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world a king~異世界転生譚~  作者: 抹茶
少年期
26/101

緑龍




翌朝、学園に編入してから二日目だ。

何時寝たのか記憶が無いのだが、問題が無いのだから大丈夫なのだろう。

リビングに行くと、既にカレンとシオンがいて、俺を待っていたようだ。



「おはよう」


「おはよう」


「おはようございます」



軽く挨拶をしてから、顔と手を洗い、制服を着た。

朝食は、学食を食べることになっているので、学園に向かう必要がある。

生徒達の寮が学園と隣接しているのが羨ましい。


家を出て、訓練場の横を俺達は進む。



「そういえば、昨日の生徒達はどうなったんだろう」


「ミリア先生が運んだ、とか?」


「放置ではないでしょうか?」



昨日からの会話で、シオンについて分かったことがある。

彼女は、かなりの毒舌だ。

そして、それを無意識に使っているのだから恐ろしい。


苦笑する俺とカレンに、首を傾げたシオンは言った。



「それか、負けた、という事実で退学とか?」



やはり、彼女はかなりの毒舌持ちだというのが分かった。

進みはかなり速いのだが、学園が遠い。

まだ、学園まで、かなりの距離あると思うと明日からが憂鬱だ。


密かに溜息を漏らした俺は、空を見上げて、また前を見る。

遠くに見える学園からは、たくさんの気配と魔力を感じられる。


やはり、王立というこの学園はかなり高い水準のものが来ているのだろう。


暫く進み、学園の校舎にやっと辿り着いた。

本当にこれから通うのが面倒に思える距離なのが残念だ。


まあ、それでも通うのは確定しているのだけれど。


食堂に入ると、物凄い量の視線を感じる。

その中には、興味、嫉妬、尊敬、軽蔑、憤怒、かなりの種類があるようだ。


やはり、不特定多数からの視線とはこういうものなのだろう。



「カレンは何食べる?」


「私は定食でいいわよ?」


「了解」



返事をした後、食堂の人に定食を頼んだ。






  ◇◆◇◆◇◆◇






朝食は、ほとんど問題なく終了した。

途中、五月蝿い貴族の小僧が来たこともあったが、とりあえず威圧して追い払った。

俺もカレンと同じ定食を選んだのだが、かなり美味しいことが分かった。


これなら、確かに学園の食堂に通うのもアリな気がする。

それで今は、三人で教室に向けて進んでいる。



「そういえば、リュウは選択学科何にするの?」



そう聞いてきたカレンに、俺は首を傾げた。

それを見て、カレンは小さな溜息を零した。



「選択学科っていうのは、戦闘術、魔法術、錬金術、鍛冶、の四つから自由に選んで出席する授業のことよ」



(そんなのがあったんだ・・・・・・・・・・)



