襲撃と・・・・・
ギルドで達成報告をした俺とリリナは、仕方無く屋敷に戻って来た。
ただ、リリナの雰囲気が明るく、笑顔があるのは嬉しい。
貴族街を進み歩くと、昨日と同じ様な驚きを感じる。
「大きいねっ!」
「広いな~」
巨大な壁に囲まれた屋敷は、やはり慣れるわけも無く、感嘆する。
此処までの大きさ、広さをつくるのにどれだけ手間が掛かったのやら。
それに、この広さは少し無駄な気がする。
そんなことを考えながら、俺は屋敷の門の中に入った。
朝、出る前に渡された鍵を使ったのだ。
庭もやはり広大で、そして綺麗な花々が咲き誇っている。
一部荒れ果てた場所があるが、そこは気にしないでほしい。
あ!リリナ、お願いだから俺をそんな落ち込んだ目で見ないで!俺も壊したて壊したわけじゃないんだ!
そんな心の叫びなど届かず、リリナは俺に落ち込んだ目を見せた。
この綺麗で爽やかな景色も、一部の所為で台無しなのだ。
本当に居心地が悪いため、俺はすぐに歩き始めた。
そんな俺を見て、リリナがクスッ、と笑ったのは怒れない。
若干恥ずかしい気持ちになりながらも、俺は屋敷の扉の前に着いた。
そういえば、クルスさんの貴族階級は何なのだろうか。
そんな疑問が出たので、後で聞くことにした。
扉も貰った鍵で開くと、そこは昨日と同じ広い玄関?がある。
そこを少し緊張しながら通り過ぎ、俺は朝の記憶を頼りに廊下を進んだ。
何故か使用人は一人もおらず、屋敷の中は解散としている。
その吹き抜けた廊下が、響く足音が俺の緊張感を高める。
それと同じくらい、嫌な予感がする。
俺の身では無く、大事な人、大事な物、何かが、このままでは失われてしまう気がする。
なんでかは分からないが、そんな危機感に迫られて、俺は自然と動いた。
俺は、急ぎ足で廊下を進んで行った。
キン!
その金属音が聞こえたのは、部屋まで半分程度の道のりを進んだ時だった。
たった金属音一つなのに、それが”剣同士の衝突音”だと理解出来た。
何故か、これが”戦闘”だと分かっている。
しかし、それだけの予感があれば俺を走らせるのに十分だ。
俺は、自然の魔力を俺の魔力で侵食しながら、廊下を疾走した。
キン!キン!
金属の音は次第に大きくなり、そして俺には分かる。
もう少しで、片方の剣、受けに徹している方の剣が”折れる”。
もし、これが俺の知り合いだったら駄目だ。
俺はさらに足に力を込めて廊下を疾駆した。
やがて、遠目に廊下の一部の壁が崩壊しているのが見えた。
次の瞬間、誰かがその外に吹き飛んだ。
(クルスさんッ!!)
その人物、クルスさんは吹き飛ばされている間も手を離さない。
その先には、カレンの姿があった。
「リリナ、待ってろよ?シッ!!」
リリナの手を離し、俺は廊下をさらに加速した。
何人もの使用人が廊下に倒れている。
それと同等に、黒いフードに包まれた者達が息絶えている。
吹き飛ばされたクルスさんは、反対側の壁に衝突して止まった。
そこへ、黒い影が疾駆する。
その速度は、組織的なものだと理解出来る。
恐らく、クルスさんの命か、カレンの命、はたまた両方を、だろう。
それだけは、止めないといけない。
「”閃光”!!」
瞬間的な加速を得た俺は、廊下を疾走した。
フードの人物がその短剣をクルスさんの首に突き立てるその瞬間。
キン!!
