戦争開幕
ゼスファイア帝国とレビテント王国の国境は、以外にも平原で分かれている。
これは、ある事件が切っ掛けらしいのだが、その情報は貰っていない。
その、国境にある砦の中で、俺とカレンは暇潰し模擬戦をしていた。
「フッ!!」
「ハアッ!!」
気合の声が響き、前方から鋭い氷の刃が迫る。
それを、同じ氷の刃で防ぐと、その先から剣先が迫ってきた。
それに合わせるように右手に握った雷剣を目前に置くと、剣と剣が衝突した。
暴風が撒き荒れ、床が抉られる。
煙が晴れると、剣の先には誰もいなかった。
しかし、その程度は既に理解している。
飛来した剣は、安物の剣だったようで、すぐに粉々になった。
同時に、背後から迫り来る氷剣を避けると、前方から魔力弾が飛来する。
それを切り裂くと、一歩遅れて刃が喉元に迫っていた。
「クッ!!」
短く息を漏らして、後方の床に向けて跳躍する。
此処ならば、ギリギリで魔法が届かない距離だ。
予想通り、目前で停止した氷の横を走りぬけ、その先にいるカレンに飛び掛る。
大きく跳躍し、剣を振り上げ、周囲に魔法陣を展開する。
迎え撃つカレンも、同様に魔法陣を周囲に張り巡らさせた。
間合いに俺の身体が侵入した途端、魔法陣から氷が放射される。
後方にあった魔法陣は、別口の焔に壊されている。
(ならッ!!)
「魔技”圧縮光”!!」
「反則でしょ!?」
「知らん!!」
後方から飛来した光の光線をその身に受け、多大なダメージとともに周囲の魔法は霧散する。
さらに、速度上昇付きのこの技は、諸刃の剣に近い。
一瞬でカレンの目前まで”吹き飛び”、剣を振り下ろした。
「喰らえッ!!!!」
「クッ!」
振り下ろした剣は、寸分違わずにカレンの目前で停止した。
その途端、カレンの周囲に展開していた魔法陣も崩壊する。
光の光線も、既に跡形も無く消えていた。
俺の、勝利ということだ。
「やっぱり、魔技を使うのは反則じゃないかしら」
「いや、全力で戦うのが目的だったでしょ!?」
少し負けた事に不満がるようなカレンだが、その顔は晴れ晴れとしている。
やはり、全力の戦闘は気持ちよいものだ。
ただ、注意しないといけないことが一つ。
戦闘狂じゃないからね?
これを忘れてはならない。
とりあえず、勝った俺も、負けたカレンも消耗がるので、床に腰を付けて座った。
流石に寝転がることはしないが、少しは疲れもある。
そこへ、兵士の一人がやってきた。
「ゼスファイア帝国の先鋒が現れました!数は十万ほどです!!」
「了解!!」
元気に返事を返して、俺は立ち上がった。
カレンも、若干苦笑いをしながら立ち上がった。
「これから、リュウと戦う敵兵に同情するわ」
「いやいや、きっとゼスファイア帝国も強い兵士だって!」
そう反論するが、流石に俺と同等の兵士だったらレビテント王国は滅亡だろう。
そのために、俺は負けることは許されないのだ。
まあ、負けた場合は別の大陸に逃げるしか無いんだけど。
とりあえず、様子見も兼ねて砦から出ることにした。
要塞と謳われるこの砦の戦い方で、しっかりと圧倒したいと思う。
空は青く、太陽は燦燦と輝いている。
外からは兵士達の鼓舞が聞こえ、空気を震わす。
帝国との戦争を大きく揺るがす戦いが、始まろうとしていた。




