魔力操作
翌日の学園は、ほぼ何も変わっていない授業だった。
流石に、学園内に侵入した異邦人を殺したのだが、それ自体を隠蔽するつもりのようだった。
とりあえず、この件については不問になったのは幸いだ。
俺は今、家の前にある庭に出て、魔力を使う練習?をしている。
魔力操作を使って、身体を覆うように魔力を動かす。
そうすると、魔力が本体に吸われるように戻ろうとしていくから、それを抑える。
この、抑える、という作業はかなり大変だ。
存在しない、しかも無意識下に放たれる、見えないものを抑えるというのは、無理にも近い。
それを、比較的簡単に出来るのが、魔力操作だ。
身体に戻ろうとする魔力を、暫く抑えていると、次第に俺の身体の回りを移動し始めた。
張り巡らされた魔力は、身体の入り口を探して探し回るのだ。
そして、この状態こそが今の実験で成したかった一番の目的。
__魔力障壁だ。
魔力障壁とは、そのままの意味で、魔力の障壁だ。
これは、対魔法として有効に使えると確信している。
さらに昇華させることも可能だ。
この、纏った魔力を身体の一部に吸収させることで、筋肉が活発になるのだ。
いわば、部分的な身体強化魔法が使える、ということだ。
そんな、色々な使い道のあるこの方法だが、魔力の消費が馬鹿みたいに高い。
しかし、今回はそれが良い方向に作用したようだ。
先程まであった破壊衝動が、かなり抑えられている。
これらの実験?から、俺は一つの案が浮かび上がった。
俺の魔力量が多すぎて、身体の感覚が酔っているのではないか、と。
それならば、この破壊衝動も少しだけ説明が出来る気がする。
とりあえず、ならば魔力の塊を大きくするのはどうだろうか、と考えたのだ。
問題としては、その塊を大きくする手段だ。
魔力総量を増やすのではなく、魔力を入れる器を大きくするのだから、魔法を使うだでは駄目なはずだ。
ならば、一体どうしたら良いのだろうか。
種族という生まれ持った存在を変えることは無理だ。
では、どうすれば良いのだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆
思案は、夜になるまで続いた。
それで、今ちょうどあることに気がついたのだ。
「魔力の器を増やす、とか?」
まったく考えていなかったことだが、無理ではないはずだ。
例えば、”保管庫”のようなものに魔力を収納しておく、とか。
そんなことが、無理だとは決まっていないのだ。
ならば、試す、探すのが今するべきことに近いはずだ。
とりあえず、明日になったら学園の適正目録でも見ようかと思っている。
在校生の中から、そういう特別な適正、スキルを持つ者がいるかもしれない。
俺は、そんな期待に任せることにして、家に戻った。
シオンとカレンは既に寝ているようで、明かりは点いていない。
俺は、テーブルの上に置いてあった温かそうな料理を食べてから、部屋に戻った。
しっかりと、カレンに感謝の気持ちを伝えるのは、明日でも大丈夫だ。
今は、かなり眠くて身体が重かった。
(はぁ・・・・・・・。明日も、頑張らなきゃな)
深い眠りに落ちる俺は、寸前にそう考えた。
それが、別の意味でも頑張らなくてはいけないことになるのは、もう少し先だ。
◇◆◇◆◇◆◇
レビテント王国の隣にある国。
ゼスファイア帝国という名のその国では、とある会議が行われている。
それは、この世界でも最も大きな戦いのことだ。
「それで、帝国の戦力は?」
「は!歩兵三万、騎兵一万五千、魔道兵一万、重鎧兵五千、遊撃部隊二千、とのことです!」
「ご苦労、では王国の予想される戦力は?」
「ハッキリとは不明、区別も難しかったのですが、総戦力で五万ほどかと」
その言葉に、相手の男は難しい顔を浮かべた。
そして、溜息を吐いた。
「そうか。ならば、残り五年で、兵力を十五万にしろ」
「!!・・・・・・・・・・・は!」
密かに、帝国の軍備は整っていく。
◆◇◆◇◆◇◆
一方、王国側でも密かに軍備が行われていた。
これは、帝国に放った草から、戦争の準備をしているとの報告が入ったからだ。
「帝国の兵力は?」
「は!推測で、四万ほどかと」
「王国の兵力は?」
「は!現在は五万ほどです!」
その対応に頷いた国王は、次いでニヤリと笑みを浮かべた。
そして、目前にいる軍務卿も、笑みを浮かべた。
「では、王国の”戦力”は?」
「十万は”一人”で相手が出来ると報告が」
二人の笑みは、さらに深くなった。
これから、数年後に起こるだろう悲劇は、静かにその芽が育ってきている。
始まるのは、戦争か、虐殺か、それは、未だ誰にも分からない。
◆◇◆◇◆◇◆
王国の北側に帝国が位置する。
その反対、南側の王宮でも、会議が行われていた。
此処、ルーロラン王国では、生物の使役が活発となっている。
それは、鳥から熊、魔物にも及ぶ。
この国の王女である、シーラは、その才を生まれた時から持っていた。
正しく、才能の塊という存在だ。
その王女が、14歳の時に見た光景によって、会議が開かれている。
シーラが使役するのは、<過去を視る鳥>だ。
「では、たった五歳児が我が国で暴れていた盗賊団を滅ぼしたと?」
「はい。私にはそう見えました」
此処には、国の重鎮達が集まっていた。
そして、シーラと国王が対面するように座っている。
「小人族の可能性は無いのだな?」
「ええ。それに、小人族は魔法の使用が不可能です」
その通りで、小人族には魔法技能のスキルが一度も現れない。
それは、その代わりに精霊という存在との会話が出来るからだ、と考えられている。
「その子供は、今で何歳程度だと思う?」
「七歳です」
「!!・・・・・・・・・・・・・・・・そうか。それが彼か」
「何か知っているのですか?」
納得したような国王とは反対に、シーラはまったく分かっていないようだった。
流石、一日中鳥を使役していた人物の知識は低い。
「数週間前に、緑龍が七歳の人族に討伐された」
「な!?」
「・・・・・・・・・・・・・・これは、世界に何かが起きる始まりなのか・・・・・?」
その発言に答えられる人物は、此処にはいない。
無言が支配する中、国王とシーラは今後について考え始めた。
既に、先ほどの発言など頭に無いようだった。




