冬の一時
空気が冷え込み、草木が枯れる冬。
この時期は、レビテント王国に雪が降るという。
「わぁっ!!雪って、こんなに綺麗なのね……」
降り積もり、今も尚降る雪を見て、カレンが声をあげた。
その瞳を輝かせて、歳相応の愛らしい姿を見せている。
こうして、子供らしく可愛い姿を見るのは珍しいことなので、それだけで雪に感謝だ。
(ナイス雪!!)
そうやって心の中で感謝しながら、窓の外を眺めた。
「私も、こんなに身近で見るのは初めてです!!」
カレン同様に嬉々とした声が聞こえて隣を見れば、シオンもまた、顔を輝かせて雪を見ていた。
学園の中からは雪が見え辛いようだが、この家からなら目前に見える。
それよりも、シオンが雪を始めて見たというのが驚いた。
「以前までは、王宮の窓からでしたし、何よりも雪自体が数年に一度しか降らないのです」
そう言われると納得する。
確かに、日本でも雪が降ると懐かしく高揚した気がする。
「どうしたの?そんな珍しい顔をして」
「ん?」
「何だか、中年のオジさんが若い頃を思い出してる時の顔をしてたわ」
(カレンには一体何の能力が備わったのだろうか)
それについて深く触れたかったが、触らぬ神に祟り無しだ。
なんとか我慢して、無理矢理話題を変更した。
「そんなことより、せっかく雪が降ったんだ。少し外に出てくるよ」
「そう?私は寒いのは苦手だから。此処で待ってるわ」
「じゃあ、行ってきます」
「ええ」
そう告げて、俺は家から出た。
目指すは王都の街中、買い物に行くのだ。
一方、残ったシオンとカレンの二人も、顔を寄せ合って会話をしていた。
「駄目だったわ…………」
「でも、あの顔はかなり大切な用事そうだったでしょう?」
「それでも、なんだかショックは受けるのよ」
「う~ん」
二人が話しているのは、先ほどのカレンとリュウの会話である。
カレンとリュウの関係進展のために、もっと仲良くなるように世話の良い婚約者になろうとカレンも頑張っているのだ。
今回のも、その一例として、別れ際に抱擁を期待した行動だったのだが、まったくの無意味であった。
「そもそも、リュウさんがその手の知識があるのか怪しいんですよね」
「あ、確かに!!」
今気付いたように、目を見開くカレンを見て、シオンは溜息を吐いた。
_何時も、目の前で甘い空間を創る二人なのに。と。
「じゃあ、どうすれば良いのよ?」
「そうですね……………じゃあ、次は何かプレゼントでもあげたらどうですか?」
「………………私、リュウの好み知らない」
「え・・・・・・・・・・・・・・・・」
シオンの難儀は、このあとも続いた。
一方その頃、街並みを歩いていた俺は、幾つかの露店を既に回っていた。
ただ、良い物が無いために今は何も買っていない。
せめて、綺麗な鉱石や宝石、アクセサリとかがあると嬉しいのだけど。
(まあ、期待しても残りは作る人次第だから・・・・・・・・・・・・・・・)
そこで、重大な事に気がついた。
(あれ?自分で作れば良いのでは?)
その手の知識は無いから、既存のアクセサリに填め込むか装着させる方向で。
宝石は魔力石を作ればコストの削減になって、作業も捗る。
よし、そうと決まれば早速行動開始だ。
残り数店を見回ってからその場を後にして、俺は王都から出た。
問題があるとすれば、時間の問題だ。
今は日暮れ前、アクセサリを作るのに一時間は大目に見るとして、残される時間は多分二時間。
此処から洞窟までは、徒歩で片道四時間。馬車で片道二時間。
まったくと言って良い程間に合わない。
まあ、最後まで粘って、無理だったら遅刻と説教を覚悟しよう。
「”限界突破”」
身体に纏われた色とりどりの粒子によって、身体が軽くなった。
目標に向けて、屈み込み、地面を蹴る。
ドォン!
軽い爆発に近い現象が発生するが、今は無視だ。
そのまま、全力は出さずに走り続ける。
平原が風のように流れていく。
風が突風にように身体に当たり、抵抗してくる。
だが__
(足りないッ!!)
この速度でも、二時間以内に帰って来るのは不可能だ。
なら、全てを使うまで。
『吹き荒れる風よ』
『迸る雷の速度を以って』
『己が願う、大いなる時間を狂わせ』
『謳え謳え』
『一瞬の時を最速で』
『__”風神の加護”』
発動した魔法によって、速度が大幅に上昇する。
いや、大幅ではなく、桁違いに上昇した。
そのまま、目的の洞窟に向けて、駆ける。
今回は此処で終わりで、次からはまったく別の話が始まります。
この話は、最初は普通に書いたのですが、終わりが遠そうに感じたので、区切りました。
読者の皆様から、続きが欲しい、という意見が出たならば、書こうと考えています。




