屋敷で、再びの決意を
翌日、俺とカレンは国王の下で密会を行っていた。
正確には、俺とカレンが国王に会いに来たので、密会が始まった訳だが。
「それで、どうしたのだ?」
「いえ。実は、住む家が無いことに今更気付きまして。それで、国王様に頼もうと思って来たんですよ」
「………フフ、フフフッ。そうか、そうか!!やはり、どんなに優れた人物でも、まだ子供か」
妙に納得した顔で嬉しそうにする国王を見て、若干引いたのは内緒だ。
何しろ、国王が此処までフレンドリーだとは思わなかったのだから。
「だが、それならクルスの家に居れば良いのではないか?」
「それでも良いんですけど、カレンと一日中過ごすなら、新しい家の方が良いかなぁ?と」
隣で、軽く悶えているカレンを可愛らしく思いながら、もう一度国王を見る。
やはり、嬉しそうな顔だ。
「ならば、わしがしっかりと良い家を選ぼう。それまでは、クルスのところで待っていてくれるか?」
「それならば、よろこんで」
そう告げて、俺と国王の密会は終わった。
振り返れば、随分と短い密会だったなぁ、と内心で呟くのだった。
◆◇◆◇◆
屋敷に戻って来ると、相変わらずのクルスさんの趣味全開屋敷が待っていた。
それを見て、俺とカレンも呆れたように息を吐き、扉を開いた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「戻りました」
すぐに出迎えてくれた執事の男性に返事を返してから、俺は部屋へと向かった。
一応、俺が寝泊りだけには使っていた部屋があるのだ。
途中の通路でカレンと分かれてやってきた部屋は、以前と何も変わっていなかった。
少し大きめの部屋に、豪華なベッドとタンス、そしてソファとテーブルがあるだけの、生活感を感じさせない部屋。
それでも、俺にとっては思い入れが無いわけではない。
この部屋は、俺が2年間の修行で、かなりの回数、癒しを与えてくれた部屋だ。
例えそれが、生活感が少なかろうが、俺が此処で寝たという事実は変わらない。
軽く感慨深い内心に苦笑しながら、俺は久しぶりのソファに腰を下ろした。
思えば、暫く疲れる出来事が続いていた気がする。
そんなことを考えていたからだろうか。
部屋の扉がノックされているのにも、俺は気付かないでいた。
それどころか、だんだんと眠くなってきている。
(ああ……呼ばれているなぁ。でも、もう、無理……)
襲い掛かる睡魔に身を委ねて、俺は意識を手放した。
深い眠りが俺を包み、深い眠りに誘う。
俺の頭が若干動かされ、何か柔らかいモノに乗せられた。
同時に、頭が何かに撫でられ、幸せに感じたと同時に、本当に意識は眠っていった。
疲れは、思いのほか多かったようだ。
◆◇◆◇◆
「お疲れ様でした」
私の膝の上で、幸せそうに眠るリュウの顔を見て、私は微笑みながらそう告げた。
今日まで、リュウは本当に頑張った。
不可解な痛みや激痛、戦争にも巻き込まれたのに、私のフォローも最後までしてくれた。
なら、今度は私がリュウの疲れを取る番です。
「ふふっ♪」
幸せそうに、頬を緩ませるリュウを見て、私は暖かい気持ちになりました。
私のことを、ちゃんと必要だと思って、感じてくれているリュウが、愛おしく感じる。
リュウの中に生きる私は、ちゃんと一番に思われていると実感出来るのが、酷く幸せでした。
思えば、リュウは馬車の中でも酷い頭痛に見舞われていました。
それなのに、謁見や私との会話に華を咲かせてくれて。
本当に、リュウ君は優しくて、私の皇子様に感じます。
――だからこそ。
「…………バカッ」
思わず呟いた言葉は、自分でも驚くほどに、悲鳴に近い様に感じました。
ふと、頬を流れる涙に気付いて。
それでも、疲れ果てたリュウは、目覚めることはありませんでした。
私を一番に考えてくれたリュウが、私にすら気付かないで寝てしまう状態。
そう考えると、私の口から零れる言葉は、止まりそうになかった。
「どうして!どうして何時も私の事を考えるの?リュウは、リュウは!!」
出来るのなら、この思いを、感情を、言葉に乗せたい。
でも、私には無理だった。
それ程までに、私はリュウを愛している。
リュウがその愛を知ってなお、私のために己を削ることを責めることは、私には出来ない。
いや、違う。
私には、そんなリュウに思いを伝える、勇気・・が無いだけだ。
リュウを思う程に、それに比例するように私の中で自分を非違してしまう。
最近は、ふとした拍子に思ってしまうのだ。
_私には、この人に見合う価値があるのだろうか。
と。
リュウには、公爵という地位でも到底足りない”力”がある。
私よりも、綺麗で美しい、聖女のような女性を選ぶ”権利”もある。
それを蹴ってなお、私と一生を過ごす価値を、私が与えられているのだろうか。
そう考えると、私にはリュウに思いを伝えることなんて出来なかった。
言葉が、詰まる。
喉の奥まで出掛かっていた言葉が、その寸前で、まるで燃料が切れた火のように、だんだんと弱くなっていく。
「どうしたら良いの?」
代わりに出たのは、酷く弱々しい、私の本音だった。