俺の炎の刃が間に合った。
そして、相手の短剣を中間から折れて飛んだ。
「”魔力剣””反撃””対処””適応””察知””絶空”!!」
自身を限界まで強化して、俺は相手を見据えた。
新たに現れた俺を警戒しているが、戦いを止めるつもりは無いようだ。
鑑定で見ると、やはりクルスさんに近いステータスがあった。
【複製により、”疾風”を取得しました】
「”疾風”」
新たに取得した魔法も発動し、俺は剣を構える。
今なら、風よりも速く走れる。
後ろからの風に俺の身体が揺れた一瞬、俺は地面を蹴った。
その異常な加速は、一瞬で剣を相手の首に当てた。
「”一閃”」
その剣を僅かに横にずらしながら通り抜けると、その首を刎ねた。
残った胴体は、少しして倒れ、相手の首は上空に舞い上がった。
その中の顔は、驚くことに女性であった。
そして、その顔の中の口が酷く嬉しそうに歪んでいるのを見て、俺は後ろを振り向いた。
――一1瞬、刹那、そんな短い時間だ。
そんな時間で、クルスさんの首が、弾け飛んだ。
「え・・・・・・・・・・・?」
カレンが呆然とした顔でその消えた首の上を見つめる。
俺も、驚愕と悔しさからその場所を凝視した。
「お兄ちゃん!!魔法を!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は天啓を受けたように魔法を発動させた。
それによって、リリナによる声のお陰で助けられた、一つの大切な命だ。
「”再生”!!」
吹き飛ばされた首の上が戻り、血も吸収されていく。
周囲に幾重にも展開された魔法陣に包まれたその様は、まさに奇跡と呼べるだろう。
その光景を見て、俺は急いで声を荒げた。
「”広範囲・再生”!!」
”再生”による”死者蘇生”の効果は一年以内という長期間。
ならば、この魔法を使えば此処の使用人達は助かるだろう。
さらに、そこから勘に従って対象を選択していく。
敵意や害意、そして味方に殺された者は蘇生させない。
俺の周囲、そして廊下の至る所の魔法陣が展開させ、奇跡が始まる。
その光景は悔しいことに綺麗で、幻想的なものだった。
人が死んだ後だというのに、この光景を綺麗だと思ってしまうのだ。
再生が終わった人たちは、次第に瞳を開いていく。
そして、自身の身体と周囲を見て、驚愕するのだ。
死者蘇生と呼ばれるソレは、古の時代にたった一人しか扱えなかった魔法である。
それは古い記述の一部に記載されているだけで、証明することは不可能である。
その存在自体があやふやで、そして不確かなものだ。
クルスさんも、その驚く者達の中の一人だ。
「これは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一人で手を見て呟き、周囲を見回した。
そして、死んだ者達が生きているのを見て、目を見開く。
「お目覚めかな?クルスさん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・リュウ殿、なのか?」
「そうですよ」
「これも、きみが?」
「ええ」
「蘇生を、か?」
「ええ」
「何故?」
そう聞いてくるクルスさんは、不思議なことに少し怒っているようだった。
しかし、俺は正直に答えるまでだ。
「この国に、俺に、カレンに、人々に必要とされているからです」
「そう、か・・・・・・・・・・きみを見つけたカレンには、しっかりと褒美を渡さないとな」
俺の答えに対して、クルスさんの怒りは収まった。
恐らく、ちゃんとした理由が無い場合には、蘇生の危険性から怒るつもりだったんだろうな~。
なんて思いながら、俺は苦笑した。
「ははは。それはカレンも喜びますね」
「それでは、全ての後始末をしなければな」
「頑張ってください」
そう言って応援すると、クルスさんは笑みを浮かべた。
そして、使用人達の方を向いて、俺に告げた。
「ありがとう、リュウ君。・・・・・・・・・・・カレンとの生活、楽しめよ?自慢の娘だ!」
「・・・・・・・・・・・ははっ、はははははは・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は、苦い顔を浮かべることしか出来なかった。
俺の後ろには、カレンがいる。
確実に、クルスさんの言葉は届いているだろう。
しかし、俺に取れる選択肢なんて存在しない。
なにより、俺が招き、そして受け入れた事実なのだから。
(これから、大変だな・・・・・・・・・・まずは、強くならないと)
今後を見据えた俺は、振り返って告げた。
「カレン、これから宜しく!」
ちなみに、リリナには1日デートを要求された。