俺がこの学園に対してかなり無知なのを思い知った瞬間だった。

まあ、今はカレン達がいるから無理だが、時間が空いたら覚えることにしよう。

そう決めて、俺は話に戻った。


とりあえず、名前だけなら戦闘術と魔法術の二つだ。



「リュウ、貴方戦闘術と魔法術の二つを選ぶのよね?」


「え?なんで分かったの?」


「私も、伊達に貴方の婚約者じゃないってことよ」



そう告げて小さな胸を張るカレンは可愛らしい。

無意識に頭を撫でていたのは、まあ当然だろう。



「はぅ~~」



可愛らしい猫のような反応をするカレンが愛おしい。

ただ、学園の中なのだから自重しないと駄目なのも事実だ。

少しだけで手を離した。


残念そうな顔をするカレンに気持ちが偏りかけるが、なんとか我慢した。

代わりに、一言だけ、囁くことにした。

カレンの耳元に口を寄せて、息を吹きかけるように告げる。



「帰ったら、一杯ね?」


「にゃぅ~~~~~!」



悪戯が成功した俺は、笑顔で話しに戻った。

それを見て、カレンが嬉々としているが悔しそうな複雑な顔をしている。



「まあ、カレンの言うとおり、俺は戦闘術と魔法術を選ぼうと思ってるよ」


「私は、魔法術を選んでいますね」


「・・・・・・・・・・・私も、戦闘術と魔法術よ」



少し渋々といった顔で告げるカレン。

ただ、その告げた内容は俺にとって幸運だった。

これで、二人ともと一緒に授業が受けられる。



「選択学科は、何時から始まる?」


「確か、三ヵ月後の試験の成績から決められたはずです」


「じゃあ、それまでは普通の授業か」



三ヵ月後ならば、それなりの期間がある。

その間に、強くなることも必要だろう。

俺は、まだ見ぬ試験に向かって、物凄く意気込んで授業に望んだ。






    ◆◇◆◇◆◇◆(※三人称視点)





~??の森、深層樹海の狂場~


人々にとって、最高の難易度を誇るこの森の主、緑龍。

彼は既に長い年月を生き、そして尚、その生態は健全である。

そのため、それが見つかったのは必然だったのかも知れない。


眠りから覚めた彼が見たのは、可愛い配下だった狼たちの死体。

その身体の至るところに人間の持つ武器、剣の切り傷が残っている。



『ニンゲンドモメ!!ワレトノケイヤクヲワスレテ、コノモリニ、ハイルトハ!!!』



怒り狂った緑龍は、その身体から発せられる最大限の咆哮を放った。

その咆哮だけで、森の木々が吹き飛び、地面が抉れ、生き物が死に絶える。


そんな破壊活動が、龍の咆哮だけで行われた。


そのまま、血走った龍の目は、遥か遠くの大地を見据えた。

そして、その口に、大気中の大量の魔力が収縮される。

その姿を見た人々は、誰しもこう言うだろう。




―――天災だ、と。




魔力の量は、既に一国にも匹敵する膨大さになっている。

それを、口の中で一つの塊として凝縮させた。



『ホロビヨ!!』



その魔力は、一瞬だけ輝き、遥か遠くの大地へと放たれた。

龍のみが扱うことが可能とされる自然の魔力。

それを大量に凝縮させたその攻撃を、古の民はこう名付けた。


――息吹、と。


その場から飛び立った緑龍は、そのまま自身の放った息吹の場所目掛けて飛行した。

その顔には、一切の知性が宿っておらず、ただの獣と化していた。

この緑龍が向かったのは、必然か、偶然か、それはリュウの通う、学園だった。






  ◆◇◆◇◆◇◆





授業中、俺の物凄く広範囲にわたる索敵に、反応があった。


(マズッ!!?)


その反応は真っ直ぐに此方に飛来しており、何よりも速度が速すぎる。

授業中であることも忘れて、俺は席から立ち、東の空を睨みつけた。

その方角の、遥か、遥か遠くに、一筋の光線が見えた。



(息吹ッ!?)


「全員、全力で魔力防壁を張れ!!!」



大声で叫び、俺は窓を割って空中に躍り出た。

どうやら、生徒達はしっかりと防壁を張ってくれたようだ。

俺が視線を変えると、そこには既に近づいている息吹が見える。



(こうなったら、賭けるしかないッ!!)


「”魔力凝縮”!!」



自然の魔力は既に俺の色で染まっている。

それを、手の平に全力で凝縮させた。

息吹から感じられる魔力量は、今から本気で集めれば足りる。


問題は、放てるかどうか、だ。

しかし、それは実験する暇もない。

だからこそ、これは賭けなのだ。


凝縮された魔力は、輝かしい光を放っていた。

息吹は俺よりも遥かに巨大になっており、王国全てを飲み尽くそうとしている。



「させるかぁ!!!!」



大声で叫び、俺は光を前方に向けて解放した。

輝きは一瞬、風圧は膨大、被害は甚大、しかし、魔力は放たれた。

空中で激突し、その余波で周りが破壊されていくが、留まっている。


明らかに異常な光景だが、今だけは少しだけ幻想的に見える。

魔力量は未だほとんど残っているが、体力が少し心配だ。

俺の方角に飛来する、その馬鹿みたいに強大過ぎる魔力を持った存在との戦いには。





__その方角を睨みつける俺の視界に、緑の龍が映っていた。

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