表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
少年期
28/101

動き出す世界

※三人称視点



深い、深い暗闇の底で、蠢く影があった。

その姿は、真っ黒なシルエットのようで、ただ人の形をしていることしか分からない。

身体中が均等に真っ黒なその影は、瞳だけは真っ赤でいる。



_誰ダ。我ヲ此処カラ出ソウトスル愚カモノハ。



その低く冷たい声が響くが、その場所に他の生物の気配は無かった。

しかし、その影は尚も話し続けた。



_オ前ノ探スモノハ、コノ場所ニハ存在シナイ。



やっと、その話し声に反応する影が現れた。

それは、この暗闇の中で、ほんのりと輝く小さな光だった。

それが影の近くで揺れて、何かを告げるように左右に浮遊する。



_ソウカ・・・・・・・・・・・・・・・時代トトモニ世界モ変ワル。ワレヲ忘レヨウトモ、ソレガ変化トイウモノダ。



その言葉は、何処か寂しそうに聞こえる。

暗闇の中に響くのは、影の声だけだが、何故だか音が聞こえる。

それが幻聴だと理解しても、恐怖には抗えないのだ。


この影の存在は、そうして恐怖を感じた者を”食べてしまう”

それが、どうしても無意識なことだから、この影は此処に篭っているのだ。

例え、数千年の歴史の中で、たった一度しか姿を現さない生物だとしても、この影に近寄る者はいないだろう。


世界の敵として認識されてから既に四〇〇〇年が経過している。

それでも尚、この影は世界が怖くて、自分が怖くてたまらないのだ。

そんな影の姿を見て、光はまた揺れた。



_緑龍ガ・・・・・・・・・・・・遂ニ、奴ニモ限界ガ来タノカ?



_!・・・・・・・・・・・・・人ノ身デアリナガラ、龍ヲ討伐シタ少年、カ・・・・・・・



その真っ赤な瞳が、少しだけ揺れたのを、光は見逃さなかった。

その揺れが、例えどんなものだろうと、影にも心があると証明するものになるからだ。

どんなに自分が悪魔で冷酷な存在と蔑んでも、その心の奥底は違う。


光は、懸命に影に向かって揺れ動いた。

その姿は、まるで光自身が何かを伝えたいようにも見える。

しかし、その揺れが表すのはただ影に対する言葉だけである。



_時代ハ変ワッタ。ワレヲ必要トスル存在モ、モウイナイ。此処デ朽チルノガ本望ダ。



だが、その言葉を聞いた瞬間、光は強烈に反応した。

その姿を維持する魔力が少なく、存在が希薄になっていくのもお構いなしに、必死に横に揺れている。

まるで、その言葉を否定するように。


しかし、既に暗闇に沈んだ心を持つ影には、その意味が伝わらない。

流石に消えることも出来ない光は、酷く落ち込んだ雰囲気を残しながら、動きを止めた。



_去レ。貴様ガ何故、ワレニ恐怖ヲ抱カナイノカハ不思議ダガ、ソレデモモウ殺シタクハ無イ。



光は、その言葉を聞いて、少しだけ寂しく、それでいて嬉しそうな雰囲気で去っていった。

また、次に会うのは明日なのだろうが、それだけで満足なのだ。

光の存在である”彼女”が、影の存在である”彼”とともに歩めるのは、この時間だけである。


彼女の思いは届かず、彼の心は帰らない。

一生届かないその思いの二つは、それでも幸せだと、心の奥で感じていた。











____しかし、ある日の夜だった。



この暗闇では、何時でも暗いのだが、それでも夜の方がさらに深淵に近い。

ほとんど前が見えないその空間で、今日も二人は会話をしていた。

話す内容は彼女が外で見たり、聞いたりしたことだが、それでも楽しい。


そこで、とても懐かしく、そして驚愕する声が聞こえた。


『我は盾であり、剣である』


その言葉を、二人はとても良く知っている。


_それは、大切な者を守る誓いであり、


_それは、脅威を葬る誓いであり、


_それは、二人が最も愛していた存在が”最後”に告げた言葉だ。


この言葉の先を、二人は知っている。

なによりも、この言葉の先こそが、二人を繋ぐ最後の糸なのだから。

そして、その声は、酷く懐かしい声と雰囲気で、それを告げた。



『例え、この血が途絶えようと、例え、この時間が消え去ろうと、例え、誰かが消えようと――



――決して途切れることの無い、この思いは永遠に、私の命だ。


裏切られても、怨まれても、悲しまれても、軽蔑されても、罵られても、見下されても・・・・・・・・・・・


例えば、この世界の全てのものが敵になったのだとしたら、その時は私が駆けつけよう。


――また、何時か、この世界で、私達が集まり、笑い合えた、その日々が来る』



二人は、その頬を垂れる涙に気がついた。

もう既に、長い間忘れていた感情だ。

寂しくて、辛くて、悲しくて、怖くて、そしてなによりも、世界が敵だった。


その時を最後に、この感情は忘れていたものだ。



_情ケナイナ、我ワ。一人デモ、生キテイケルト、ソウ約束シタノニ・・・・・・・・・!



浮遊する彼女は、話せない口でも、それでも思いの全てを心で告げた。



_もう、泣かない、って、後悔しない、って、決めたのになッ・・・・・・・!!



止まることの無い涙は、その暗闇の黒を消していく。

影の心の奥底にあった鎖が途切れて、その心が浮上してくる。

それと同じように、暗闇も薄れていく。


影を覆っていた黒いものが、その存在を消されて消えていく。

その中からは、一匹の銀色の毛をした狼が現れた。

その瞳は、先程までと同じだが、何処か違う、紅の色をしていた。


光も、その姿を輝かせて、その枷から解放されていく。

その姿を、これまた一匹の金色の毛をした狼に変えた。

瞳の色は蒼になり、その視線は目前の銀の狼を捉えて離さない。


銀の狼もまた、その瞳から視線を外さなかった。

決して伝わるはずの無いその思いは、願いは、かつて消えた彼が救ってくれた。

届かないはずだったその言葉が、今では息をするように吐き出せる。


二人は、その身体を寄せ合って、静かに瞳を濡らして泣いた。




――この世界に現れた”異常”によって、静かに、各地での運命は動き始めていた。


2人の狼が互いに人生を共にした友人は、もういない。

それでも、2人は新たなる世界へと、その一歩を踏み入れる。

まるで、それが運命のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