部屋までの憂鬱
蒸し暑い空気と風が肌を吹き抜け、遠くの景色が歪んで見える。
公爵家の扉の前は、やはり少し緊張するほどに重々しい雰囲気を放っている。
そこは、カレンの家でもあるため、カレンは既に慣れたようだ。
まったく怖気づかずに、扉をノックした。
暫くして、中からはクルスさんの秘書である男性が出て来た。
「これはこれは。お帰りなさいませ、リュウ様、カレン様」
「ただいま」
「お邪魔します」
丁寧に挨拶されたので、此方も返し、中に入った。
やはり、広くて立派な玄関なのだが、少しだけ、いや、かなり変わっているところがあった。
「この石像、何?」
「旦那様が、リリナ様を自慢するために立てたもので御座います」
「・・・・・・・・・大丈夫?」
「いいえ」
俺の目前に佇む、石のリリナが存在した。
なんというか。物凄くリリナに似ているこの石像。
クルスさんが本当に大丈夫なのか、物凄く心配なのだが。
(いや、大丈夫かな、ホント)
もう、引き攣った笑みを浮かべるしかない俺達は、とりあえず進み始めた。
だがしかし、クルスさんはこれだけでは済まなかったようで。
「この彫刻は?」
「リリナ様の美しさを旦那様が自慢(以下略)」
「あ、そうですか」
◆
「この絵画は?」
「リリナ様の美しさ(以下略)」
「うん・・・・・・・・」
◆
「この部屋は?」
「リリナ(以下略)」
「・・・・・・・・・・・」
◆
~リリナ専用器具~
「・・・・・・・・・・」
「リ(以下略)」
「・・・・・・・・・」
◆
~部屋中リリナの絵画や石像~
「・・・・・・・・・・・・」
「(以下略)」
「・・・・・・・」
◆
~カレンのグラビア石像~
「は?」
「カレン様の魅力を自慢(以下略)」
「撤去よ!!(by カレン)」
※リュウに死守されました。→部屋に飾ってあります。
◆
「ハァ~」
クルスさんの部屋まで来るだけで、物凄く疲れた。
途中、最高な石像もあったが、それでも疲れを感じるほどだ。
いや、クルスさんの身を物凄く心配してしまうよ。
目前にある重厚な扉からは迫力を感じるが、その周囲がその感覚すら忘れさせる。
(リリナ、愛されてるな・・・・・・・・)
壁の至る場所に、リリナの絵画が飾ってあるのだ。
正直、この扉を開いてはいけない気が物凄いしている。
しかし、この扉の先には行かないといけないのだ。
「開けるよ?」
「いいわよ」
二人で頷き合い、ゆっくりと、扉を開いた。
その先に見えるのは、地獄が天国か。
_いざ。
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地下深く、暗闇に包まれた洞窟では、一人の男が立っていた。
その目前にあるのは、多数の死体。
全ての死体からは血が抜かれ、干からびた死体と化している。
「クククッ!まさか、此処まで滑稽だったとはッ!」
そう告げた男の前には、泣き疲れ果てた男が気絶している。
身体の至る所が刻まれているその男は、既に生きているかも怪しい。
その姿を見て、男はさらに笑い声をあげていた。
「このまま、上の学園とか言う阿呆みたいな施設も壊すか?」
その場面を想像して、男はさらに顔を歪ませた。
「ならば、試作品を完成させないとなぁ!」
独り言を呟き、男は目前の男を殺し、洞窟の奥に入っていった。
その先に小さく見えるのは、赤い液体で描かれた魔法陣。
その効果が意味するところを知るのは、男のみである。
こうして、リュウの知らない場所で、準備は進んでいった。
この結果がどうなるのかは、未だ誰にも分からない。




