5日目
戦争開始から五日目の今日。
俺達は、既に王国へと帰路に着いていた。
此処で、何故、というのは2つに分かれるだろう。
まず、何故、王国への帰路に着くのか、という疑問だ。
これは、単純に帝国の片付けが終わったからだ。
用も無いのに砦に居座る必要も無い。
次に、何故、”帰路”なのか、という質問だ。
これは、生き残った兵士達が関係している。
流石の俺でも、1000の兵士を転移で運ぶことは不可能だ。
何回かに分ければ可能かもしれないが、それも却下である。
理由は、カレンがゆっくりと帰りたいから、だそうだ。
勿論、カレンがそうしたのだから俺もそうする。
となると、必然的に兵士達も徒歩での帰還となるわけだ。
ただ、今日の夜になる前には転移で帰ることになっている。
特別な道具、つまりテントなども無しに野宿するのは嫌だし、カレンにもそんなことはさせたくない。
「緑が綺麗ですね~!」
「そうだね」
子供のように、瞳を輝かせて歩くカレンは、かなり上機嫌だ。
昨日、俺が眠った後から、カレンはずっと嬉しそうにしている。
時折、頬に手を当てて悶えているときもある。
その姿を見て、俺は目の保養になっているのだが。
それにしても、最近カレンへの愛情が高くなってきている気がする。
というより、カレンがいないのなら………
と考えてしまいそうな自分が怖い。
そんなことを内心で考えつつ、俺も周囲の景色へと意識を移した。
俺とカレンだけは、残っていた馬車に乗って移動している。
その後方に、大量の兵士達がついてきている、という感じだ。
此処も、昨日のカレンの魔法で破壊された森の一部なのだが、俺の魔法によって完璧に回復している。
やはり、魔法というのは便利だ。
日差しが木々を照らし、草花からは心地良い香りが漂う。
喉かな雰囲気というのは、やはり良い。
「綺麗だね」
「へっ!?……あ、え、た、確かに、綺麗です、ね?」
俺が呟くと、カレンは顔を真っ赤にしてうろたえた。
その姿を見て、俺は頬を緩ませながら、この光景を目に留めようとした。
いつまでも、こんな時間が続きますように、と。
ふと、無償にカレンが愛おしく思えた。
無意識に、そう、まるで自然に、俺はカレンを抱きしめていた。
「ふぇ?」
当の本人は、顔を真っ赤にして戸惑うだけだが。
俺は、そんなこともお構いなしに、絶対に手放さないように、抱きしめた。
何時か、離れてしまう時があるかもしれない。
その時、俺が絶対にカレンを離さないでいられるように。
以前は、前世では、出来なかったから。
「大好きだよ……」
静かに、囁くように、それでも、心の中の感情全てを押し出すように、そう告げた。
それは、酷く枯れそうな声だったのは、印象的だ。
その声に、何かを感じ取ったのか。
カレンは、俺の背中へと腕を回し、しっかりと抱きしめてきた。
暖かくて、幸せで。
――何よりも、安心出来た。
此処に、俺の腕の中にいるカレンは、今も此処にいてくれるんだ、と。
そう、実感出来ることが、酷く嬉しかった。
腕に込める力が、少しだけ強くなったことに、俺は気付かない。
ただ、この瞬間を本当に愛しているから。
チリン~♪チリン~♪
(ああ、懐かしい…………!)
耳に透き通るように聞こえてきた音に、俺は感覚を委ねた。
酷く懐かしくて、酷く愛した音だ。
この音が、俺を――
俺を――
俺を――――!!
「痛いッ!!!!!」
「きゃ!?ど、どうしたの!?」
ズキン!!!
頭が割れるような痛みを感じて、俺はカレンを軽く突き飛ばしてしまった。
謝らなければいけないが、それどころではない。
頭が、尋常では無いほどの痛みを訴えている。
まるで、先ほどの記憶を封印するかのように。
ただ、だんだんと痛みは和らいでいった。
同時に、余裕の出来た俺には疑問が浮かび上がってくる。
(あんな記憶、俺には無い……?)
そう、先ほど、懐かしいと感じた音だが、俺には何の関係も無いはずなのだ。
なのに、俺には懐かしいと感じた。
それを確認する術は、先ほどのように強引に考えることだろうが。
俺には無理だ。
すぐに思考を放棄して、未だに戸惑うカレンに振り返る。
「ごめん。なんか、急に頭が痛くなって……ごめん」
「だ、大丈夫です。リュウこそ、大丈夫ですか?」
「ああ、うん。大丈夫」
そう言って笑いかけると、カレンも微笑みを取り戻してくれた。
こうして、王都への帰還は、俺とカレンに疑問を抱かせたまま幕を閉じた。
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これでこの章は終わりだが、物語は此処から始まる、かもしれない。
これを読む君には、この先がどうなるのかは想像出来ないだろう?
それと同じように、この先が分かるのは、きっと、神でもないはずだと思う。
2人が生きていくこの世界。
そして、この時代では、新たな転機が訪れようとしている。
その兆しは、既に開始されていたはずだ。
これからも、この先も――
THE 戦争編 完




