、俺を信頼してくれた人が、愛してくれた人が傷付くなら、例え理不尽だろうと捻り潰す。
ふと、何処かから、懐かしい記憶が蘇ってきた。
死ぬ寸前で蘇る記憶とは、またまた厳しい条件を付けられたものだ。
「でも、この状況にはありがたいね……!!」
思い出した。全てを。
この世界を。俺を。
『垂れ流せ業火よ 平伏せ激流よ 燃え盛れ大気よ 迸れ大地よ 暴れ狂え光よ 粛清せよ闇』
『全てを支配し、管理し、統治し、導く我を 全ての理を超越し、翻す我を』
『称え 崇拝し 拝み 平伏し 頭を垂れ』
『見上げよ そして、畏怖せよ』
『決して届かぬ天があるのなら、その頂点を打ち砕く』
『我は覇者であり、王である』
『今この時より、全てを革命する』
『創造神の名において、汝の世を正さん』
迸る光と闇は、何時しか俺に付き従うように、浮遊していた。
既に、この場所は屋敷の外だというのは忘れないでほしい。
◆◇◆◇◆
「嘘ッ……!?」
アールンの庭園で、ミュアは静かに、しかしハッキリと驚愕の言葉を零した。
彼女の視線の先にあるのは、ある人物の封印された記憶の波長を表すグラフだ。
封印されている間、そのグラフは一定の高さを維持し、刺激されることに比例して山が形成されていく。
その山は、数ヶ月前から少しずつだが変化を示していた。
それは、神による契約において、決して有り得ないことなのだが、今の現状はさらに有り得ないことであった。
「契約が、破壊された…!?」
グラフは、封印状態を示す域を完全に超過して、今も尚、急速に刺激されている。
と、同時に、下界からミュアの存在すら塵にも等しく思えるほどの力が溢れた。
間違いなく、ミュアの想う相手である人物の力だ。
確認せずとも、ミュアには理解出来た。
理解出来たからこそ、納得出来なかった。
この結果が、彼自身の編み出した理を、彼自身が打ち砕くという行為が。
「行かなくちゃッ!!セラ!!!」
蒼い光となって下界へと降り注ぐミュアの隣には、同じく赤い光が降り注いでいた。
神々が下界という世界へと降り立つ時は、目前に迫っていた。
これから始まるのは、世界を巻き込んだ戦い。
たった5時間という短い時間の中に生まれた、神々の戦いが、今、始まろうとしていた。
世界の頂点に立つ神が、人の身で愛した者のために戦う。
神の身で愛した者が、人の身で愛した者が、その両者が集うのは、邂逅するのは、そう遠くない未来である。
まだ不確定な星の中を行き交う少年少女の運命は、決して定められたものではない。
神という存在もまた、その思いは決して人と変わらないはずだ。
EXストーリー<創造神と神々、人々と世界は未来へと>
______________________________________




