コイビト(1)
前回、【冬の一時~完~】の投稿に関して、自分で言っておきながら投稿を遅れてしまうミスをしたために、早めに投稿することになりました。
今回、1年始めの少しから一瞬で消えていった学園生活のウチの、1つの事件を書きました。
楽しんで頂ければと思います。
学園に入学してから時間が経つのも早いもので、俺達は2年生となっていた。
勿論、3学年あるこの学園では中間に位置するので、上下関係が面倒・・・・・なんてことは無い。
「リュウ君。この資料を運んでくれるかい?」
「分かりました。4階の作詩室ですね?」
「ああ。頼むよ」
3年の先輩である、シュザ先輩は以外とリーダーの素質がある。
俺が丁度何か手伝おうと思う直後に現れ、簡単な仕事を任せていくのだ。
実際、彼の観察力は3年の中でもトップらしく、一部の女子には熱烈なファンクラブも居るとか。
それに、モテる。
これについては、俺よりも友人で同じクラスのシオンの方が詳しい。
以前尋ねたときは、
「そうですね、確か・・・・3年の女子2人と、1年の女子1人、あとは理科の先生と付き合っていると聞いたことがあります」
何というハーレム。
アニメや漫画の主人公でも少ない、恋愛ゲーム並みのモテ度だ。
っていうか、教師との付き合いが露呈していてはダメな気がする。
「それも問題無いですよ。学園長自ら許可したらしいですし」
これもまた補正感漂う出来事だ。
それにしても、此処まで典型的に主人公な人は初めて見た。
まあ、日本に居る訳無いし、此処は異世界なのだから納得は出来る。
シュザ先輩に頼まれた資料を、4階の東側にある作詩室に置く。
この学園の奇妙な所で、誰が使うのか不明な教室が多くある。
作詩室も含めて、冷風室、人形室、定価室、破壊室・・・・・・
この他にも見かける教室は変なモノばかりだ。
「さて、次は中庭にでも出るかなぁ」
作詩室から出た俺は、誰にともなくそう呟く。
勿論、実際に移動する。
近くの階段から2階へ降り、西側の階段へと移動して1階に下りる。
東側からでも行けるのだが、基本的にあの場所は3年生の溜まり場となっているので避けている。
必要なら通るけどね。なんて内心で反論する頃には、1階に着いた。
階段を降りた先は医務室になっており、その左側は非難扉。
必然的に、右へと曲がって昇降口から外へ出た。
そこで、何時もとは違う人の固まりを見つけた。
3年生から1年生までの主に男子が多く固まり、学園の正門に群がっているのだ。
まるで、砂漠で水を見つけたような反応だなぁ。
とは、俺の意見なのだけれど、きっとそれを呟けば無言で魔法が飛来するだろう。
(こういうのは、とりあえず気にしないのが一番かな)
学園にとって何かある出来事なら、後で先生が教えてくれるだろう。
今、急いで知らないといけない事でも無いと思う。
そう考えた俺は、人混みの横を通り抜けるようにして中庭への道を歩く。
途中にある、小さな庭園では3年の先輩で、小柄なリヨン先輩が毎日水やりをしている。
何でも、”植物会話”という魔力適正を持つらしく、文字通り植物なら何でも会話が出来るらしい。
そんな訳で、本人も嬉々としながら花々と談笑している。
リヨン先輩曰く、花との会話は新しいことの発見らしい。
――曰く、2年の男子生徒に踏まれたから呪ってほしい
――曰く、3年の女子が同性愛者だから仲良くしてほしい
――曰く、もっと栄養のある水が欲しい
などなどらしい。
明らかにパシリだ。
けれど、リヨン先輩は構わないらしく、むしろ嬉しそうに願いを聞いている。
・・・・・・・・勿論、栄養のある水の話だ。
っと、そんなリヨン先輩は花との会話中は周りに気付かないので、無視して通っても問題が無い。
何時も楽しそうだな、と思いながら通り抜ける。
此処まで来て、やっと本題の中庭に着いた。
といっても、中庭に特に用事がある訳でもない。
この場所の別名は”恋と破局の庭園”らしいが、俺からすると恐ろしい場所にしか聞こえない。
(破局って、絶対この場所で振られた生徒が多過ぎるのが原因なんだよなぁ)
それもそのはず。
なにせ、この場所はこの学園で最も告白される場所であるためだ。
この、中庭に居れば大抵誰かの告白を聞ける、という噂が広まるくらいには。
それにしても、と俺は思った。
(カレンもこの場所で告白されたのかな?)
