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world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
少年期
27/101

緑龍討伐




緑龍。


その存在は、王宮の図書館で一度だけ登場した存在だった。


_遥か古の時代より森の番人と


_生ける伝説となった守護者と


_全てを破壊する天災生物と


そのどれもに、ただ一つ記されている言葉がある。



_人の身での対峙は不可能。



つまり、人間の器の大きさでは、龍との対峙には圧倒的に敵わないということだ。

どんなに超人でも、勇者でも、英雄でも、限界は存在する。

その限界を超越するのが、種族という差であり、個としての壁なのだ。


だから、人間の俺が勝つことはほぼ無理だと考えても良いだろう。








_だが、俺が人間を”辞める”ならば、勝機はあるということだ。






何故だか知らないが、あの緑龍は正気を失っている。

今の状態では、視界に入る全てを破壊するただの化け物に成り果てるだろう。

それだけは、なんとかして止めなければならない。


まずは、小手調べだ。



「”限界突破””魔法”!!」



二つの統合された魔法を発動して、自身を強化する。

同時に、龍の周囲に魔法陣が展開される。



「”氷の狙撃手”」



威力と速度が遥かに高いその魔法が、全ての魔法陣から放たれた。


しかし、龍の鱗を貫通するには遠い。

僅かに跡を残すことは出来ているようだが、圧倒的に威力が足りない。

顔を顰める俺の横から、尻尾が飛来した。



「カハッ!?」



それは、寸分違わずに俺の鳩尾に直撃した。

一瞬、頭が真っ白になったが、地面に激突した衝撃がそれを許さない。

龍から吹き飛ばされるように何回も跳ねながら転がっていく。


やがて、止まったのは学園の校舎のすぐ前だった。



(クソッ!!)



どうしようもなく舌打ちしたい気分だが、そんな余裕は無い。

ぼんやりとする頭で龍の姿を探すと、目前にその巨体を見つけた。

その大きく、鋭い爪が振り下ろされる。



(間に合え!!)



寸前で、その爪が弾かれた。

俺の周囲には、爪を弾いた正体である結界が張られている。

これは、龍の魔法と同じ、自然の魔力を用いた結界だ。


破壊するには、かなり高威力の魔法を龍が放つ必要がある。

準備が整った俺は、一気に攻勢に出た。



「シッ!!」



地を蹴り、龍の翼の付け根に飛び上がる。

その場所に降り立つと、やはり感触はかなり柔らかいものだった。

手に握る魔力剣を、その翼の付け根に向けて、一閃。


ザシュッ!


鮮血が溢れ出す音と同時に、その大きく、迫力のある片方の翼が落ちた。



「ガアアアアアア!!!??」



途端に悲鳴を上げる龍によって、学園の敷地は荒らされていく。

もったいない、という考えは捨てて、俺は龍のもう片方の翼を見据えた。

手に握る剣の感触は、万能感を感じさせるほどに心強い。


横目で見れば、その刀身を紫のオーラが覆っている。


視ることで魔力の流れが分かるが、どうやらこの剣自体が発しているようだ。

理屈なんてものを考える暇もなく、暴れる龍は俺目掛けて尻尾を振り回す。


結界でダメージは防げるが、かなりの衝撃が俺を襲っている。

歯を食いしばり、俺は上空に吹き飛ばされた。


目を開くと、真下には龍の尻尾と、此方を向く顔があった。


その後ろに無防備に備えられた翼目掛けて、俺は剣を振るった。



「ハァッ!!」



刹那、俺の目前には血が見えた。

咄嗟に氷の壁を発生させて防御して、そのまま地面に激突する。

急いで立ち上がり、振り返ると、そこには両方の翼を失った龍が佇んでいる。


その瞳は真っ赤に血塗られており、視線だけでその殺意が伝わってくる。


俺は、そんな緑龍の姿を見て、その顔に薄い笑みを浮かべた。

やはり、これなら殺すことが可能なようだ。

ならば、塵も残さずに全てを殺すことも可能だろうか?


