死線と決意
前回、大それた事を言いましたが、すぐに始まるとは言ってませんよ?
ほのぼの回だって存在するんです。
何気に自分、一話まるごとほのぼのにしたことなかったので・・・・・・・・
それでは、本編をどうぞ。
____________________________________
王都へと帰還した俺達を待っていたのは、王国民による盛大な宴会だった。
既に、勝利したという報告が伝わっていたのだろう。
ほとんどの国民が街道で屋台を囲み、騒ぎ明かしていた。
そんな姿を馬車の中から、俺とカレンは眺めていた。
俺の右手と、カレンの左手は握られている。
第一としては、俺が安心するためだ。
「リュウ。私も、こんな街でデート出来るでしょうか?」
「…出来るよ。カレンは、俺の最愛の彼女なんだから」
「あぅ~~」
カレンの手から伝わる体温だ高くなったのを感じ取りながら、俺は視線を夜の街並みに彷徨わせた。
こうやって、酷く穏やかな世界が、まるで自分からは一枚の透明な壁で隔たれているように感じる。
手を伸ばせば届きそうで、声を掛ければ誰かが此方に笑顔を返してくれる。
なのに、手は透明な壁に阻まれて、声は喉から先が出ない。
(思えば、遠い場所まで来てるんだね)
振り返った道には、たくさんの血が流れているだろう。
それら全てを背負って生きる覚悟が、果たして俺にはあるんだろうか。
握っている右手に無意識に力が入ったのを感じながら、俺はさらに思考を続けた。
この手が、もし、失われてしまいそうになった時、俺は、その隣で守ることが出来るだろうか。
この手が俺を振り払った時、俺の立っているこの場所は支えていられるのだろうか。
足元を見ると、まるで奈落のように真っ黒に染まった空間が、俺の真下に広がっていた。
(怖い怖い怖い……)
まるで、透明の板の上に立っているように、俺は落ちることは無かった。
それが、握られた腕だろいうのが分からないほど、俺は阿呆ではない。
でも、じゃあ、この腕が無くなってしまったら、どうなってしまうのだろうか。
(嫌だ!!)
強く、強く、激しく、心の奥が揺れた。
心なしか、動悸が早くなるのを感じる。
身体の芯が冷めていくように、外側だけが熱くなる。
額に、冷や汗が流れているのに、やっと俺は気付いた。
そして、俺は握られた腕を見た。
そこには、俺よりも一回り小さくて、それでいて愛らしい2本の腕が、しっかりと俺を掴んでいた。
身体の奥が、少しだけ暖かくなった気がする。
でも――
でも、もしこの腕が取り払われて、国王に狙われて、この笑顔が見られなくなったら、俺は正気でいられるだろうか?先ほどから、同じことが頭の中で繰り返されていく。
それでも、どんどんと浮かんでくる恐怖に、本能から考えいってしまうのだ。
この腕が傷つけられる時、目の前に俺がいて、何も出来ずに消えていく様を見てしまったらどうなるんだろう?
(嫌だ。怖い。嫌だ。怖い)
フッ、と、熱さも寒さも一瞬で無くなった。
ゆっくりと視界を開けると、そこは何処だろうか。よく分からない場所だった。
白いだけの空間と、1人の男。
そして、その隣に立って、嬉しそうに、幸せそうに笑う女性。
見覚えの無い光景だ。
なのに、これが懐かしくて、今すぐに抱きしめたく感じる。
でも、身体は何も動かない。
何も無い空間に、1人取り残されたようだった。
自分の存在が、意識が、希薄になっていくのを感じた。
ゆっくりと、しかし着実と、瞼が閉じていく。
このまま瞳を閉じれば、最高の心地良さを感じられる気がする。
――なのに、なんでこんなにも拒絶するのだろう。
「シュン!!!!」
___________________________
バッ、と顔を上げた俺が前を見ると、そこには酷く心配した顔のカレンが座っていた。
しかし、姿だけを見ると、カレンは俺に抱きついていたようにも感じられる。
そこで、俺は自分の身体の異常に気が付いた。
(透明?)
色が、淡くなり、まるで幽霊になる寸前かのように消えかかっていた。
しかしそれも、今俺が視認を始めてからか、だんだんと色が戻っていくようだった。
それを見て、カレンはまた、安堵したように笑った。
そんなカレンを見て、俺は無言で抱きついた。
抱きしめたんじゃない。抱きついた。
カレンの身体に身を委ねるように、全ての力を抜いて、カレンへと抱きついた。
「ごめん」
「次からは、止めてくださいね?」
「うん」
心細いのが自分でも分かるくらいに、俺は静かに頷いた。
それでも、今はもう、先ほどまでの不安は消えていた。
導き出した答えは簡単だ。
「絶対に、離さない」
「ッ!!………私も、離しません」
静かに、しかし暖かく、夜は過ぎていった。
ちなみに、2人は何も気にせず同じベッドで寝るということをして、翌日に悶え死にそうになったのは余談だ。
_______________________________
別に、今回ほのぼのするなんて言ってませんよ?
これから、偶に一話まるごと出来れば良いなぁ、と思っています。
とりあえず目下は、ほのぼのって結局何するのかの勉強ですかね。
それでは、また次回。