お世辞でなくとも、カレンは間違いなく美少女だ。
この歳にしては有り得ない程の綺麗な肌に、背中まである長い赤髪。
艶の通った髪は甘い苺の匂いがする。
顔も驚く程に整っていて、思わず化粧をしていると勘違いする程に素顔も綺麗だ。
勿論、化粧をした時の美しさと可愛らしさは、世界1を主張出来るだろう。
そんなカレンが、思春期盛りの男子が多く通う学園で注目されない訳も無い。
シオンと並ぶ学園の2大美少女とは有名で、それと同時に撃沈した男子生徒の数もトップだ。
その、大量の男子に告白されたカレンは、この場所で、だったのだろうか。
花が咲き誇り、日本の女子なら1度は夢見る幻想的な空間がこの中庭にはある。
今にも白馬に乗った皇子が現れるような妄想が巻き起こることは、男子の俺にも分かる。
それくらいに、この場所は恋愛ものの小説や漫画で多過ぎるくらいに出てくるシーンと酷似している。
こんな場所で告白されたとしたら、カレンは何を思うだろうか?
近くにあったベンチに腰掛け、花畑の中で唯一姿が隠せる告白スポットを眺めながら考えた。
カレンも女子だ。こんなロマンチックな場所で熱烈に告白されたら、時めくのだろうか。
何も感じない訳無いはずだ。女子である上に、場所と告白の内容を含めれば。
(俺以外の男子に、ナニか思うのかな)
その「ナニ」かは分からない。
形にしようとしても上手く表せ無い、複雑な色をしたナニかだ。
(カレンが他の男子に・・・・・・・・)
こんな考えが沸くのは駄目だと分かっている。
恋人という言葉は、世間一般から見える景色とはまったく違う、儚く脆い言葉だ。
言葉という、全てを偽れる軽いモノで感化された感情が、相手に惹かれること。
相手が口する「好き」に篭る感情を知ることは出来ないし、証明することも出来ない。
夫婦のように、”指輪”という形に見える何かがあるから、それを確かめられる。
だから、恋人という言葉に意味は無い。
ただ、相手と自分が証拠の無い両思いで、それを口にしただけの関係。
不意に、恐ろしいほどの冷たさが身体を覆った。
無意識に否定していた、絶対に信じたくない感情。
(・・・・・・・ッ!!)
駄目だ。
嫌な思考に陥るのはよくない。
冷静に、意識をしっかりと。
有り得ない。大丈夫だ。
好きだと、言ってくれる。
(でも、それが何だ?)
止めろ。大丈夫だ。考えるな。
そう思う程に、足元が揺れ動くように見える。
(本当に、カレンは俺の事が好きなのだろうか?)
今までの全てが、嘘なのではないか?
他の誰かの方が好きなのではないか?
もう、どうでも良いのではないか?
存在が稀薄に感じる。
だんだんと、自分自身が薄くなっていく感覚が強くなり、そして――
「ごめんなさい、リュウ。別れましょう」
本編の、【小さな世界と分岐路】より先の更新を楽しみにしてくださる読者の皆様。
申し訳ありません。
続きとして、2話分の書き溜めは完成していますが、自分が投稿に踏ん切りが付きません。
全体的に内容が薄い物語になっているような気がして、少しずつ前の物語を編集、または追加していくことに意識が向いてしまうのです。
申し訳無く思いますが、自分が納得出来る物語になるまで、お待ちして頂けないでしょうか?
閑話を追加したり、本編を大幅加筆修正していくつもりで御座います。
次回の更新は、9/19(水)です。




