コイビト(2)
えー前回、真に申し訳御座いませんでした。
最近、作者の不手際で楽しみにしてくださる読者の皆様に不快な思いをさせてしまい、真に申し訳御座いません。以後、このようなことが無いように努めたいと思います。
――とある本に書かれた物語だ。
少年は、勇者と呼ばれた。
少年は、救世主と呼ばれた。
少年は、革命を起こし、世界を数世紀分進ませた。
少年は、少年は、少年は、少年は―――
それほどまでの事を成して、少年は唯一の願いが達成出来たのかを知ろうとした。
「昔の、カッコイイ君で居てほしかった」
少年は、泣き叫んだ。
もがいて、悩んで、苦しんで、泣いて、泣いて、泣いて泣いて泣いて・・・・・・
その先で、少年は気付いた。
彼女に以前、「カッコイイ君と付き合いたい」と言われた。
だから、世界を救った。
勇者と呼ばれるまで世界中の人々を助けて回った。
幾つもの厄災を封印した場所で、その原因を討伐したりもした。
闇の組織も救った。
誰もが認める、カッコイイ自分になれた。
けれど、彼女は言った。
昔のカッコイイ自分が良かった、と。
何なんだ。どうしたら良かった。
何が正解だったんだ。
だからこそ、気付いた。
(他人からの言葉なんて、所詮上辺だけのモノ。言葉で感情は、伝わらないんだ)
見てしまった。
この世界で唯一人が人と関わるための言葉の闇を。
考えてしまった。
この世界で最も考えてはいけない矛盾の塊を。
正解など1つも無い、矛盾の塊に。
それに気付いてしまった人は、人でなくなる。
少年も、それに抗うことは出来なかった。
矛盾した考えと、爆発しそうな感情の矛先は、少年自身へと向いた。
神経が薄れるような感覚と、自分が自分でなくなる感覚。
かつて勇者と呼ばれた少年は、いとも容易くその身体の所有権を放棄した。
(認メテ、クレ・・・・・・・俺ハ、頑張ッタンダヨ?何デ?)
ただ、認めてほしかった。
頑張った自分を、幼い自分が抱いた恋の相手に。
彼女に気に入られるように、努力した。
頑張った。他人には達成出来ないことも達成してきた。
――けれど、無駄だった。
矛盾した答えと、爆発した感情の次に向かった先は、愛する彼女だった。
死にたくない恐怖と、本能から泣き叫びながら、彼女は言った。
「お願い、止めて!?どうして、こんな事をするの!?」
だから、少年は吼えるように告げた。
全てを。感情のままに。
叫ぶように、平静な者なら、気付いたかもしれない。
これが、最後の希望なんだと。
認めてほしい。好きだといってほしい。
けれど、彼女は認めてくれない。
悲鳴のように、ソレは喋ったが、それが彼女に理解出来たかは分からない。
言葉を否定するソレに、彼女の言葉は聞こえない。
気付いた時に、彼女の命は風前の灯だった。
薪に残る最後の熱。
燃え広がることはほぼ不可能で、静かに消えていくのを眺めるしかない。
ただ、その姿こそ、最高に綺麗だと感じる者もいるらしい。
「・・・・・・・・・・ごめん、なさい・・・・・・・許して、なんて、私はッ、言えない、ね」
口から血が吐き出される。
生まれて初めて、そして最後の痛み。
自分が死ぬことがこんなにも鮮明に理解出来るものなのかな、と少女は気付いていた。
「貴方、の、こと・・・・が・・、好き、だった・・・・・・・強くて、私だ、けを見てくれてた」
少年は、何も喋らない。
彼女の言葉を否定しているはずなのに、何も無い胸が貫かれたように痛かった。
止めろ。
これ以上その先を言うな。
証明なんて出来ない紛い物で赦しを乞うな。
けれど、少年は釘で止められたかのように動けなかった。
「そん・・・貴方が、好・・・き、だった・・・・・・でも、ね・・・・・私―――」
そこから先の言葉が、続くことは無かった。
右肩から左の腿までを切り裂かれた状態で壁に寄り掛かっていた彼女の腹から、鋭く尖ったものが現れていた。
それが鋭い細剣だと気付くのに、少年はコンマ1秒しか掛からなかった。
ズブッ、と何かを引き裂く音を鳴らしながら、細剣は引き抜かれた。
「あーあ。こんな死ぬ前のガキ殺しても楽しくねぇよ。やっぱ、殺し甲斐が無いとなぁ?」
その細剣の柄を握る男は、明らかに盗賊だった。
此処は村で、近くは山だ。
盗賊が襲いに来るのは当然だろうし、来ない理由もない。
男は、少年を獲物と定めたように気持ち悪い笑みを絶やさないまま歩み寄ってきた。
「あン?怖くて動けないかぃ?あひゃひゃ!」
微動だにしない少年を見て、怖がっていると勘違いした男は、その笑みをさらに濃くする。
気色の悪い三日月の口が、さらに引き伸ばされる。
――変化は、唐突だった。
「―――」
声も無く、男の身体が消滅した。
言葉通り、そこに居た男は、いまや何処を見てもいない。
「まだ、カッコイイ俺になれてないんだ・・・・・・だから、君は俺を認めてくれないんだろ?」
俯いたままの彼女に向けて、少年は話し掛けた。
けれど、喋ることは一切無い。
ギリッ、と少年の口から歯軋りがした。
強く握り締めた右手から、血が滴り落ちる。
「なあ、何とか言ってくれよ?さっきの続きを、教えてくれよ?」
答えは、無い。
「ああ・・・・・・・・・・あああ・・・・・・あああああああああああああああああ!!!!!」
少年の、悲鳴と咆哮が、村全体に響き渡った。
それと同時に、盗賊達は1人残らず首から上を無くした。
倒れた盗賊に村の人が気付く頃になって、何かが通ったように風が吹き荒れる。
「なあ、俺はどうしたら良かったんだ?」
答えは無い。
少年の唯一だった彼女も。
今では全てが消えてなくなった。
「楽しみだなぁ!早く君の身体をくれよっ!僕にその隅々までを見せてくれよ!?
――なあ、リュウ様?」
次回の投稿は、9/22(土)です




