コイビト(3)
今日は遅れずに済みました。というより、早めに投稿させていただきます。
そういえば皆さん、ニュースなどで野菜の不作や魚の不漁を目にすることがあると思います。大変ですよね。料理の主役となる野菜たちが高くなるのは。
けれど自分は思いました。
「このニュース、毎年あるよな」
と。逆に、1年何も無かった年を自分はまだ知りません。
(・・・・・・ッハ!?)
意識が戻るのと同時に、俺は飛び起きた。
見慣れない部屋に、真っ白のベッド。
どうやら、この場所で寝ていたのだろう、ということがわかる。
荒い呼吸をしながら、右手を顔に当てて、記憶を探る。
嫌な夢を見た気がする。
そんな曖昧な感覚と共に、ツンとくる薬品の臭いが鼻に感じた。
そして、此処が学園だと思い出す。
(倒れたのかな・・・・・・・・)
嫌な思考に陥り、そして記憶は途絶えている。
目覚めればベットの上と来れば、倒れたことは必然だろう。
周りを見渡した限り、この部屋に誰もいないことは分かっている。
それ程長い時間眠っていたか、それとも――
「おや、元気になりましたか?」
聞きなれない声に続いて、白衣を着た男性が扉に立っていた。
整っている、と、この世界の人々の顔は大抵が整っているので順位は付けられないが、それでも中々綺麗な顔立ちをしている。
優しそうな雰囲気と、真面目そうな顔を持った人、だろうか。
(そういえば、保険医の人が男性だったような・・・・・・)
あまり先生については知らない上に、未だに2度ほどしか訪れていない医務室だ。
普段怪我をしても回復出来るし、風邪もひいたことはほとんど無い。
その場合も、放課後家に戻って休めば治る程度のモノだ。
「はい、お陰様で元気になりました」
このベッドには疲労回復の付与でもされているのだろうか。
そんな事を考えるくらいに、疲れを感じなかった。
俺の問いに、男性は安心したように微笑みを浮かべた。
「それならば安心です。そういえば、名乗っていませんでしたね。僕の名前はアルフ、この学園で保険医を担当している者です」
今思い出したように名乗り、アルフさんは俺へと視線を投げ掛けてきた。
それにしても、この先生と居ると落ち着くなぁ、と思った。
「俺の名前はリュウです」
「リュウ君、ですか。そういえばドラフ教官が稀代の学生が居ると言っていたような」
これには少し驚きだ。
少なくとも、この学園の生徒・教師ならば俺の名前を耳にしたことはあると思っていた。
なにせ、3年生との模擬戦でも勝利しているくらいだし。
それに、学園外でのこともある。
カレンの事や、緑龍討伐のことなど。
(まあ、知らないから何だという訳でも無いけどね)
そういった特別な事を抜きにすれば、医務室にほとんど来ない俺をアルフさんが知る機会など少ない。
そういう点では、知らないのも無理は無いだろう。
ちなみに、ドラフ教官というのは槍術の教官で、かなり厳しい。
かといって、生徒に無理難題を言うのでは無く、上手い生徒にはしっかりと賞賛も送る。
その時、アルフさんの気配が一瞬にして切り替わった。
保険医としての、真面目な顔だろうか。
「それで、リュウ君。僕には君が予想以上に異常な存在であるように見える」
唐突に切り出された内容は、俺が理解するよりも早くに硬直を招いた。
「それに――」と、アルフさんは続けた。
「君の眼には、何か濁りが見えるよ。まるで、何かに縋っているみたいだ」
「違う!」なんて言葉は、俺の口からは零れなかった。
否定する根拠も、何よりも俺自身の意識がそれを拒んだ。
沈黙する俺を肯定と受け取ったのか、アルフさんは続けた。
「それを間違っているなんて、僕には言う権利は無い。でもね、1つだけ覚えておいてほしい。君の奥底に眠るナニかは、多分僕が思っている以上に強い意志を持っている。それこそ、世界に影響を与えるほどにね。だからこそ、油断してはならない。君がそこまでして大事なナニかがあるのなら、それを蔑ろにしてはならない」
「そうしたら――」と、アルフさんは続けた。
黙るままの俺の耳には、鮮明に聞こえる。
心の底に眠る魂に、直接響くように俺の頭を揺さ振った。
「君自身が、それを消してしまうだろう」
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退院、というよりも、医務室からの解放は思っていたよりも早く終わった。
元から、俺の自然回復力は並ではないことに加えて、もう放課後だったからだ。
そう考えると、俺は長い間夢を見ていたのだな、としみじみと思う。
その内容はまったく思い出せないが、嫌な夢だったことは覚えている。
学園から少し離れた場所にある家を目指しながら、俺は夕焼けの空を見上げた。
夕暮れ時の赤い空が、俺の視界を埋め尽くしていた。
(・・・・・・・・・・・)
考えが纏まらない。
何かを考える意志そのものが、動揺したように硬直しているみたいに感じる。
「休んだのに、また疲れたのかな」
「そう。なら、早く帰りましょう?」
「!?」
思わず呟いてしまった言葉に、背後から声が返された。
無意識に周囲への察知を怠っていたのか、まったく気付いていなかった。
完全に虚を突かれた俺を見て、彼女――カレンは不思議そうに笑う。
「どうしたのよ?まるで変な夢みてるみたいよ」
カレンから見ると、俺はそんな顔をしているらしい。
意識して拗ねたような顔にしてから、俺は言う。
「何でもないよ」
そうすれば、カレンはこう言う。
「む・・・・・私に何か隠し事があるの?あ、分かった!浮気でしょ!」
「違うよ」
ちょっと勘違いの強いカレンの言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
そうすれば、今度はカレンが拗ねた顔になる。
今度は逆だ。
(そうだな・・・・・・・なら、この光景を失うことは、絶対に駄目だな)
そう、固く誓った。
けれど、そんな誓いは儚いくらいに一瞬で破れてしまうのだ。
次回の投稿は9/26(水)です
また、時期は未定ですか新作を出すつもりです。
『異世界魔道師、現代日本に記憶失くして転生する~ある日目覚めた力は喋ることです~』
新作を公開しましたら、報告いたしますので、どうか宜しくお願いします。




