VS団長×2(後)
二人の団長を蝕む天光の効果は、確かに強力だが、決定的なダメージは生み出せない。
この魔法が効果を発揮するのは、その小さなダメージが蓄積した結果だ。
「シッ!!」
短い吐息とともに加速し、騎士団長との距離を詰める。
まだ、天光によるダメージはほとんど害となっていないだろう。
「だがッ!!」
両手で握った炎剣を振り下ろすと同時に、その柄を離した。
剣を受け止めた団長は、その瞳を見開く。
俺の剣の威力が、あまりにも”軽かった”からだ。
実際は、少しは重量を感じるのだが、今の状況では無理だ。
何故なら、それが天光による”遅効性”のダメージなのだから。
今、団長の筋肉には無駄な力みが起きている。
ならば、その異常な力で、自滅してもらうのが作戦だ。
空中に剣を躍らせている俺は、低くしゃがみ、回し蹴りを行った。
高速で放たれたその攻撃は、重い一撃を放って隙の出来た団長の腹に__
ガンッ!!
__当たる寸前に、遠方から放たれた雷に衝突した。
足にかなりのダメージがあるが、騎士団長にもダメージは入った。
俺の、威力は落ちたが回し蹴りと、雷のダメージだ。
しかし、当初の予想よりは軽いダメージになってしまった。
後方に吹き飛んだ騎士団長だが、両手に握った剣を地面に突き立ててその速度を落とした。
地面が抉れ、跡が残った先では、騎士団長が僅かに肩を上下させて立っている。
腰を低くし、体勢を整えた俺は、そのまま地面を疾駆する。
雷の攻撃での阻止は期待出来ないだろう。
なにせ、”雷の瞬撃”によって生み出した雷によって攻撃されているのだから。
この魔法は、瞬間的に超高速の雷を生み出し、放出する魔法だ。
それを、魔道師団長を囲うように大量に発生させた。
一瞬程度の隙しかつくれないだろうが、今はそれで充分だ。
_この一瞬で、決める!!
地面を蹴る度に巻き起こる煙から、速度の方は想像出来るだろう。
騎士団長は、引き攣った笑みをしながら、俺に対して構えていた。
_この一撃で、決まる。
俺は、この一撃のためだけの切り札をきることにした。
最大の敬意と賞賛を示して、これで相対しようではないか。
俺は、右手で炎剣を握り、左手を空中に躍らせた。
その掌から、新たな炎剣が生まれ、その柄を握る。
瞬間、右手の炎剣の魔力が僅かに落ちていくようになった。
このように、炎剣は二本の同時召喚は不可能だ。
しかし、一瞬だけなら、一撃だけなら、二刀流という二撃を放つことが出来る。
騎士団長の目前に迫る寸前に、俺は大きく身体を捻った。
回転を身体に巻き起こして、切り払うように、剣を振るう。
「”斬破”!!」
対して、騎士団長も、重い一撃を放ってきた。
俺の進行する途中の空間に、剣を大きく振り下ろそうとしている。
この、どちらの一撃の方が重く、そして早いおかが勝負だ。
「ハアアアアァ!!」
「ハァ!!」
気合の篭った声と、荒い呼吸が響いた。
俺と騎士団長が交差したのは一瞬、そして、刹那。
_勝ったのは、俺だ。
ゆらりと身体を揺らして、騎士団長は地面に倒れ伏した。
一つ、溜息を吐いたその瞬間、俺の周囲から雷が発生した。
「シッ!?」
驚愕すると同時に、嵌められたことにも気付いた。
まさか、魔道師団長が読んでいたとは思わなかった。
雷は、先ほどまで俺のいた場所を直撃し、焼け跡を残して消えた。
それを見て、少しだけ警戒を引き上げながら、俺は周囲を見回した。
しかし、魔道師団長の姿は近くには無いようだった。
ならば、俺からも魔法の応戦をしようではないか。
俺は、周囲に数重の魔法陣を展開した。
静寂が支配し、風だけが吹いている。
_雷が、死角から迫った。
「そこかッ!」
しかし、俺はそれを待っていた。
雷の迫った方角を視線で追うと、そこには魔道師団長の姿がある。
既に”雷足”によって移動を開始したようだが、居場所は分かっている。
俺を狙った雷を、同じく雷を放出することで対処して、魔道師団長の後を追う。
こんな時に、移動強化の魔法が欲しく感じてしまうのは俺の欲望が高いからだろうか。
前方から障害となる魔法が迫ってくるが、その中心を切り裂いて進む。
見ると、魔道師団長も引き攣った笑みを浮かべながら魔法を放っている。
まあ、客観的に見ればかなり恐怖を感じるだろうな。
疾駆する俺に対して、魔道師団長は大規模な範囲魔法に変更した。
このままでは、一方的に負けると判断しての行動なのだから、その経験の豊かさが窺える。
ただ、俺としても発動する魔法が何か分からないので、その前に片付けたいところだ。
その場に、魔法陣だけを残して、俺はまた疾駆し始めた。
「チィ!!!」
魔道師団長の舌打ちが聞こえるが、気にする訳が無い。
右手に握る炎剣を前に突き出し、そのまま突進するように跳躍する。
_当たれッ!!
「”躍斬”!!」
「”雷の舞踏会”!!」
俺の声と同時に、魔道師団長の魔法が発動した。
大きな魔法陣から、様々な形の雷が生み出され、それが俺を襲うように四方から奇襲する。
避ける術は無く、この数を相対するには片手剣では心許ない。
_だが、それを待っていた。
「魔技”圧縮光”!!」
後方から俺を狙う雷が一掃され、さらに俺の全身を包む。
強烈な衝撃が身体を貫き、意識が遠退く感覚とともに、俺は光の速度で加速した。
途中の雷は全て、その光線によって消滅する。
「嘘だろ・・・・・・・・?」
「はあああぁぁぁぁ!!!」
自分を奮い立たせるように叫びながら、俺は魔道師団長に迫った。
白い光が俺と魔道師団長を包み、そして通過していった。
残ったのは、剣を支えにして立っている俺と、倒れ伏した魔道師団長。
俺は、口角を今までで最高に吊り上げて、告げた。
「俺の、勝ちだ!」




