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world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
戦争編
58/101

5日目

戦争開始から五日目の今日。

俺達は、既に王国へと帰路に着いていた。

此処で、何故、というのは2つに分かれるだろう。


まず、何故、王国への帰路に着くのか、という疑問だ。

これは、単純に帝国の片付けが終わったからだ。

用も無いのに砦に居座る必要も無い。


次に、何故、”帰路”なのか、という質問だ。

これは、生き残った兵士達が関係している。

流石の俺でも、1000の兵士を転移で運ぶことは不可能だ。


何回かに分ければ可能かもしれないが、それも却下である。

理由は、カレンがゆっくりと帰りたいから、だそうだ。

勿論、カレンがそうしたのだから俺もそうする。


となると、必然的に兵士達も徒歩での帰還となるわけだ。

ただ、今日の夜になる前には転移で帰ることになっている。

特別な道具、つまりテントなども無しに野宿するのは嫌だし、カレンにもそんなことはさせたくない。


「緑が綺麗ですね~!」


「そうだね」


子供のように、瞳を輝かせて歩くカレンは、かなり上機嫌だ。

昨日、俺が眠った後から、カレンはずっと嬉しそうにしている。

時折、頬に手を当てて悶えているときもある。


その姿を見て、俺は目の保養になっているのだが。

それにしても、最近カレンへの愛情が高くなってきている気がする。

というより、カレンがいないのなら………


と考えてしまいそうな自分が怖い。

そんなことを内心で考えつつ、俺も周囲の景色へと意識を移した。

俺とカレンだけは、残っていた馬車に乗って移動している。


その後方に、大量の兵士達がついてきている、という感じだ。

此処も、昨日のカレンの魔法で破壊された森の一部なのだが、俺の魔法によって完璧に回復している。

やはり、魔法というのは便利だ。


日差しが木々を照らし、草花からは心地良い香りが漂う。

喉かな雰囲気というのは、やはり良い。


「綺麗だね」


「へっ!?……あ、え、た、確かに、綺麗です、ね?」


俺が呟くと、カレンは顔を真っ赤にしてうろたえた。

その姿を見て、俺は頬を緩ませながら、この光景を目に留めようとした。

いつまでも、こんな時間が続きますように、と。


ふと、無償にカレンが愛おしく思えた。

無意識に、そう、まるで自然に、俺はカレンを抱きしめていた。


「ふぇ?」


当の本人は、顔を真っ赤にして戸惑うだけだが。

俺は、そんなこともお構いなしに、絶対に手放さないように、抱きしめた。

何時か、離れてしまう時があるかもしれない。


その時、俺が絶対にカレンを離さないでいられるように。

以前は、前世では、出来なかったから。


「大好きだよ……」


静かに、囁くように、それでも、心の中の感情全てを押し出すように、そう告げた。

それは、酷く枯れそうな声だったのは、印象的だ。


その声に、何かを感じ取ったのか。

カレンは、俺の背中へと腕を回し、しっかりと抱きしめてきた。

暖かくて、幸せで。


――何よりも、安心出来た。


此処に、俺の腕の中にいるカレンは、今も此処にいてくれるんだ、と。

そう、実感出来ることが、酷く嬉しかった。

腕に込める力が、少しだけ強くなったことに、俺は気付かない。


ただ、この瞬間を本当に愛しているから。


チリン~♪チリン~♪


(ああ、懐かしい…………!)


耳に透き通るように聞こえてきた音に、俺は感覚を委ねた。

酷く懐かしくて、酷く愛した音だ。

この音が、俺を――


俺を――


俺を――――!!


「痛いッ!!!!!」


「きゃ!?ど、どうしたの!?」


ズキン!!!


頭が割れるような痛みを感じて、俺はカレンを軽く突き飛ばしてしまった。

謝らなければいけないが、それどころではない。

頭が、尋常では無いほどの痛みを訴えている。


まるで、先ほどの記憶を封印するかのように。

ただ、だんだんと痛みは和らいでいった。

同時に、余裕の出来た俺には疑問が浮かび上がってくる。


(あんな記憶、俺には無い……?)


そう、先ほど、懐かしいと感じた音だが、俺には何の関係も無いはずなのだ。

なのに、俺には懐かしいと感じた。

それを確認する術は、先ほどのように強引に考えることだろうが。


俺には無理だ。

すぐに思考を放棄して、未だに戸惑うカレンに振り返る。


「ごめん。なんか、急に頭が痛くなって……ごめん」


「だ、大丈夫です。リュウこそ、大丈夫ですか?」


「ああ、うん。大丈夫」


そう言って笑いかけると、カレンも微笑みを取り戻してくれた。



こうして、王都への帰還は、俺とカレンに疑問を抱かせたまま幕を閉じた。

___________________


これでこの章は終わりだが、物語は此処から始まる、かもしれない。

これを読む君には、この先がどうなるのかは想像出来ないだろう?

それと同じように、この先が分かるのは、きっと、神でもないはずだと思う。


2人が生きていくこの世界。

そして、この時代では、新たな転機が訪れようとしている。

その兆しは、既に開始されていたはずだ。


これからも、この先も――




              THE 戦争編 完

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