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world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
少年期
30/101

目覚め始める変化





最近、妙に身体がウズウズするようになってきていた。

別に怪しい薬を飲んだとか、怪しい罠に嵌ったとか、断じて違う。

純粋に、何かの感情に本能が揺さぶられているのだ。


俺が貴族となってから、既に二週間が経過した今。

俺は初めてこんなに破壊衝動に駆られていた。

なんだか、周囲のものを破壊したくて堪らないのだ。


現状では耐えられているが、それも難しいかもしれない。

毎日、少しずつだがその衝動が高まっているのだ。

それに、全体的な感覚としてもその感情に身を委ねようと考えてしまう時もある。



「あ~~~~~」


「また壊したくなったの?」



少しだけ呆れたように、カレンがそう言った。

といっても、この衝動はどうしようもないのだから。

治そうといろいろな手段を試してみたが、効果が無かった。


じゃあ、なんでこうなったのか、というのも不明なままだ。

妙な胸騒ぎもするし、決して良いことでは無いのだが、どうにも気になる。



「う~~~~~~」


「ちょっと!少し五月蝿いわよ?」


「だって~~~~」



流石にカレンには申し訳ないのだが、俺は声を漏らし続ける。

今、俺は急に暴れないように魔力を封じる指輪を着けている。

これが無いと、自分でも少し恐怖を感じるのだ。


押し寄せる破壊衝動に耐えながら、俺は窓の外を眺めていた。

そこで、空が一瞬光ったのを見た。



(ん?)



その方角を注視すると、小さい何かが見えた。

その何かは、少しずつ俺の方角に降って来る。



(え?ちょっと待ってよ・・・・・・・・!?)



そんな願いも空しく、その存在は俺の部屋に飛来した。

その存在が放つ、膨大で強力な魔力を肌で感じ、俺はすぐさま指輪を外す。

途端に、破壊衝動が襲ってきた。


それを全精神を使って抑えながら、俺はその存在を睨んだ。

煙が立ちこんでいたが、すぐに消え去り、破壊された壁から光が差し込む。

俺の視線の先には、一人の男性が立っていた。



「お前は、誰だ?」


「おお!やっぱり主人公はこうでなくっちゃ!!」


(は?)



低い声で尋ねて、返って来たのは独り言だった。

確実にコイツは頭が可笑しいのだと考えてしまうよ。

しかし、主人公なんて言葉はこの世界に無かったはずだ。



「お前は誰だ?」



今度は、軽く威圧も込めて聞いた。

すると、男性は振り返り、そして笑みを浮かべて言った。



「異邦人、と言えば伝わるかな?」


「・・・・・・・・・・・・」



知っている。

異邦人とは、古の時代に神により遣わされた異世界の住人のことだ。

そして、この男の言葉から創造すれば、恐らく”同郷”だろう。



「リュウ君。この人と、なんて話してるの?」



そこへ、カレンが割って入って来た。

その顔は、困惑と不安が入り混じっている。

男は、そんなカレンの顔を見て、酷く嬉しそうに笑みを浮かべた。



「第一ヒロイン発見!!これは、俺様のハーレム人生が到来か!?」



どうやら、言語の違いには気付いていないらしい。

この男が話している言語と、この世界の共通言語はかなり違う。

それならば、話が通じる訳も無いだろう。


俺の場合は、最初にこの男が使っていたのが”日本語”だったからだ。

そしてなによりも、この男が危険だと感じている。

この男は、先程から自分が主人公か何かだと勘違いしてやがる。


この世界での死はそのままの意味を表す。

俺達の世界の認識では、この世界では一週間も生き延びれないだろう。

俺は、不安そうなカレンの顔に視線を合わせて、ニッコリと笑みを浮かべた。



「俺の問題は、俺が後始末をするよ。カレンは、終わった後の後始末を頼めるかな?」


「・・・・・・・・・・・はぁ~。じゃあ、すぐに終わらせてよ?」


「ああ」



そこで振り返ると、やはり余裕そうな表情の男が立っていた。

この男からは、膨大な魔力を感じるが、それを扱うための技能を感じない。

薄く笑みを浮かべて、俺は告げた。



「この世界に、邪魔者はいらない」



その一言は、男の顔をトマトのように真っ赤に染めるには充分過ぎた。

一瞬にして魔力の高まる気配を感じて、俺は自然と意識を切り替える。



「・・・・・・・・・・”炎獄”!!」



怒り狂った男が魔法を発動させるのと同時に、俺は結界を張った。

これで、俺達の戦いの被害が周囲に及ぶ心配は無い。

それに、戦いは一方的に終わらせる。



「はははっ!!カッコつけてその程度かよ!?だっせぇ!!」



炎の包まれた俺の姿を見て、男は笑っている。

死んだ姿すら見ていないのに、何故この男は勝った気でいるのだろうか。

俺は、そのまま前に進んでいく。


この炎は、確かに高威力なのだが、その魔力の使い方が悪過ぎる。

全体に均等になるように魔力を使っている所為で、俺の場所も含めて全ての場所の威力が落ちている。

なによりも、俺の周囲に張り巡らさせた氷の結晶に防がれている。



「この程度なのか?」



そう言いながら、俺は炎から姿を出した。

その身体には、傷一つたりとも付いていない。

そんな俺を見て、驚愕した顔を見せた男だが、すぐに切り替えた。


その判断だけは、少しだけ賞賛出来るな。



「”金属変換”!!」



俺を包んでいた炎が金属に変わり、俺の周りを固めた。

氷も一緒に潰された所為で、防壁の代わりが無くなった。


_しかし、逆に固めた金属程度ではダメージを与えられない。


俺は、金属の壁を殴り壊して、前に進み始めた。

今度こそ男は恐怖したような表情で後ずさった。



「な、なんなんだよお前!?なんでこんな強い敵が序盤から出て来るんだよ!!?ふざけるなよ!?俺は__」



その口から吐かれる暴言の数々に呆れた俺は、その口を塞いだ。

もちろん、物理的にだ。

男の首が、空中を舞っている。


それより下の身体は、重力に従って倒れていく。

この程度で最強を気取っているのは、流石に侮辱にも感じられた。

やはり、異邦人という存在には注意が必要だ。


俺は、結界を解除して、後始末をするカレンに笑みを浮かべた。

カレンもその視線に気付き、次いで笑顔になって微笑んだ。

気付くと、先ほどまでの破壊衝動が少しだけ収まっている。


恐らく、魔力を使用したのか、異邦人を殺したことで少しだけ軽減されたのだろう。

異邦人の場合は、一つの世界にいられる人数は一人、とかそんな感じで。

まあ、なにはともあれ、その関連する類のものは要実験が必要だろう。


そう決めて、俺は部屋の修復を始めた。









   ◆◇◆◇◆







「コノチカラハ?」



暗闇の中、蠢く影はそう呟いた。

すぐ近くから感じた天敵の気配。

それに反応して、影の身体から黒い瘴気が漏れていく。


それによって、暗闇を囲う柔らかいナニかは小さな刺激を与えられていった。

それは次第に、広範囲へと渡り、また、その感情を受け取っていく。



――全てを破壊したい――


という感情へと。

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