だんだんと笑みを深くする俺に、緑龍は小さな息吹を放った。

しかし、俺の結界に阻まれて、無様に霧散していく。



「さあ、狩りの時間だ」



そう小さく呟いた俺は、未だ暴れ回る緑龍に狙いをつけた。

此方に攻撃が通じないと理解した緑龍は、周りを先に排除しようと考えたようだ。

しかし、人間だからって舐めていたら甘いのだよ。



「”天光”」



天より降り注ぐ光が、龍の皮膚を焦がす。

俺は、その足に大きく力を入れて、踏み出した。

狙うは、一直線に緑龍の首辺りだ。


ダンッ!!


大きな音とともに、俺の姿は消えた。

疾走する俺の背後から音と風圧が現れる。

目前に迫った龍の首目掛けて、俺は止めの一撃を放った。



「”斬覇”!!」



物凄い剣圧と風圧が巻き起こり、血の雨が降り注ぐ。

落下する龍の首を見ると、驚愕した顔が浮かんでいた。

ニッ、と俺は笑みを浮かべて、その額に、剣を突き刺した。


ザシュッ!!


抵抗も無く額を貫いた剣先から血が垂れて、地面に零れた。



空から光が降り注ぐ時間帯、血を流しながら倒れた龍の死体の上で、俺は立っていた。


右手に握る剣の輝きは、魔力だけでは無く、生きているように鼓動する。


爛々と太陽が照らし、その鼓動の輝きは増していく。



__この世界の歴史に、初めて人間が龍を討伐したと記録された時だった。



【複製により、”言魔法””飛行””魔力操作””無魔法”を取得しました】

__________________________________



翌日の昼頃、王宮前の広場に、王国民の八割が揃った。

残りの二割は、仕事の関係や現在国内にいなかった者達だ。

集った国民たちが見上げる先には、少しだけ礼装した俺の姿がある。


その隣に、カレンが美しいドレスを着て立っており、なんだか少し顔が赤い。

俺も若干頬が熱いのは自覚しているので、何も言えないのだ。

そんな俺達の前に、威厳たっぷりの金と赤の色で作られたマントを羽織った国王がやってきた。


その顔は笑顔が張り付いており、なんだか笑っているようにも見える。

その表情が物凄くムカツクのは、俺だけなのだろうか。

俺の目前で止まった国王に、俺は跪くようにして、手を前に出した。



「リュウ・シルバー。王立学園を襲った緑龍の単独討伐、そして、危機的状況でもその任務を遂行する胆力と覚悟を認める。この功績から余は、”龍殺し”の称号と、”名誉貴族”の地位を与える」


「はっ!」



最後まで告げた国王は、俺の手に、銀の剣を乗せた。

それを、しっかりと受け取った俺は、その剣を胸の前で握った。

真っ直ぐ上空を向く剣の刀身は光を反射し、王国への災いを跳ね返すという言い伝えだ。


この剣を持つ限り、他国に対しての戦力となり、他国に対する防衛の役割を果たすことになる。

それが、名誉貴族という地位の対価として俺が払う義務だ。



(ならば・・・・・・!)


「”我は盾であり、剣である”!!」



その言葉とともに、俺の身体が輝き出した。

幻想的な輝きに包まれて、俺は身体が軽くなった気がする。

今なら、空だって飛べるかもしれない。


行ったのは”言魔法”というものだ。

これは、<自身の言った言葉を縛り、自身を強化する>という魔法。

制約として、幾つかの言葉だけしか縛れないのだ。


何よりも、その言った言葉が達成出来なかった場合は死ぬ。

破棄するには、自身の考えがまったく別のものになる必要があるのだ。

そんな、自身に呪いを掛けるような、魔法を使って、俺は誓った。


そろそろ本気で、最強を目指した方が良いのかもしれない。

そんな、不安にも似た考えが、先程から俺の頭を離れない。

もしかしたら、何かが始まるのかも、しれないのだ。





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