動き出す世界(2)
そよそよと風が吹き、草花を揺らす。
太陽の光が爛々と大地を照らし、その恵みを与えている。
そんな、明るい空間には、二人の少女が集まっていた。
「転生した創造神様の最後の願いを叶えました」
「じゃあ、しっかりと転生できたの?」
「ええ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その少女達の片方、転生神であり、ミュアと”名付けられた”少女は遠い目をした。
それを見て、もう片方の少女、太陽神のセラと”名付けられた”少女は苦笑した。
彼女達は、ともに歩む者の、最後の願いを叶えるのが務めだ。
やがて、ミュアの瞳に薄い涙が浮かび上がった。
セラには、ミュアが何を考えたのかは分からないが、それでも悲しそうな雰囲気は感じた。
ミュアは、涙を拭うこともせず、セラの膨らんだ胸に顔を預けた。
涙声になりながらも、小さく、しっかりと言葉を紡いだ。
「怒、られ、た・・・・・・・・・・」
「うん」
「生きてないって、機械だって・・・・・・・・・・!」
「うん」
「恨んでた・・・・・・・・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・・・私、任務を完遂出来なかった」
「うん」
「最後に、すまない、って・・・・・!」
「うん」
ただただ頷いて、肯定するこしか出来ないセラは、そんな自分がもどかしかった。
今、自分の腕の中で泣いている少女に、何の言葉も掛けられないのだ。
なんのために自分が彼女を支えているのかが分からない。
「創造神様は、本当に記憶を失くしたのかな・・・・・・・・・・」
その言葉は、セラの頭に大きく反響した。
ミュア以外の神達、それも少数にしか伝わっていないこの事実。
それは、ミュアだけには伝えてはならないものだ。
しかし、ミュアが静かに告げた言葉は、酷くつらそうだった。
「知ってるの。セラ達が何かを隠していることを。お願いだから、教えてよッ!」
昔の昔、本当に古とも言える太古の話だ。
創造神は、一人の少女と結ばれて、その少女を神の座に付けた。
それが、この目前で泣き崩れるミュアだった。
その、酷く辛そうで、悲しそうな顔を見て、セラは遂に折れた。
そして、静かに、思い出すように話し始めた。
「創造神様は、記憶を持ってるよ」
「!」
「でも、その記憶は、私とミュアによって封印されている」
バッ!と効果音の付きそうな速度で、ミュアがセラの身体から離れた。
その目元が赤くなっているのを見て、セラは罪悪感を覚えた。
「どうゆうこと・・・・・・・・・・?」
「簡単だよ。創造神様は、”運命”の可能性を証明するために下界に降りたんだ。何故だか分かる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!あっ・・・・・・・・・・・・・・」
必死に記憶を探り出したミュアは、その事実に呆然とした。
それを見て、セラは頷いて肯定する。
「そう。創造神様は、私達が運命の存在を否定したからそんな行動を起こした」
「じゃ、じゃあ・・・・・・・・・・・!」
「契約は、人の身でありながら邪神を殺す力を身につけること」
「!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不可能だ。
そんな思いが、ミュアの中で爆発的に膨れた。
彼女が創造神を思う愛情は、並ではないのだ。
深く俯いたミュアの顔は、どんな表情なのか分からない。
しかし、セラにはこの仕草が何かの決心をする時だったと知っている。
そして、それがかなり大胆なことだとも。
「駄目だよ、ミュア。神である私達に、下界に降りる権利はない。降りたとしても、記憶を失くす」
「でも!!」
案の定、ミュアはその気だったようだ。
しかし、セラの言葉で顔を跳ね上がらせた。
その瞳からは、新たな涙が零れている。
「なんで!なんで創造神様は何時でもそうなの!?私は、私は!!」
「ミュアには、神としての義務がある」
「!!」
「それが、ミュアの行動を縛る最高の鎖だよ。それを解き放つためには、私達全てを敵にする」
その、本気の怒りの前に、ミュアは竦みあがった。
しかし、それでも諦めきれてはいない。
「なら、私に出来ることは?」
「傍観することだけだよ」
「・・・・・・なら、転生神ミュアとして太陽神セラに問います。創造神様の補助するための方法を
教えてください」
既に決心したようなその瞳は、簡単には折れそうにない。
溜息を吐き、セラは苦笑した。
「ならば、太陽神セラとして助言しましょう。創造神様が定めた神としての存在は、<全てを管理し、そして、全てを自由にする存在>。ならば、転生神ミュア。貴方は器を管理すれば良いのです」
「・・・・・・・・・・・・助言、感謝します・・・・・・・・・・・!!」
そう告げたまま、ミュアの姿は溶けていった。
これは、自分の部屋として使われる空間に帰るときの合図だ。
それを見て、セラもニッコリと笑った。
「大丈夫よ。他の女性に獲られても、私達には強力な薬があるんだから、ね?」
その言葉に、ミュアは顔を真っ赤にしてすぐに消えた。
この場所には、セラだけが残っている。
セラも、空を見上げつつ、静かにその姿を消していく。
晴天が照らす大地には、ほのぼのとした空気が流れている。
水も、風も、空気も、光も、音も、その全てが、創造神によって創られた世界。
此処は、世界で最も高位の存在が、その一生を懸けて創った世界<アールン>
その世界の主が、この場所に戻るのは、そう遠くない未来なのかもしれない。
けれど、その未来が訪れた時、それは本当にミュア達にとって幸せなのか。
創造神にとって、今では唯一の少女、そして、古に契りを結んだ愛する少女。
記憶という概念の織り成す2つの意識と感情は、神という存在すら狂わす。
謳え謳え、少女よ、少年よ。未来を背負いし命灯す者たちよ。
舞台の上で踊り、謳い、多いに観客を魅せた時、そこには運命の結末が待っているはずだ。




